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57.また逢う日まで

 王子視点です。


 自分はエレオノーラを持ち上げた。持ち上げるというと力を使いそうだが、エレオノーラは羽のように軽いので何の造作もなく、簡単に抱き上げられた。最初はその場で回転していたが、エレオノーラが目を回さないように回転を止め、抱き上げたまま先ほどまでしていた足型をする。ただ、先ほどよりは大きな歩幅で踊った。

 最初、エレオノーラは目を丸くして驚いて抵抗したが、すぐに自分と目が合いじっと見つめ合った。彼女は少し悲しげで遠くを見るように自分の目を見つめていたが、最後は柔らかな微笑みを浮かべた。

 三人が奏でる音楽が終わり、名残惜しいが自分はエレオノーラをそっと降ろした。


「一緒に踊ってくれてありがとう。どんなに離れていても…」


 続きを言おうと思ったが、部屋の全員が自分を凝視しているので恥ずかしくて言えなくなった。


「…陛下、それでは私は一度陣営に戻ります。では後ほど」

「っええ、分かりました。…お貸しする本は侍従に運ばせますね。お渡しするのが遅くなってしまい、すみませんでした」

「お手数をおかけしました。感謝いたします」

「いえ、その…下手な私に合わせて踊ってくださり感謝いたします」


 エレオノーラと自分はなんとか冷静に会話を続けた。二人きりだったら見つめ合っていただろうか。抱きしめあっていただろうか。囁きあっていただろうか。

 心が落ち着かないまま自分は退室しようとしたら出入り口付近に宰相と将軍がいるのに気が付いた。自分が部屋に入った時には二人はいなかったはずだ。宰相は涙を流しているようで、目元を拭っていた。他にも侍女達も泣いているようですすり泣く声が聞こえてきた。

 宰相と将軍に会釈をしてから退室した。部下達の他には叔父と叔父の部下達も一緒に陣営に戻る。叔父に何か言われるのではないかと思ったが、叔父は終始無言だった。




 陣営に戻り少ししたら侍従達が本を届けに来た。本と共にエレオノーラからの手紙も持って来たようだ。手紙は何故か二通あり彼女の目と同じ色の青いリボンで結ばれていた。

 いつ渡すのか考えていなかったのでちょうどいいだろうと思い、自分は侍従達に昨晩書いた手紙を渡し、エレオノーラに届けるように頼んだ。彼らはかしこまった様子で手紙を受け取った。


「陛下に変な虫がつかないように頼んだぞ」

「はいっ!!」


 侍従達の背筋がこれでもかというぐらい伸びた。小さく跳んだようにも見えた。

 リーザから若い侍従達がエレオノーラを意識しているのではと聞かされたので釘を刺しておいた。

 侍従達が出て行き、エレオノーラからの手紙を巻いてあるリボンは取らずに、渡された状態のまま眺めてみた。彼女の字は几帳面そうな字をしていた。


「殿下、そろそろ出発の準備をなさってください」

「ああ分かった」


 部屋の外からミハイルの声がした。自分の帰国にはドナートとミハイルの二人の他に警護のために連合国軍の兵士がつく。確か五人ほどだっただろうか。各領地や地域にある陣営を通って帰国する。南東領を抜けてセマルグル国内に入ったら、連合国軍の兵士とセマルグル王国の兵士が警護を交代し連合国軍の兵士は王都に戻る。三日ほどで南東領に到着し、セマルグル王国に入ったら五、六日で王都に着くだろう。


「アレクセイ入るぞ」


 ノックもせずに突然叔父が部屋に入って来た。


「…ここまだは私の部屋ですが」

「直に俺の部屋になる」


 自分が去った後は叔父がこの部屋を使う。王城内に用意された部屋も同様だ。

 叔父の自由な行動に自分はため息をついた。そんな自分を見て叔父は声をかけてきた。


「…その手紙は女王陛下からか?」


 自分はエレオノーラからの手紙を手にしたままだった。その手紙を隠すように手荷物の中にしまった。


「そうです」

「なんて書いてあった?愛しいアレクセイ様とか書いてあったか?」

「茶化さないでいただきたい」


 叔父はこんな人だっただろうか。この数日で大分印象が変わった。今まで優秀な武人としてしか見ていなかったので、話も剣や槍、戦術などしかしてこなかった。それが今や甥の恋路に茶々を入れる面倒臭い人と認識するようになってしまった。

 自分は部屋から出るために本と手荷物を持った。


「アレクセイ殿下、お持ちいたします」

「すまない」


 叔父の部下、セルゲイに荷物を持ってもらう。


「おい、待て待て。お前が本気なのはよく分かっている」

「…はい」


 自分は叔父をジロリと睨みつける。叔父はため息をついた。


「正直お前があんな表情を見せるとは思わなかったよ。同情ではなく純粋に好きなんだろう?」

「何をおっしゃりたいのでしょうか」

「分かった。まず女王陛下と結婚したい奴は山ほどいる。他国の王族や貴族がそうだろう。なんとかして実権を握ってこの国を牛耳りたいと企んでいる奴らだ。生国を富ませるためにこの国から搾り取るとかな」

「ええ」

「この国の王城内のお役人は女王陛下に協力的なようなので安心したが、まだ見てないから分からんからなんとも言えんが地方ではどうだかな。年若い王を操りたいと考えてる奴がいないとは言えんだろう?」

「…ええ」


 某はとこもエレオノーラが傀儡にされるのではと危惧していたようだ。


「次に女王陛下に対して反発する気がなくても他国出身の男、それも王族と結婚したら反発が起きるかもしれない。それも国内外からだ」

「実権を握ろうとしているのではないかと?セマルグルの国力を高めるために?」


 なんて馬鹿馬鹿しい、とは声に出さなかった。。


「そうだ。お前は国内外の大勢を納得させられるか?」

「させます」


 自分は叔父を見ると叔父はため息をついた。


「んまぁ、そう言うわな。最後に、今まで言った事が懸念されるので、兄上が結婚を許すとは思えん。争いの火種は作らないのが一番よいからな」


 自分はエレオノーラと共にいたいだけだ。何故、こんなに複雑な話になってしまうのかと奥歯を噛みしめる。


「…俺からも兄上には伝えておくが、相手は王様、俺は王位継承権が二十位以下のただの王子だ。何を言っても参考にすると言われるだけだろう」

「はい…」


 参考にするとは、書面に目を通すだけとか話を聞くだけとかそんな意味だ。叔父は軍事関係なら絶大な発言権を持つがそれ以外はないに等しい。


「…女性陣を味方にするといいかもな。こういう恋の話は大好きだろう?」


 叔父は悪そうな顔をした。セルゲイはそんな叔父を見てため息をついた。


「アレクセイ殿下、叔父君は心配はしておられるのです。ただ、性格がよろしくないので少々戯れてしまうだけなのです」

「そうだな、ここまでとは…な」

「可愛い甥っ子はどこに行ったんだ。恋とは恐ろしいなぁ、おい」

「可愛いとか言われる歳ではありませんし」

「ええ、立派な青年になられましたね」


 セルゲイと自分の会話を聞き、叔父はしかめっ面になった。いつの間にか俺の身長も超しやがって、と言っているがそれは今関係ないと思う。

 甲冑の軋む音が近づいてきた。


「遅いと思いましたら、イワン様に絡まれ…話してらっしゃいましたか」


 ミハイルだった。すでに甲冑を装着している。


「ああ、すぐに行く」


 自分も甲冑を装着しなければならないので、叔父に会釈してから移動する。

 ミハイルはセルゲイから荷物を受け取り、自分についてきた。


「はぁ…」

「皆さん大きくなられましたね。イワン殿下も甥離れしないといけませんよ」

「分かっているが、寂しいものだな」




 自分は甲冑を装着し終えた。同じく甲冑姿のドナートとミハイルも一緒だ。アルトゥールはこの国に残るので軍服のままだ。


「陛下の身辺に不審な者がいたら追っ払いますのでご安心ください」


 アルトゥールは自信満々だ。彼は童顔というほどではないが柔和な顔つきなので侮られることがある。だがそれを逆手にとって相手の警戒心を解き情報をかすめ取ってきたりする。敵を近づけない、追い払うだけなら強面かつ実力のあるドナートの方が適任だが、敵がどこから来るのか不明なのでアルトゥールの情報収集力が必要である。情報収集ならミハイルの方が得意だが、柔軟な考えが出来るのはアルトゥールだ。これが上手く作用してくれるのを願う。


(ミハイルは外堀を埋めるのが好きだよなぁ…。何度策略に引っかかったか…)


 ミハイルは盤上遊戯(ボードゲーム)が強いのだ。そういえばこちらに来てからはやっていなかった。兵士達が興じているのは見かけたが、自分達はやる時間がなかった。帰国後も忙しいくなるだろうから次はいつ出来るだろうか。


「では、時間ですので参りましょう」


 ドナートが低い声で我に返った。


「分かった」


 分かったとは言ったが、本当は帰りたくないと子どものように駄々をこねたい。自分はもう立派な青年なのでしないが。

 自分は兜を脇に抱え歩きだした。

 見送りには連合国軍の兵士達の他に、王城内で働く役人も来ていた。その中には宰相や将軍もいた。自分は辺りに視線をやりエレオノーラがいないか探した。王がその場で待っているとは考えられないので何処かで待機しているらしく姿が見えない。

 宰相と将軍から声をかけられた。どちらも感謝の言葉を述べ、そしてまた来て欲しいと言ってくれた。自分がもちろんと言うと宰相は目に涙を溜めた。将軍からは次来たら手合わせをしようと言われた。


「殿下、陛下がお見えになりました」


 ミハイルに言われてエレオノーラがやって来るのを見る。彼女はワルツを踊った時と同じ青いドレスを着ていた。エレオノーラと目線が合い、互いに口角が上がった。

 自分が片膝をつくと、部下達と警護の兵士達も片膝をついた。ガシャガシャと金属音がした。


「司令官殿、どうか道中お気をつけてお帰りください」

「ええ、ありがとうございます。陛下も何卒ご自愛ください」


 自分はエレオノーラの顔を目に焼き付けるために見つめる。彼女は微笑んでいた。だが無理をして笑っているのはすぐに分かった。彼女の美しい顔は少し引きつっている。


「またいつでも…いらしてください。国を挙げて歓迎いたします」

「ええ。…では、また逢う日まで」


 エレオノーラは頷いただけだった。これ以上は喋れないのだろう。涙は流していないが、僅かに震えていた。

 自分は兜を被り愛馬に跨がった。馬上からエレオノーラを見ると彼女の小ささがより際立った。別に小柄だろうと大柄だろうと、子どもだろうと老人だろうと王であるなら国民からしたら関係なくなる。小柄だから重責を負うのは大変だとはならないのは彼女も承知しているだろう。それに彼女は弱々しい外見からするとずっと度胸があるから大丈夫だと思う。


(そう、心配しているんじゃない。共にいたいだけなんだ…。なのに理由をつけようとしてしまう)


 自分は愛馬を方向転換させ陣営の外に向けた。


(何故理由をつけたがるんだろうな…。周りへの説明のためか?なんとも馬鹿らしい…)


 出発の前に振り返ってもう一度だけエレオノーラを見る。彼女は真っ直ぐと悲しそうにこちらを見ていた。見なければよかったと後悔した。ここから動きたくなくなった。愛馬から降りて抱きしめに行きたくなったのだ。


「殿下、行きましょう。夕刻までに間に合わなくなります」

「ああ、すまない」


 ドナートから叱責を受け、前を向き愛馬を歩かせ出した。そのまま振り返らずに陣営を出た。




「また逢う日まで」は尾崎紀世彦さんの曲名から引用いたしました。

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