20. 疫病対策完了
「いやー、おめでとうございます!」
「何がよ?」
「いやいや、だってユリナ様はアレクサンドル様とご結婚なさるとか。」
「ジャン、気持ち悪いからその話し方はやめて。」
朝食の席で、何故かジャンが私とアレクのことを知っていて茶化してくる。
アレクの方を見ると、目を逸らして無言。
「さてはしゃべったな。」
ちょっと睨みながらも、なんだか照れ臭くてさっさと食事を終えた。
今日も教会で疫病の治療にあたったが、アレクが魔法で治癒しなければならないほどの患者は随分減って来てやっと終わりが見え始めた。
「ユリナ様がご指示なさった通りに静養した者たちが徐々に回復していると報告がきておりますよ。」
「本当ですか?良かった……。」
ティエリー司祭からそう聞いて、心底ホッとした。
「今後同じ疫病が流行っても状態が悪くなる前にきちんと対応できれば、死者数も減るのではないかと思います。」
「そうですね。治療にあたる教会の方でも、これからも『ますく』や手洗いを励行するようにいたします。異世界の御客人ユリナ様の教えを教会としても広く布教してまいります。」
「そんな大層な人間でもないんですけど、それでもそれによって救える人が増えるならば嬉しいです。」
優しげなオリーブ色の目を細めて、ティエリー司祭は微笑んでくれた。
「カビルの街が一番多く疫病に冒されたものが多かったので、あとの地域では軽症の者がほとんどだそうです。ですから、あとは各地の教会と協力して魔法に頼らずに治療していきたいと思います。偉大なる魔法使いアレクサンドル様、異世界からの御客人ユリナ様、ジャン様、お力添えいただき本当にありがとうございました。」
『布教』って少し大袈裟な気もしたけれど、それで救われる命が増えるならば良いかと思った。
「治癒。」
教会に併設された診療所で、最後の患者がアレクの治癒魔法を受けた。
「魔法使い様、ありがとうございます!ほんとに楽になりました!」
来た際は辛そうにしていた患者も、魔法によって回復して元気に帰って行った。
「アレク、お疲れ様。これでもうカビルの街の疫病患者は大丈夫だね。」
「ユリナ、ジャンも良くやった。ティエリー司祭はじめ教会の方々も、ご苦労だった。」
最後にその場にいた人たち全体に治癒をかけてアレクは労った。
「全体にかけたりできるんだ……。」
「それでも、全体にかけるのは魔力の減りが大きいらしいよ。もうここでの治療も最後だからアレクサンドル様から皆んなへのご褒美だろ。」
ヒソヒソと私とジャンが小声で話していると、アレクは私の手をグッと引いて自分の方へと寄せた。
「え!?ちょっと、アレク!」
「ユリナはジャンと親し過ぎる。」
子どものようなヤキモチを焼くこの魔法使いが可愛らしいと思ってしまった私も大概だ。
「アレクサンドル様、ユリナと相思相愛になったからって露骨過ぎませんか?ますます僕への当たりが強くなってるじゃないですか。」
「それは仕方ないことだ。諦めろ。」
二人の気安いやりとりと、大きな仕事を終えたことでホッと全身の力が抜けた気がした。




