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偏差値は戦である  作者: 受験孔明
第二部 再構築〜中学生活編
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第二部 第1話「戻れない日常」

第二部 第一話


戻れない日常


 中学校の教室は静かだった。


 小学校とは違う。


 ざわついてはいる。


 笑い声もある。


 だが、その中にどこか距離があった。


 まだ互いを探っている。


 誰がどの位置にいるのか。


 どんな人間なのか。


 無意識に測り合っている。


 森岡悠真は窓際の席に座っていた。


 後ろから二番目。


 悪くない場所だ。


 黒板には、


『入学おめでとう』


 と書かれている。


 担任の名前。


 自己紹介の順番。


 ありふれた始まり。


 だが。


(戻ったな)


 そう思った。


 受験前の日常に。


 何も考えずに過ごしていた頃に。


 だが同時に。


(戻ってない)


 とも思った。


 感覚が違う。


 周囲の声が以前よりよく聞こえる。


「どこ受かった?」


「俺、○○落ちた」


「△△行くやついる?」


 自然と受験の話になる。


 教師は触れない。


 だが生徒は違う。


 結果は出ている。


 そして。


 その結果は消えない。


「お前は?」


 隣の男子が聞いてくる。


 悠真は少し考える。


「いくつか受かって、ここにした」


 嘘ではない。


 だが本質でもない。


「ふーん」


 それ以上は聞いてこない。


 だが分かる。


(見られてる)


 どのくらいできるのか。


 どの辺の人間なのか。


 小学校よりずっと露骨だった。


 ここには結果を持った人間が集まっている。


 そして結果を基準に関係が作られる。


(分かりやすいな)


 悠真はそう思った。


 悪いとも思わない。


 ただ。


 妙に既視感があった。


 授業が始まる。


 数学。


 正負の数。


「−3+5は?」


 教師が聞く。


 何人かが手を挙げる。


 悠真は挙げない。


 答えは分かる。


 だが。


 別のことを見ていた。


 授業の進み方。


 生徒の反応。


 理解速度。


 ノートの取り方。


(遅いな)


 自然にそう思う。


 受験期の感覚が残っていた。


 隣の男子。


 丁寧だ。


 遅いが崩れない。


 前の席の女子。


 理解が速い。


 発言も多い。


 たぶん上位。


 そんなことを無意識に考えている。


(癖だな)


 少し苦笑する。


 だがやめようとは思わなかった。


 観察は無駄にならない。


 それを知っている。


 昼休み。


 教室が一気に騒がしくなる。


 弁当。


 ゲーム。


 動画。


 部活。


 普通の中学生の日常。


 悠真も弁当を開く。


 その時だった。


「久しぶり」


 声がした。


 振り返る。


 藤堂優駿だった。


「……マジか」


 思わず口に出る。


 優駿は少し笑った。


「お前も同じみたいだな。」


 変わらない。


 受験の日と同じ目だった。


「どう?」


 優駿が聞く。


「何が」


「ここ」


 悠真は少し考える。


「悪くない」


 正直な感想だった。


 優駿も頷く。


「だよな」


 短い沈黙。


 そして。


 優駿が言った。


「で、どうする?」


 悠真は止まる。


「何が?」


「まだ高みを目指す?」


 その一言で。


 昼休みの空気が少し遠くなった気がした。


 悠真は弁当を一口食べる。


 飲み込む。


 そして答える。


「……分からん」


 それが本音だった。


 優駿は笑わない。


「そっか」


 短い返事。


 だが。


 その目を見て分かった。


(決めてるな)


 優駿はもう決めている。


 次を。


 そして。


「俺はやる」


 そう言った。


「高校受験」


 悠真は黙る。


 予想はしていた。


 だが。


 言葉になると重い。


「どこ狙うんだよ」


 優駿は少し考えた。


「まだ決めてない」


 そう言って。


 窓の外を見た。


「でも」


 一拍。


「1番上」


 それだけだった。


 だが十分だった。


 チャイムが鳴る。


 昼休みが終わる。


 優駿は立ち上がる。


「またな」


「おう」


 短いやり取り。


 それだけだった。


 だが。


 十分だった。


 午後の授業。


 教師の声。


 黒板。


 ノート。


 全ては普通の中学校の風景だった。


 それなのに。


 悠真の頭の中には別のものが残っていた。


 ――まだ高みを目指す?


 優駿の言葉。


 あれが離れない。


 放課後。


 誰もいなくなった教室で。


 悠真はノートを開いた。


 白紙のページ。


 少し考える。


 そして書く。


 現状分析


 学校


 内申


 勉強環境


 さらに。


 少しだけ止まる。


 そして最後に。


 戦場再定義


 と書いた。


 なぜそんな言葉を書いたのか。


 自分でも分からない。


 だが。


 不思議と違和感はなかった。


 窓の外を見る。


 春の空。


 穏やかだった。


 受験は終わった。


 そのはずだった。


 だが。


 森岡悠真には分かっていた。


 これは終わりじゃない。


 ただ。


 戦場の形が変わっただけだと。


 そして。


 次の戦いは。


 もう始まっていた。


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