表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偏差値は戦である  作者: 受験孔明
第二部 再構築〜中学生活編
20/25

第二部 第4話「運用」

# 第二部 第4話 運用


 部活動見学の期間は、思った以上に騒がしかった。


 放課後になると校庭に人が溢れる。


 野球部。


 サッカー部。


 バスケ部。


 それぞれが声を張り上げている。


「ナイス!」


「走れ!」


「切り替えろ!」


 単純で分かりやすい熱量だった。


 森岡悠真はフェンスにもたれて、その光景を見ていた。


(悪くない)


 そう思う。


 頭を使う前に身体が動く世界。


 結果がすぐ返ってくる世界。


 受験とは違う。


 だが、同じ勝負の匂いがあった。


「森岡、どこ入るん?」


 後ろから声が飛ぶ。


「まだ決めてない」


 そう答えながらも、内心ではほぼ決まっていた。


(運動部だな)


 野球でもいい。


 サッカーでもいい。


 問題はそこじゃない。


(時間をどう使うか)


 そちらの方が大きかった。


 野球部のノックが始まる。


 軽快な音が響く。


 選手たちが動く。


(週五か)


 頭の中で計算が始まる。


 帰宅は十八時過ぎ。


 夕食と風呂で一時間。


 残り三時間。


 そこに塾。


 学校。


 復習。


 宿題。


 睡眠。


(足りないな)


 結論は早かった。


「見学?」


 声がした。


 振り返る。


 藤堂優駿だった。


「まあな」


「どこ入るん?」


「まだ決めてない」


 優駿もフェンスに寄りかかる。


 二人でグラウンドを見る。


「楽しそうだよな」


「まあな」


 少し沈黙が流れる。


 そして。


 優駿が言った。


「で、どうすんの」


 やはり早かった。


 核心しか聞いてこない。


「何が」


「部活」


 悠真はグラウンドを見る。


 答えは出ている。


「やる」


 短く言った。


 優駿が少し眉を上げる。


「マジで?」


「やらない理由もない」


 本音だった。


 勉強だけでは息が詰まる。


 身体を動かした方が、むしろ頭は回る。


「時間は?」


 すぐに返ってくる。


 悠真は少し笑った。


「削る」


「どこを?」


「全部」


 一瞬だけ沈黙。


 優駿が苦笑する。


「それ失敗するやつだぞ」


「分かってる」


「ならいいけど」


 二人とも笑った。


 帰宅後。


 悠真は机に向かった。


 ノートを開く。


 白紙のページ。


 少し考えて書く。


 運用


 その下に四つの言葉を書く。


 学校


 部活


 塾


 自習


 しばらく眺める。


(全部やるのか)


 普通の中一なら、こんなことは考えない。


 少なくとも、自分は考えなかった気がする。


 悠真は少しだけ首を傾げた。


(俺、前からこんな人間だったか?)


 答えは出ない。


 だが、不思議と違和感もなかった。


 さらに書く。


 学校


 部活


 塾


 自習


 それぞれに丸を付ける。


 そして気づく。


(全部重要じゃねぇか)


 削れない。


 全部必要だ。


 だから困る。


 翌日。


 サッカー部への入部届を出した。


 最終的に選んだのはサッカーだった。


 走る。


 考える。


 判断する。


 その繰り返し。


 自分に合っている気がした。


 初日の練習。


 思ったより疲れた。


 帰宅すると足が重い。


 夕食。


 風呂。


 そして机。


 塾の問題集を開く。


(ここからだ)


 そう思った。


 だが。


 五分後。


 問題文を読んだまま止まっていた。


 眠い。


 頭が回らない。


 部活の疲労が思った以上に残っている。


「……マジか」


 思わず呟く。


 甘く見ていた。


 学校だけでもない。


 塾だけでもない。


 部活だけでもない。


 全部やるというのは。


 想像以上に重かった。


 その日は結局、一問しか進まなかった。


 翌日も似たようなものだった。


 三日目。


 提出物を忘れそうになった。


 四日目。


 塾の復習が終わらなかった。


 五日目。


 授業中に少し眠くなった。


(あれ?)


 思っていたより上手く回らない。


 少しずつズレる。


 少しずつ崩れる。


 そして日曜日の夜。


 机の前。


 ノートには予定が並んでいた。


 学校。


 部活。


 塾。


 自習。


 全部やる。


 そう決めた。


 だが。


 実際にやれるかどうかは別問題だった。


 悠真は大きく息を吐く。


「無理じゃね?」


 思わず口に出る。


 誰もいない部屋。


 返事はない。


 それでも。


 少しだけ笑った。


 無理かもしれない。


 失敗するかもしれない。


 だが。


 やる前から捨てる気にもなれなかった。


 ノートの最後に一行だけ書く。


 ――試験運用


 完璧な計画ではない。


 実験だ。


 失敗する前提の計画。


 その方が気が楽だった。


 窓の外を見る。


 春の夜だった。


 来週から。


 本当の意味で忙しくなる。


 悠真はノートを閉じた。


 そして。


 ほんの少しだけ不安になった。


 戦い方は決めた。


 だが。


 その戦い方で勝てるかは、まだ誰にも分からなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ