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偏差値は戦である  作者: 受験孔明
第二部 再構築〜中学生活編
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第二部 第6話「差」

# 第二部 第6話「差」


 塾の空気は、学校とは別物だった。


 教室に入った瞬間に分かる。


 無駄な音が少ない。


 私語はある。


 だが軽い。


 誰もが、問題を見るためにここへ来ている。


 森岡悠真は席に座った。


 配られたプリントを見る。


(……来たな)


 確率。


 学校ではまず出ない。


 いや、中学受験でも上位層向けだ。


 講師が前に立つ。


「今日はスピードと精度、両方見る」


 その一言で教室の空気が締まった。


(両方、か)


 悠真は小さく息を吐く。


 講師が言う。


「始め」


 一斉にペンが走った。


 問題を読む。


 条件を整理する。


 図を書く。


 式を立てる。


 ここまでは速い。


(いける)


 一問目。


 通る。


 二問目。


 少し複雑になる。


 だが見える。


 場合分け。


 樹形図。


 整理。


 解答。


(よし)


 次へ進む。


 だが。


 三問目で手が止まる。


(……どっちだ)


 場合分けか。


 補集合か。


 一拍。


 二拍。


 選ぶ。


 進む。


 解ける。


 だが。


(遅い)


 自分で分かった。


 視線を上げる。


 教室の前方。


 藤堂優駿。


 もう次のページへ入っている。


(速いな)


 違和感がある。


 同じ問題だ。


 同じ時間だ。


 だが。


(考えてない)


 いや。


 正確には違う。


(考える場所が違う)


 自分は問題を見てから考える。


 優駿は違う。


 見た瞬間に処理が始まっている。


 迷いがない。


 手が止まらない。


(違うな)


 悠真はそう思った。


 前の席にも目が行く。


 別の男子。


 速度は速くない。


 だが。


 一度も止まらない。


 一定のリズム。


 一定の速度。


 一定の精度。


(あれも強い)


 タイプが違う。


 だが強い。


 悠真は問題へ戻る。


 四問目。


 難度が上がる。


(これは……)


 構造を見る。


 分解する。


 繋げる。


 解ける。


 だが時間がかかる。


(遅い)


 また思う。


 横を見る。


 優駿は終盤。


 前の男子も同じ位置。


(差があるな)


 はっきりと分かった。


 終了。


 ペンを置く。


(……どうだ)


 手応えはある。


 だが確信はない。


 解説が始まる。


 一問目。


 同じ。


 問題なし。


 二問目。


 途中までは同じ。


 だが。


 講師は別解を使った。


(そっちか)


 圧倒的に速い。


 三問目。


 完全に違う。


 自分の解法より半分近い手数で終わる。


(見えてなかったな)


 理解はできる。


 だが選べなかった。


(選択の差か)


 講師が言う。


「速いだけじゃダメだ」


 黒板を叩く。


「正確なだけでもダメだ」


 教室が静まる。


「一番強いのは」


 一拍。


「迷わないやつだ」


 悠真の手が止まる。


(……それか)


 ノートに書く。


 迷わない理解


 その文字を見ながら思う。


 確かにそうだ。


 優駿は速い。


 だが。


 速いから強いんじゃない。


 迷わないから速い。


 教室を出る。


 階段を降りる。


 優駿が追いついてくる。


「どうだった?」


「悪くはない」


 正直に答える。


 優駿は笑う。


「でも上じゃない」


「……まあな」


 否定できない。


 優駿が言う。


「お前さ」


「考えすぎると遅くなるタイプだろ」


 悠真は止まる。


(……)


 図星だった。


「まあな」


 優駿は頷く。


「悪くないよ」


「深くなるし」


 一拍。


「でも試験は待ってくれない」


 現実だった。


 さらに続ける。


「あとミス多い」


「分かってる」


「じゃあ直せよ」


「直らねぇんだよ」


 本音だった。


 優駿は少し笑う。


「じゃあ減らせ」


 悠真は眉を上げる。


「減らす?」


「ゼロは無理だろ」


 即答だった。


「だから減らせ」


 その言葉は妙に納得できた。


 完璧を目指していた。


 だから苦しかった。


 だが。


 減らすなら現実的だ。


 帰宅。


 机に向かう。


 ノートを開く。


 新しいページ。


 タイトルを書く。


 差


 その下に並べる。


 速さ


 精度


 理解


 少し考える。


 そして。


 もう一つ追加する。


 安定


(これだな)


 良い時は良い。


 だが崩れる。


 それが自分だ。


 優駿は違う。


 常に一定以上。


 常に戦える。


(強いな)


 素直に思う。


 だが。


(負ける気はしない)


 それも本音だった。


 さらに書く。


 ミス削減


 選択最適化


 思考短縮


(やれる)


 そう判断する。


 扉が開く。


 心太だった。


 本を抱えている。


「何やってんの?」


「勉強」


「知ってる」


 当然のように返してくる。


 ノートを覗く。


「差?」


「ああ」


「なんか難しそう」


「まあな」


 心太は少し考えた。


 そして言う。


「でも面白そう」


 悠真は顔を上げる。


「そうか?」


「うん」


 ページをめくる。


「パズルみたい」


(……そういう見方か)


 少しだけ視点が変わる。


 勝負。


 競争。


 順位。


 そればかり見ていた。


 だが。


 解くこと自体を楽しんでいる人間もいる。


 心太はそのタイプだ。


 悠真はノートを閉じる。


 今日を振り返る。


 塾で見た差。


 優駿の安定。


 自分の波。


 すべてが見えた。


「……まだ上がいるな」


 小さく呟く。


 だが重くない。


 むしろ。


 少しだけ楽しい。


 戦場は広い。


 自分はまだ途中だ。


 だから。


 面白い。


 悠真は立ち上がる。


 窓の外を見る。


 夜の街。


 静かだった。


 だが。


 その先には、まだ見たことのない景色がある気がした。


(やるか)


 静かにそう思う。


 差を知った。


 だからこそ。


 次に進める。


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