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47.友人

 王子の視点です。


 無事に交代式を終えたと安心していたら、愛馬アイズベルクがしでかした。事もあろうか将軍の愛馬に……。思い出しただけでも恐ろしい。そんなに性欲が強い馬だっただろうか。むしろ自尊心が高くて、自身と釣り合わないと思ったら怒って暴れていた。将軍に聞いたら将軍の愛馬も似た性格をしているらしい。馬が合うとはこの事だろうか。


「殿下、聞きましたよ。大変でしたね…」


 いつもは茶化してくるアルトゥールが真剣な表情で言ってきた。


「殿下が会いに行かないから鬱憤が溜まっていたのもあるかもしれませんね」


 ドナートは思いっきり眉根を寄せており、より一層怖い顔になっている。


「かもな…。とても満足げな顔をしていたよ………」


 自分は頭を抱えた。


「将軍殿は笑顔で許してくださったが、何かお詫びの品を渡した方がいいのではないだろうか」

「仔馬用の馬着とか?」

「産れるとしたら十一ヶ月後だから春先か。厚手でない物がよいか?」


 うーんと唸っていたら状況を確認しに行ったミハイルが戻って来た。


「将軍殿の馬のネーヴェ号は落ち着いており、特に変化はないようです。…どうされました?」


 ミハイルは怪訝そうな顔をした。


「そうか、すまんな。いや、何かお詫びの品を用意しようと思って話し合っていた」

「ああ、将軍殿から本来なら繁殖にまわっているはずの年齢だそうなので、気にしないで欲しいと言伝を預かって来ました」


 将軍は心が広いようだ。後でもう一度謝罪に行こうと思う。


「はぁ、少し時間が出来たから陛下に会いに行こうかな…」

「え…もしかして馬の繁殖行為を見て欲情したとかですか?」


 アルトゥールが顔を青くしていった。そんなアルトゥールにドナートとミハイルが顔面蒼白である。


「違う!」




 エレオノーラの執務室に行くと将軍がいたので、自分は愛馬の非礼を詫びた。将軍は笑って許してくれたが、エレオノーラはきょとんとしている。


「アイズベルクさんとネーヴェに何かあったの?」

「ええ、互いに認め合ったのですよ」


 将軍はエレオノーラの質問を上手くかわした。


「?……競争でもしたのかしら?」


 エレオノーラは首を傾げた。


「…ではなく、気が合ったようですよ」


 将軍のように上手く言えなかったが、実際に気が合ったのだからいいだろう。隠す必要はないのだが、将軍がかわしたので自分も同じようにした。


「馬が合ったのね!」


 本来は騎手と馬の呼吸が合っているのをさす言葉らしい。

 エレオノーラと意見が一致して嬉しく思うが、将軍の愛馬が妊娠していたら話題になるだろうから後でばれるだろう。


「…将軍殿がわざわざ陛下の元に来るとは、何か緊急な用事でもあったのですか?」

「ええ、先ほど私の元婚約者のいる町に行ったのです」


 エレオノーラの表情が笑顔なので将軍と元婚約者は再会出来たのだろう。


「うふふ、そしたら…」

「そうしたら、とても見覚えのある顔をした少年がいたのです」


 二人とももったいぶらずに早く教えて欲しい。


「彼にカロリーナ…元婚約者の名前なのですが、を知らないかと聞いたら自分の母親だと言ったのです」


 元婚約者は別の男性と結婚したのか。おそらく少年は母親似だったのだろう。だが、そうするとエレオノーラの笑顔の理由が分からない。


「あの、結論からお願いしたいのですが…」

「すみません。小説を読まれる陛下向けの報告をそのまま引用してしまいました。結論から言いますと少年は私の息子だったのです。元婚約者、いえ妻は十年前に妊娠していたそうなのです」


 将軍は柔らかな笑顔になった。


「おお、そうでしたか。おめでとうございます」


 将軍が家族っていいものですよ、と言った意味が分かった。家族が一気に二人増えたのか。


「二人には寂しい思いをさせてしまいました…。今は妻は遠縁の農家を手伝っているそうなので、収穫後に二人を迎えに行く事になりました」

「官舎に住むのよね。良い部屋…いえ屋敷は空いているのかしら」


 将軍ともなればセマルグルでも屋敷が与えられる。他の国もそうでだろう。

 そういえば、捕らえた者達の妻子らは全員退去したのだろうか。色々理由をつけて残っている者達がいると聞いたのだが。


「三人で暮らせる広さがあれば十分ですよ」


 家族が増えるかもしれないのだから、予め広い屋敷でもいいのではないだろうか。そう言おうと思っていたら、エレオノーラが先に言った。


「子どもが増えるかもしれないじゃない」

「ははは、それもそうですね」


 将軍は笑顔でさらりとかわした。


「でしょう?ああ、司令官殿は何か用があったのではないですか?」

「え?ああ…」


 エレオノーラの顔を見に来ただけなんて言えない。ましてや将軍の前でだ。何かないだろうか。


「はい。ご両親の埋葬場所に案内していただこうかと思いましたが、もう夕方ですのでまた明日以降お願いします」


 自分は苦し紛れに言った。すでに明日の午後と決まっているのに何を言っているのだろうか。


「ええ、わかりました」


 先ほどの会話を覚えているはずなのに、エレオノーラは笑顔で言った。


「ほう…埋葬場所が見つかったのですか?」


 将軍はやや驚いたような顔をした。将軍には話が伝わっていなかったらしい。


「将軍も同行する?」

「では護衛をかねてご一緒させていただきます」




 もう少しエレオノーラの顔を見ていたかったが、もうすぐ夕食の時間帯なので退散し、時間調整は部下達に任せた。多分午後になるだろう。

 陣営に戻り各部署から報告をまとめる。まだ残党がいるかもしれないので将軍の妻子がいる町の見回りを強化させようと思う。こちらが把握出来ていない残党がいるかもしれないので、念には念を入れたい。宰相の家族の周辺にも警護をつけた方がいいだろう。

 手っ取り早く捕まえる方法はないだろうか。公の場で祝典などをすれば民衆に紛れてやってくるかもしれないが、本人達や国民に危害が加わったら大事になるので却下だ。


(あらゆる事を想定しておかないとならないからな。…叔父上の行動も気になるし。奴がすぐに来たからどうしても警戒してしまう)


 奴とは当然ながら某はとこである。叔父と某はとこが二大厄介な親戚である。よりによってこの二人が来るなんて、少し前だったら色々と理由をつけて逃げ出していたかもしれない。自分は多少成長出来たのだろうか。

 戸をノックする音が聞こえた。何となくだが叩き方からしてドナートだろう。


「殿下、まだ起きてらっしゃいますか?」


 やはりドナートだった。エレオノーラの聴力が良いと知ってから、意識して音を聞いてみていた。ドナートに入室を許可した。


「叔父君は明日の午後に王都に到着予定だそうです。陣営に来るのはいつ頃になるか不明だそうです。色々見て回っているそうですよ」


 ドナートは淡々と報告した。


「そうか。報告ありがとう」


 ドナートは頭を下げ、退室した。

 叔父が残党を全て捕まえて来てくれれば良いのにと思ってしまった。叔父は勘がいいので、すぐに見つけそうだ。残党だけでなく反乱者予備軍も捕まえてきてくれないだろうか。捕まえなくても諭すとかしてくれないだろうか。そう考えを巡らせたが、すぐに反省する。


(叔父上頼みにするとは駄目な奴だ…。自分で解決しなければ何も成長出来ない)


 つい今しがた自分は成長したと思ったのだが、そう思いたかっただけな気がしてきた。今まで助けてくれる大人達がいたが今はいない。これからもいないだろう。自分で考えて行動せねばならない。


(こんなに難しいものだったのだな…)


 何とかなると思っていたが、やることが思った以上に増えていき思考が追いつかなくなってきた。部下に手伝ってもらうにしても何をどうやって分配すれば良いのか分からない。誇りだ恥だ何だかんだを一切合切、全て捨てて頼み込んでみようか。部下達は…友人達は、そんな頼み方をしなくても快く引き受けてくれると知っている。知っているからこそ言いにくい。彼らに頼り切ってしまうのではないかと考えてしまう。だがいざ言ってみると、案外そんな事かとなり、何事もなかったようになるのではないだろうか。




「いつおっしゃってくださるのだろうと思っておりました。殿下の尊厳を尊重したかったので黙っておりました」


 ドナートが僅かに表情を緩ませて言った。

 翌朝、自分の仕事を手伝うように頼んだらこの言葉が返された。


「私達はもとよりそのつもりでいるのです」

「はい、殿下を助けてやってくれと言われてついて来たのですよ」


 言ったのは父だろう。全て父の想定内だったようだ。


「巻き込んでしまいすまない」


 自分は苦笑しながら謝罪した。


「殿下の初恋を見られたのでよしとします」


 ドナートは実に満足げな表情をしている。他人の恋愛話が好きな人間だっただろうか。もしや帰った時に妻子に話すつもりか。


「お、おう…」

「我々は一目惚れの瞬間も見られましたよ」


 アルトゥールはにんまりとしている。ミハイルは鼻で笑った。


「ええ、すぐには気付きませんでしたが、思い返せば…。良い物が見られました」


 ミハイルは嫌な意味をこめて鼻で笑ったのではなく、笑いを堪えようとしたらしい。


「そりゃよかったな…。俺はいずれこの国の人間になる。今までのように皆とは会えなくなる…」

「その話はその時になったらでいいでしょう。お涙ちょうだいですか?」


 アルトゥールがいつものように茶化してきた。

 いつも三人が近くにいてくれるのが当たり前だった。だが近い将来、当たり前が当たり前でなくなる。


「すまない」

「湿っぽくしていると叔父君に笑われますよ。それで長々と熱く語られるのです」


 ミハイルの指摘の通り、叔父に絡まれると長いのだ。まるで誰かのようだが、誰かのように回りくどくないので叔父の方がよい。

 皆で叔父の話をしながら子どもの頃の話もした。ついさっきのように思えたし、遠い昔の話のようでもあり不思議な感覚になった。




 アルトゥールは一体何を言っているんでしょうね。書いた私も驚きです。

 少しでも続きが気になる方は評価&ブクマをしていただけると嬉しいです!

 ※予告なく加筆修正をする場合がございますので、予めご了承ください。

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