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45.誕生日

 王の視点です。

 ※2020/08/31加筆修正いたしました。


 アレクセイが宝石の鑑定人の作業場に向かったと知らせが来たので、自分もダニエラとアンナが守っていてくれた首飾りと耳飾りを持って行った。十年間隠してあったので少々汚れていたからだ。

 鑑定人に見せると、首飾りに使われている宝石はブルーダイヤモンドとサファイア、アウイナイトだそうだ。アウイナイトという宝石は知らないので、侍女のジャンナに頼み宝石について書いてある本を持って来て貰い調べてみた。調べてみるとアウイナイトはかなり珍しい宝石のようだ。まず特定の地域でしか取れないし大粒の物も少なく、柔らかいので加工しにくいそうだ。何故他にも青い宝石は沢山あるのにこの宝石を使ったのだろうか。

 もっと調べたかったが、他にも仕事があるので寝る前に調べようと思う。




「先ほどぶりです。こんにちは」


 アレクセイがにこやかに登場した。処刑された人の名簿を確認していて気が滅入っていたので、少し明るい気持ちになれた。


「王子こんにちは。どうされました?」

「ええ、先ほど執務室にいらっしゃらなかったので何か気がかりな問題でもあるのかと思いましてね」

「ああそれは…両親が埋葬された場所が見つかったと知らせがあったので行って来たのです」


 アレクセイと部下達は目を見開き驚いた。自分も驚いたのだから彼らの反応は仕方ないと思う。


「そうでしたか…そうとも知らず、軽々しく聞いてしまいました」

「知らなかったのですから仕方ありませんよ」


 知らなかったら何を言ってもいいのかと頭の隅で思ったが、何故今それが出て来たのか分からない。どんな状況でも気の利いたセリフを言える人はいるし、いい雰囲気の時にとんでもない発言をする人がいる。自分は後者だろう。


「手が空いた時に案内をお願いできますか?あ、いや場所を教えて頂ければ自分達で行きます」


 どうして言い直したのだろうかと疑問に思ったが、自分が忙しいと思っているのだろうか。実際は宰相をはじめ、他の官がやってくれている方が多い。自分の所には精査されたものしか来ない。要するにあまり忙しくないのだ。


「いえ、大丈夫ですよ。何でしたら今からでも問題ありません。この後は何の用事もありませんか?」

「なくします」


 アレクセイの言葉に部下達が面食らった顔になった。どうやら用事があるらしい。


「…お言葉ですが、部下の方々を困らせるのはよくないと思います」

「では明日、お願いいたします。ああ、馬の尻尾の毛は集めさせていますので、その時お渡しいたします」


 アレクセイは部下達をチラリと見た後で言った。部下達はほっとした表情を見せた。


「ええ、ありがとうございます。では明日の午後なら時間を空けられますので、その時間でよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ。…首飾りや耳飾りについてなのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょうか?」


 何か問題でも見つかったのだろうかと思っていたら、アレクセイが鑑定人から聞いた話をしてくれた。


「陛下の誕生日は四月六日ですか?」


 アレクセイが突然自分の誕生日を言い当てたので驚いた。侍女達も驚いている。誰かから聞いたのだろうか。


「そうです。何故知っているのですか?」

「ご両親の誕生日は三月五日と十月二十七日ですか?」


 恥ずかしながら自分は両親の誕生日を知らなかったので、助けを求めダニエラとアンナの方を見る。


「左様でございます。三月五日はマルゲリータ様、十月二十七日がフェルディナンド様のお生まれになった日でございます」


 ダニエラが代わりに答えてくれた。


「ついさっきまで私も知らなかったのですが、誕生日石なる物があるのだそうです。あの首飾りに使用されている宝石は今言った誕生日の宝石なのだそうです」


 アレクセイは自分を真っ直ぐと見て言った。首飾りに使われていたブルーダイヤモンドは自分の、ブルーサファイアが母の、アウイナイトは父の誕生日石だそうだ。耳飾りに使われていた宝石も同様だそうだ。


「何故加工しにくい宝石を使用したのか調べようと思っていたのです。そうでしたか、父の…」


 自分は下を向いた。きちんと意味があったのだ。込められた思いがあったのだ。両親の優しい笑顔が浮かんできた。


「エレオノーラ大丈夫か?」


 アレクセイに名を呼ばれて顔を上げると、彼の心配そうな顔が見えた。ふとアレクセイの部下達を見てみると、真剣な顔と言うよりは笑いを堪えているような顔になっている。自分は首を傾げた。

 その様子を見たアレクセイが部下達の方に視線を向けた。やや睨みつけるようになっている。


「ええっと、陛下のお名前を呼び捨てで呼ばれたので…はい……」


 ミハイルがやや困り気味で言った。ミハイルに言われるまで気付かなかったが、アレクセイは二人きりではないのに自分の名前を呼び捨てにしたのだ。


「あ…まぁいいだろう別に」


 アレクセイは少し照れくさそうに言った。そんなアレクセイを見ていたら、自分も恥ずかしくなってきた。


「お二人きりにさせたいのは山々ですが、殿下はこの後、軍関係の仕事で大勢の人に会わねばなりません」


 ドナートが笑顔で言った。軍の機密で言えないのだろうか、少し曖昧な言い方をされた。北側の国境から入った隊と交代する隊が来るとか言っていたので、もしかしたらそれに関する仕事だろうか。帰国する人達にも労いの言葉をかけたりするのだろうか。


「私は挨拶しなくても…?」

「いや、来てはいけない。帰国を拒む者が出るかもしれない」


 アレクセイはそう言い、部下達と執務室から出て行った。

 帰国を拒むとはどうしてだろうか。首をかしげて悩んでいると、ダニエラから声をかけられた。


「陛下、首飾りと耳飾りにはご両親の特別な思いが込められていたのでございますね…」

「…ええ、かけがえのない宝石を守ってくれてありがとう」

「そんな!当然のことをしたまででございます」


 ダニエラとアンナは頭を下げた。もしあの宝石が奪われていたら、本当に両親の思いが消えてしまっていたのではないだろうか。


「早くあの宝石に相応しい王に、人間にならなくちゃいけないわね」


 まずは国の復興を進めなければ。問題は山積みだが何から手をつけたらいいのか分からない。優先順位が分からないので整理しなくては。

 食糧と医療は連合国軍の支援によって改善した。農業も再開した。壊れた建造物も建て直したり修築したりしているが、おそらく重要な建物からだろう。住宅は後回しになっているかもしれない。民は何処で寝食しているのだろうか。本当に何も知らない。


(後で聞かないと…)


 復興の他は教育改革だろうか。まずは女性の選択肢を増やす。まだ本人に伝えていないが、南領領主の母親を学校長とする良妻賢母の育成するための学校と、純粋に学問を追究するための学校を作る。候補地は中央領だが、こちらには男女共学の学校もあるとよいだろうか。


(収穫期に農家の手伝いをする学生を期待したけど、もしかしたら実家に帰って収穫の手伝いをする学生もいるはずよね)


 思った事を乱雑に書き殴る。きっと時間が経ったら自分でも読めないと思う。

 他には学問に付随するのだが気象予報官育成のために他国から教師になってくれる人を探さねばならない。


(あ、肖像画の修復…絵画をはじめ美術品の修復の職人も育成しないと。あの男は娯楽や贅沢を禁止したそうだから、芸術関係の人材はかなり少なくなっているのではないかしら?劇団や楽団の他に、画家も探してもらわないと)


 芸術は娯楽という人もいるが、特殊な技能が必要だから立派な学問だと思う。これを優先順位の下位にしたくはない。


(優先順位がぐちゃぐちゃになってしまったわ…)


 自分の顔から血が引いていくのが分かった。そんな自分を侍女達は心配そうに見ている。


「陛下、気分転換に踊りの練習をいたしましょう」


 リーザが笑顔で言うと、侍女達が賛同した。休んでばかりなので気が引けたが、彼女達に促されるままリーザと向かい合い手を組んだ。


「では、予備歩から行きますね」

「え、ええ」


 簡単に説明すると予備歩とはワルツで言う三拍目から動き出すのをさす言葉だそうだ。まだ習い始めたばかりなのでかなりゆっくりだ。


「いち、にぃ、さん、いち、にぃ、さん」


 リーザが拍を取ってくれているので、自分もつられて呟いた。


「いち、にぃ、さん、いち、にぃ、さん…」


 頭と体が連動していないような気がしてきた。思った通りに動けないし、足下ばかり見てしまう。リーザの足も踏んでしまいそうになる。


「あの、私でよければ歌を歌いましょうか?」


 トスカが言った。どうやらクラリッサが歌うように仕向けたようだ。リーザと自分は踊るのを止め、手を離してトスカを見た。


「いいの?」

「はい。旋律を母音唱法(ヴォカリッツォ)で歌います」


 歌で旋律を奏でるのなら、楽器が打楽器と低音楽器だけでも十分楽しめるのではないだろうか。


「陛下、いかがなされました?」

「歌と打楽器と低音楽器だけでも音楽が出来るのではないかと思って」

「ええ、その二つの楽器は曲の要ともいわれます。この二つの楽器が奏でる律動(リズム)で旋律は同じでも曲の印象が大きく変わるのですよ」


 トスカの説明に執務室中の全員が感嘆の声を上げた。


「全然知らなかったわ…。元楽団員の二人に担当楽器を聞いたときに旋律を担当する楽器じゃないと思って、少しがっかりしちゃったの。謝らないと…」

「どれか一つだけと言われたら一番目立つ主旋律が重要になりますからね…」


 トスカは眉を下げて微かに笑った。




 元楽団員二人に他に必要な物はないかと聞いた。低音楽器奏者には羊の腸を弦に使うのではないかと聞いたら今までは、絹糸等を試行錯誤して代用しようとしていたらしいが上手くいかなかったようだ。


「絹糸も高かったでしょう」

「はい、すぐに金欠になり麻にいたしました。弦の加工所も潰されてしまい、藁をも掴む思いでございました」


 低音楽器奏者のニコロは言った。彼に弦に使う羊の腸を用意すると伝えるととても喜んだ。


「馬の尻尾の毛はどうするつもりだったの?」

「弓がなくても演奏出来るのでございます。指で弦を弾くピッツィカートという奏法があるのでございます」


 ニコロはピッツィカートをしたふりをした。まだ知らない話が沢山ある。


「打楽器は何か必要かしら?」

「そうですね、私は叩ける物があれば何でも構いませんよ。空き樽でも空き箱でも。なんでしたらワイングラスに水を入れて、濡らした指で縁をなぞると音が出ますし、普通のグラスに水を入れて棒で叩いてもいいですし」


 ダリオも叩く仕草をした。


「それだったらすぐに用意出来そうね。羊の腸の加工は職人を探させるわね。馬の尻尾の毛は明日渡せるようよ」

「ありがとう存じます」


 ニコロとダリオは勢いよく頭を下げた。


「こんな末端にいる私達の事も考えてくださるなんて有り難くて有り難くて…」


 ニコロとダリオは目が潤んでいる。

 自分は皆が思っているほど忙しくないので胸が痛くなってきた。


「…他に必要な物は?」

「急がなくていいのですが、松脂が欲しいです。これを弓に塗らないと音が出せないのです」

「私はスティックやマレットがあるといいですね。手でも叩けはしますが、やはり専用の道具を使った方がいいと思います」

「では用意させるわね」


 二人はとても嬉しそうだ。その二人が真剣な顔つきになった。


「あの…失礼ですがそちらにいるのはトスカではありませんか?」


 ニコロが言うとダリオも同じように思っていたらしく頷いた。


「はい、私を覚えていてくださったのですか?」


 そんな二人にトスカは驚いたようだった。


「もちろんです。昨日も気付いていたのですが、言い出しにくくて…」


 同じ城にいると言っても他の部署と関わりがないので十年間知らなかったようだ。城内の移動も制限されていたそうなので尚更だろう。


「むさ苦しい所に女の子が来たってみんなで喜んでいたんです。また再会出来て嬉しいです」

「陛下、このような機会を作ってくださり本当にありがとうございます。必ず陛下が気に入ってくださる音楽をお届けいたします」


 元楽団員の三人がお辞儀をした。自分は笑顔で対応したが、何やら大袈裟になってきていて気が気ではなかった。




 トスカは名前だけ拝借したので死んだりしません。

 少しでも続きが気になったら評価&ブクマをよろしくお願いいたします。

 ※予告なく加筆修正する場合がございますので、予めご了承ください。

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