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扉の鍵を開けてくれたのは  作者: 春野セイ


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2/2

貴也の事情

 貴也の事を意識した途端、今頃になって緊張してきた。

 熱くなった顔を押さえていると、着替えをすませた玲子が入ってきた。


「翠くん、貴也はお風呂に入ったの?」

「はい。あの玲子さん、できているご飯、運ぶのお願いします」

「いつも本当にありがとうね」


 玲子は、翠が作った卵焼きとみそ汁、シャケの塩焼きを一緒にリビングのテーブルに並べていった。


「でも、びっくりしたわ。貴也ったらいきなり来るから」


 玲子がふうっと息を吐きだす。

 翠は一瞬、どきりとしたことがばれないように小さく息をついた。


「あ……、貴也くんのおかずが足りない……」


 ぽつりと呟くと玲子が手をひらひらと振った。


「いらないわよ。連絡もなしにいきなり来るんだもの。お米だけ出しておけばいいわ」

「そんな。あの、僕のお魚、貴也くんにあげてください」

「そんなのダメよ。私の分を食べてもらうわ」


 二人で言い合っていると、背後から声がした。


「うわー、朝からおいしそう」


 振り向くと父のジャージを着た貴也が立っていた。

 翠の心臓がドキッと跳ねる。貴也の後ろから父が現れた。


「おはよう。みんな揃ったし、いただきますしてから話を聞こうか」


 テーブルを囲んで四人は座った。


「いただきます」


 父が手を合わせたのを聞いて、翠も手を合わせた。


「いっただきまーす」


 貴也は元気よく言うとご飯を食べ始めた。玲子が自分の魚を貴也に譲る。


「貴也くん、こっちに住むことにしたの?」


 父の問いかけに、貴也はごくんとご飯を飲み込んで頷いた。


「はい。いいっすか?」

「もちろんいいに決まってるよ。僕は最初から貴也くんも一緒に住むものと思っていたからさ。翠だって喜ぶと思うし」


 一体何の話をしているのか翠は焦った。


「た、貴也くんは……お父さんと暮らすんじゃ……」

「俺も高校が近いし、そっちの方がいいかなって思っていたんだけどさ。父さんの再婚相手の女の子が五歳で甘えたい年頃なんだろうな。俺がいたら父さんを独り占めできないと思ったのか、嫉妬して泣くんだよ」

「あら、可愛いじゃない」


 玲子がクスクス笑っている。


「それで、ちょっと遠慮して家に帰るのを遅くしたら、鍵が開いてなくって。合鍵も忘れて出たもんだから、困っちゃってさ。こっちへ来ちゃった」

「貴也……」


 玲子が呆れたように息子を睨んだ。貴也はへらへら笑っている。

 翠は同じ十五歳の話とは思えず、どぎまぎしてしまった。


 鍵が開いてないって、それって朝帰りしたって事?


 貴也は自分とは逆のタイプで背も高いし、ただのジャージ姿なのに箸を持つ手が綺麗で、写真よりかなりカッコいい。

 翠は思わずぼんやりと見つめてしまい、ハッと我に返った。それから急いでご飯を食べ始める。


「ご、ごちそうさまっ」

「えっ、翠くんもう終わったの?」


 玲子と父が驚く。


「あ、あの、用事を思い出して」

「ああ、そうか、分かったぞ!」

「え?」


 父が納得したという顔で翠に言った。


「これから貴也くんも一緒に暮らすんだから、あれを用意しなくちゃな。な、翠」

「あれってなんですか?」


 貴也が玉子焼きを箸でつまもうとして父の方を見た。


「まあ、楽しみにしておいてよ」


 父がにやにやしている。翠は、お父さん余計な事言わないでよ、と思いながら、食器を片付けるために立ち上がった。

 台所に行って汚れたお皿を洗っていく。

 申し訳ないが、後の片づけは玲子に頼もうと思った。

 そそくさと部屋に戻るとバタンとドアを閉めて息を吐いた。


「はあ……。どうしよう……」


 頭を抱えるようにしてベッドに座った。

 父が再婚の話をした時もびっくりしたが、その相手に同級生の息子がいたことの方がよほど驚いた。

 思い出すだけで顔が熱くなる。


「ううう……」


 玲子さんの子どもが女の子だったらよかったのに。

 あんなにかっこいいなんてまずいよ。


 翠がそう思うのは、自分の恋愛対象が女子じゃなくって男子だからだ。



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