友人の蹴りが凄かった件(side六花)
六花をずるずると引っ張っていくのは、先ほどの女性、葛葉である。たおやかな外見に反して、力が強い。
「あのーー」
「間もなくいらっしゃるそうですから、六花さんもお待ちになってください」
あっという間に、元の部屋まで逆戻りだ。
この部屋でスマートフォンをいじるのは嫌だ。何せ機械に強いおヒトが使っているのである。
どこから六花のデータが見られるかは、分からない。用心に用心を重ねるしかないのである。
沈黙が長い。厭世的な友人なら、この沈黙は苦にならないのだろうが、六花は真逆だ。とどのつまりは、しんどい。
早くこの部屋を出たい。
だが、六花を掴んでいるのは、葛葉である。そして、入り口を塞ぐようにたつ、中年の男。その男だけ、六花は見覚えがない。
たった十分が、十時間にも感じられるこの雰囲気が終わった瞬間、紅蓮が吹っ飛んだ。
……吹っ飛んだという言葉には語弊がある。ドアが開いた瞬間、開けた女性が紅蓮の腹に蹴りを入れたのだ。
「兄様!?」
そして、蹴りを入れた女性こそが、六花と晴海の親友であり、極端なほどに厭世的な友人の、夏姫だった。
「りつ」
そして、一息ついた夏姫が、六花の方へスマートフォンを投げてきた。
「りつの番号登録と、葛葉さんの電話番号消去よろしく」
「夏姫さん!?」
「着信拒否は?」
「それも一緒に」
「ほいよーー。あたしとはるちゃんの番号はメロディ変えとくーー」
「ん」
「どうしてそうなりますの!?」
「ふざけたことを仕組んだから。次期当主殿には物理可って言われているし」
誰に言われた!? という突っ込みは、心の中だけでしておく。そして、葛葉の番号を消すのも、今回の報復といったところらしい。
「あちらさんのは、消さなくていいの?」
しっかりとフルネームで登録されているのだが。
「仕事でかかってくるのを消すわけにもいかないでしょ」
「りょーかいーー」
「なっちゃん、その恰好で蹴りはだめだよーー」
「そうじゃねぇだろ!? 鳩尾に躊躇いもなく蹴り入れんじゃねぇ!!」
さすがにそれは苦しいかも。そう思う六花に、夏姫はもっと容赦がない。
「金的狙おうかと思ったけど、気持ち悪いし、流石に自重したんだけど」
「夏姫さん、流石にそれで不能になっては後継ぎ問題もありますからやめてくださいまし」
葛葉もだいぶずれている。婚約者の心配がそことはいかに?
「おいっ!!」
叫んだ紅蓮は悪くないと思う。
鉄拳制裁可と言われれ、今回の一件は自重というものを捨てたなっちゃんこと夏姫さん。鉄拳制裁が許されていない葛葉にもきちんと制裁を。夏姫は自分で着信拒否を解除することも、再度電話番号を登録することも出来ません。
葛葉が夏姫からスマートフォンを借りればいいのでしょうが、多分今の状況だと難しい。