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19 怒れる者たち

 モニカとユリアンの恋心が、やっと相互通行になろうとした途端複雑に絡まり、互いに身動きが取れなくなっていた頃、クラウスティン公爵家のサロンは混乱を極めていた――



「モ、モニカが第二皇子と二人きりで森に! しかも命を狙われたですって!」

「犯人はどこのどいつだぁ! おいっ大丈夫か! しっかりするんだ!」

「父上、そう強く締め付けては、よけい母上の気が遠のくばかりですよ」


 クラウスティン公爵が夫人をギリギリと抱きしめ、その腕の中に卒倒した夫人が力なく抱かれている。それを齢十の長男(モニカの弟)がなだめていた。



「おじさんおばさん、ユリアンがついているからモニカは安全だよ。これからの問題は、犯人をどう吊るし上げてとっちめるかだよ!」

「そうだぞ、クラウスティン。モニカは私にとっても娘みたいなもんだ。取り乱さず念入りに作戦を練って、そいつを血祭りに上げようではないか!」

「お義父様もセオドア様も、もう少し冷静になってください。作戦は冷えた頭で、綿密かつ陰湿に練ってこそ活きるものですわ」


 ヴェントゥル公爵と跡取りのセオドアに、その婚約者のエレナも混ざって大騒ぎだ。


「両公爵家の皆様、お怒りなのは皆様だけではありませんぞ。私の可愛い部下を襲ったのです。皇族部皇子課第二皇子係も、今後皆様に全面協力いたしますぞッハッハッハッ」



 モニカの両親は、愛する娘の上司であるレンがクラウスティン公爵家にやって来て、初めて学園時代のモニカの苦労を知った。その時点で卒倒ものである。

 だがその上、出張先で命を狙われる事件に巻き込まれたとあっては、クラウスティン家の皆の取り乱し様は仕方がない。


 しかし、友人のレンから連絡を受け、この場に来たヴェントゥル公爵家の面々も熱い人たちで、さらにモニカの上司の係長本人も熱血漢ときた。

 聞き耳を立てたわけではなく、居合わせてしまった使用人たちまで泣き出している。


 ――収拾がつかない――カオスだ――


 サロン内には悲鳴やら怒号やら、すすり泣きやら不気味な含み笑いまで飛び交っていた。


 その場を治めようとしたのはこの場では一番年少の、モニカの弟ミカエルだった。



「父上母上、姉上は第二皇子に守られ御無事という事ですから、ここはヴェントゥル公爵家の皆様が言う通り、犯人をどのような手段で捕らえ、どう処すかについて話し合いましょう。ほらほら、お前たちも泣いていないで、早くヴェントゥル家の皆様や大切な姉上の上司の方をおもてなしして」

「「はいっ。ぐすっ」」


 先ほど物騒なワードを発した気もしたが、次に幼く、まだ学園にも通っていないエレナがミカエルに続いた。


「そうですわ。モニカお姉様は、強く賢くどんな困難も乗り越える気概を持つ御方です。今はお姉様を信じ、これからの事を決めて参りましょう。ただ……第二皇子ユリアン様とはいえ、お姉様に不埒なマネをすれば許しませんわ……」

「おいおい、エレナ。ユリアンはそんな男じゃないから信用してくれ」

「我が友セオドア様のおっしゃる通りです。主はヘタレですから、モニカ様に絶対に手出しは出来ません。ご安心ください」


「「……」」


 なんとも言えない微妙な空気にはなったが、皆冷静さを取り戻せたようだ。



「レン殿、娘の命を狙った犯人はわかっているのか?」

「はい。ボルダン伯爵家です」

「なるほど……」

「はあっ。また立ちくらみが」


「成り上がりのボルダンか」

「あのクソ女の家だな」

「ますます許せませんわね」


 クラウスティン家の面々だけではなく、ヴェントゥル家一同の背後からも怒気が伝わってくる。セオドアとエレナもドロテアの嘘の被害者だ。

 ここに居る者全員が恐ろしい形相をしていた。


「ヴェントゥル家の皆、いや、レーヴァンダールの盾ヴェントゥル卿。やるか?」

「クラウスティン公爵、否、レーヴァンダールの剣クラウスティン卿。やろうではないか」

「皇城第二皇子係の総力で援護仕ります」


 レーヴァンダール帝国の剣と盾として、この国を平定に導いた両者が今一度手を携えた。彼らにとっては他国から戦を仕掛けられたのと同義の事案である。


「父上、小父様、策は私にお任せ下さい」


 ここは大事になり帝国内が混乱せぬよう、モニカの弟ミカエルの手腕に賭けたい……。





「係長、お疲れ様でぇっす」

「どうでした?」

「両公爵家とも怒り心頭だな」


 マサもノーラも、そりゃそうだよねとマサの故郷の緑茶をすする。


「俺たちは一年前、モニカ様を見守るしか出来なかった。あの時はもどかしかったな。あんな良い子が苛められるのを見てるしか出来なかったなんて」

「マサはよく、悔しくて泣きながら帰ってきたな」


 レンの言葉に、「へへへ」と照れたようにマサは襟足を掻く。


「モニカ様が孤軍奮闘なされるお姿は見事だったし、下手に手出ししたらダメな気がしたから我慢したもんな」


「そうよ。あんな状況だったのに、モニカ様は毅然として素敵だったわぁ。でも、今度こそ私たちの手で守りたいわね」

「ノーラは時々モニカを見る目がヤバイぞ? バレて嫌われないようにしろよ?」


 「尊いモノを見たら我慢出来なくなるんですぅっ」とノーラ。


 マサは任務として学園を調査した時、モニカの姿を見てはよく、喜怒哀楽をぐちゃぐちゃにしていた。

 今日の裁きは天晴れと大喜びで帰ったと思ったら、でも苛めた奴は許さんと怒りだす。

 ある時には手助けしたいと泣き濡れて戻って来たと思えば、その後はモニカ様はくノ一の素質があると楽しそうにその日あった出来事を語ったりした。


 ノーラは母であるユリアンの乳母ニナと共に、幼い頃令嬢のモニカを見てファンになった。背中まである長く美しい黒髪に、宝石の様な大きく薄い青の瞳の少女。

 可憐なモニカを、物語の世界から出て来たお姫様かと思った。

 お姫様はただかしずかれる事を良しとせず、孤高を貫き官僚となって自分の側にやって来た。ノーラのモニカを見る目は危うげな感じがある。母のニナもそうらしい。


「そんな係長だって、セオドア様と一緒になって、モニカ様がいかに可愛いか延々と語っているじゃないですか?」

「セオドア様はまだしも、係長はただの気持ち悪いおっさんよね」

「わ、私は友の話に付き合っているだけだ。それに部下としてモニカが心配なだけだぞ」


 四十のおじさんが頬を赤らめて反論している。


 侯爵家の三男で城勤めをしているレンは、前述の通り性格が合うからか、歳の離れたセオドアと仲が良い。セオドアからモニカの話を聞いている内に、すっかり娘と同じ年頃のモニカ嬢にハマっていた。

 子どもを持つ親として、モニカの苛めを一番身につまされていたのはレンかもしれない。


 正式にモニカ嬢が第二皇子係に配属される事が決まった時には、三人共大喜びしたが、むさ苦しく男泣きしていたのはこの係長だ。


「オホン。モニカ様は今まで通りモニカと呼んで欲しいそうだ。帰ってきても今まで通り接するんだぞ?」

「「はーい」」


「それと、いい加減、私にも緑茶をくれないか?」

「うちの係はセルフでーす」

「自分で淹れて来てください」



 三人は渋めの緑茶をすすりながら、モニカ嬢に思いを馳せる。そして誓った。早く我らがモニカ嬢が帰って来られる環境を整えようと――

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