ep.4 ガレージ
駐車した所まで戻り、古い倉庫の前に立つ。
順子にもらった鍵束の中から一本選んで倉庫のシャッターの鍵を回した。金属が冷たい。
「さっきの鍵ってココのやったん?」
俺は黙ったまま『ガラガラ』とシャッターを上げた。金属がこすれる音が倉庫の中に反響する。ほこりっぽい匂いがふわっと鼻に来た。
「そう。それとコイツの鍵」
ゴールドツートンの車を指さした。
「すごっ! ソアラやん! ここ、ガレージやったんや。この車は?」
「シュウちゃんの車」
「シュウちゃんて? コウのお兄さん? ジュンさんの彼氏の?」
「実の兄貴やないけどね。村田修一。俺の地元の先輩。いろいろあって小さい時から面倒見てくれてて……ほんとの兄貴みたいな存在やったんよ」
「やったって?」
「死んだ」
「え…………っ!」
涼子は黙り込んだ。
ガレージの空気が重くなる。さっきまで普通に口にしてた名前が急に遠く感じた。
車のドアを開け運転席を覗き込むと、センターコンソールの上にデュポンのライターと俺宛の手紙があった。
運転席に座り静かに手紙を読む。紙をめくる指先が少しだけ震える。
手紙を読み終え、デュポンのライターを握り指で弾くと
『キーーーーン♪』
心地良い音が響いた。
修一がよく鳴らしてた音。
「どう? この車……似合う?」
顔を上げ涼子の方を向き、わざとおどけたように言ってみせた。
「どーやろー。……隣座っていい?」
涼子は微笑んで答え、助手席を指差した。
「うん」
涼子はドアを開けて助手席のシートに座ると、こっちを向き俺を見た。
俺は涼子から視線を逸らして少しうつむいた。
涼子は、なにも言わず両手を伸ばし俺の頭を抱き寄せた。
俺は涙を見せたくなくて、そのまま涼子の胸に顔をうずめた。香水の匂いがやさしく香った。
向かいの線路から『ゴトゴト』と何本もの電車が通り過ぎる音を聞いた。
電車だけが、いつもの時間の上を走っていく。
気持ちに落ち着きを取り戻し、涼子の胸に埋めていた顔をゆっくりと起こしながら呟いた。
「あんまり大きくないな」
「え? なに?」
涼子の胸を指差す。
張り詰めていた空気が一変し、俺はニコッと笑い涼子を見た。
涼子はムスッとした顔をして「チッ」っと舌打ちした。
「……涼子。また会ってくれる?」
「もちろん」
涼子は少し照れた顔をしていた。
その顔に吸い込まれる。
気づけば唇が触れていた。
「ところでアレなに?」
涼子が照れ隠しするように、ガレージの奥にあるピンク色のスクーターを指差した。
「あれか。あれは順子さんの……」
俺は思い出し笑いして続けた。
「シュウちゃんと缶スプレーで塗ったんよ。順子さん文句言いながら乗ってたわ」
その時の光景を思い出すと、笑いが止まらなくなった。
涼子が何を想像したのか、笑うのを堪えながら、「ジュンさん……」と呟いた。
「涼子乗る?」
「絶対いや!」
涼子が真顔で答えて続ける。
「そうそう。コウ、アパート出ないといけないとか言ってたやん?」
「あー。今のアパート、シュウちゃんが借りて、一緒に住んでたから……」
「そうなんや」
「そう。シュウちゃんいなくなったから契約切れ」
「4月からどうすんの?」
「どうしよか?」
俺は笑って答えた。
「笑い事やないやん」
「寮付きの会社に就職するか……。しばらく、ここでもええし」
「はぁ? ここ?」
「ここ、俺の名義で新たに2年契約した。って、手紙に書いてあった」
「いやいや、ここガレージやん」
「電気も水道もきてるし、扉の向こうにトイレあるしなー」
寝る所さえあれば、ほんとにどこでもよかった。
「ちょっと真剣に考えたら?」
涼子は少し呆れたような顔をして
「ジュンさんが、『耕作のこと頼む』って言った意味がわかった気がする」
と小声で呟いた。
俺はただ笑って涼子をみた。
「コウ、あたし、明日、東京戻らないと」
「帰省中って言ってたな」
「短大の卒業単位、もう少しで取れるから、来月にはこっちに帰ってくるよ」
「わかった。ほな来月」
「いやいや、だから……」
涼子の顔が曇って見えた。
「ん?」
「そういうとこよ」
「……え?」
「もう」
涼子が拗ねたような顔をした。
「あ。どっか行こか?」
「うん」
涼子は嬉しそうに頷いた。
ガレージの外はすっかり日が落ち、街灯の灯りがバイクとクーペを照らしている。
バイクをガレージに入れ、涼子のクーペに乗り、街の外れの色とりどりのネオンが空を照らす一角へと走った。




