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44.青い宝石

 王子の視点です。

 ※2020/08/31加筆修正いたしました。


「殿下から分けて頂いたお菓子、ほとんど食べてしまいました…」

「そうか…」


 アルトゥールはがっくりと肩を落としている。

 朝一番で言う事なのだろうか。もっと寄こせと言っているのだろうか。


「私の記憶ではアルトゥールが一番多くの菓子を貰っていたと思います。それに頂いたのは夜ですよ?一晩で食べてしまったのですか?」


 ミハイルが言うとアルトゥールは悲しそうに頷いた。ドナートとミハイルは呆れている。もちろん自分も呆れている。


「もうやらんぞ」

「殺生な!」


 アルトゥールがすがりついて来たがすぐに払った。

 計算して食べないのが悪いのだ。そんなんだとすぐに丸くなってしまう。


「陛下が召し上がっていたドルチェとやらが美味しそうでしたね」


 ドナートは顔に似合わず甘い物が好きらしい、というかは好きになったようだ。ドナートの妻は菓子作りが得意らしい。たまに差し入れを持って来てくれていた。


「砂糖なら国内で作れるでしょうが、塩はどうしたのでしょうか?海がない国ですから輸入に頼るしかないはずなのに輸入した形跡がありませんでした」


 ミハイルは眉間に皺を寄せて言った。菓子の話からそこまで考えるのか。


「岩塩が取れるとかか?」

「いえ、調べたら崩落によって閉山していました」


 他に塩を作る方法があるのだろうか。それともこっそりと塩を取っていたとかだろうか。


「殿下はこの国の料理を召し上がってましたよね?いかがでしたか?」


 どうと言われても普通に味がしたとしか言えない。自分の渋い顔を見て部下達も渋面になる。


「まさか陛下のことしか考えてなくて味を覚えていないとか…」

「覚えてる!普通に味がしていたから何故だろうと思っていたんだよ」


 ミハイルを睨みつけた。料理は香草や野菜と肉、魚から取った出汁で作ったのだろうか。後で誰かに聞いてみようか。




 今すぐエレオノーラに会いに行きたかったが、まずは各地にいる連合国軍からの報告を把握せねばならない。食糧は十分に行き渡っているようだし、奪い合いも起きていないようだ。ほとんどの地域で農業も再開したようだ。十年前までは他国にも輸出していたぐらいなので、自分達で作れるようになれば食糧配布も必要なくなるだろう。

 ケレース王国全体で医療団による治療が行われている。飢餓による栄養不足から引き起こされる症状が多いようだ。あるいは怪我をしても医者に行く金がなく悪化してしまい、手足を切断せざるを得くなった人が何人もいたようだ。


「宰相殿以外にも義足や車椅子が必要か。後は片腕でも出来る軽作業とか…?」


 別に軽作業でなくとも訓練すれば足を手のように器用に扱えるのだろうが、時間がかかるだろうからさほど付加がかからない作業がいいだろう。書類等の不備確認とかだろうか。しかしそれだとある程度知識がないといけない。


「考えるのはこの国の人に任せましょう。陛下なら面白い発想をなさるかもしれませんしね」

「愛人達を役者にしようとはなかなか面白いですよね」


 ミハイルとアルトゥールが言った。

 この件は司法大臣が話を持ち帰ったそうだが進展はあったのだろうか。


「向き不向きがありますからね、様々な可能性を考えないといけませんね」




 昼前にエレオノーラの執務室に向かっていたら、途中で宰相の部下に会い彼女は現在執務室にいないと言われた。何処に行ったのか聞くと城の外に出たらしい。王城の敷地からは出ていないそうなので城の周りを散歩でもしているのだろうか。

 居場所が分からないため探しようがない。なので城内で作業中の人々の様子を見て回ることにした。抜き打ちのようになってしまい申し訳なく思う。


「おお、殿下またお越しくださいましたか!」


 宝石鑑定人達の作業場に来た。突然来たのにも関わらず歓迎してくれているようだ。一昨日来た時よりも作業が進んだようで、並べられている宝石に鑑定済みの札が沢山付いていた。王冠から外された宝石も歴代の王の肖像画や記録などから割り出しているようだ。手っ取り早いのは王冠から宝石を取り、加工した職人がいばいいのだが、その職人はもういないようだ。遺体で見つかったらしい。連合国軍の兵士がやったのではないので、逃げようとしたところあの男の信奉者に殺されたのだろう。城内には宝飾品の作業場があったらしいので、半ば強引に作らされていたのかもしれない。


「王冠の復元は進んでいるか?」

「はい。削られてしまった宝石もあるようで、完全復元は無理のようです。加工した職人は見事な腕前をしています。石の個性を見極めておられます。一度お話して見たかったですね」


 長は残念そうに言った。他の二人の鑑定人も同じように残念そうにしている。

 しんみりとしていたら、後ろで歓声が起きたので、もしやと思い振り返ってみるとエレオノーラがいた。今日は濃い紫のドレスを着ている。何を着ていても美しい。


「司令官殿こんにちは」

「こんにちは。陛下もこちらに用があったのですか?」


 エレオノーラに自分が探しているとは伝わっていないようだ。宰相の部下は自分がエレオノーラの執務室に向かったと言わなかったのか、それとも彼女が捕まらなかったのかもしれない。

 エレオノーラと自分のために椅子が運ばれてきたので腰を掛けた。


「こちらに司令官殿が向かったと聞いて来ました」


 女性鑑定人が目を輝かせて頬を赤くし、かなり興奮した様子でエレオノーラを見ている。


「皆さんが宝石を鑑定してくださっている方々ね。どうもありがとう」


 エレオノーラがにっこりと微笑むと鑑定人達が体をびくりとさせた。


「女王陛下お初にお目にかかります!」


 長はかなり緊張しているようで、先ほどまでとは違う人のようになっている。それでも今まで鑑定した宝石や王冠についての説明をした。エレオノーラは感謝と労いの言葉を述べた。


「皆さんの腕を見込んでお願いがあるのだけれどいいかしら?」

「はい、何なりとお申し付けくださいませ」


 一段と長の背筋が伸び、それを見た他の二人の鑑定人も背筋を伸ばした。


「この宝石を綺麗に磨いてくれないかしら?父が母に贈った物なの…。侍女達が十年間守ってくれていたのだけど、少し汚れているようなの」


 エレオノーラが言うとリンダから長に箱が渡された。宝石が入っているらしい箱はそれだけで最高級品であると窺わせる。箱は装飾はされていないが全面ベルベットで覆われていた。


「ほう…失礼いたします」


 他の二人の鑑定人は長の左右に移動し、長は静かに箱を開けた。開けた瞬間に三人が息を飲んだのが分かった。じっと固まって動かなくなってしまった。その様子を見てエレオノーラが心配そうに声をかける。


「どうかしら?綺麗になりそうかしら?」


 エレオノーラの声に三人は我に返った。長はじんわりと汗をかいている。

 箱の中には首飾りと耳かがりが入っていた。首飾りには青い宝石が横一列に五粒付いており、耳飾りにも青い宝石が一粒ずつ付いていた。どれも眩く光り輝いている。


「お、お父さんコレってもしかして…」


 女性鑑定士…長の娘の声が震えている。長の娘は手も震えながら中央の宝石を指さした。


「ああ、おそらく中央の石はブルーダイヤモンド、隣の石は左右ともサファイヤで、両端の石はアウイナイトでしょう」


 長は首飾りを一通り見た後、満面の笑みで答えた。

 青い宝石はサファイアしか知らなかった。ブルーダイヤモンドとアウイナイトとやらは知らなかった。ブルーダイヤモンドは青いダイヤモンドだとしてアウイナイトとはなんだろうか。宝石なんて興味がないのでさっぱり分からない。


「色が違うと思っていたら全部同じ宝石ではなかったのね?」


 エレオノーラは興味深そうに真剣な眼差しで尋ねた。エレオノーラは若干の色の違いには気が付いていたようだ。


「ええ、そうでございます。銀細工も細やかで非常に美しい…」


 長は背を丸めルーペを覗きながら楽しそうに言った。長の表情も輝きだしている。


「耳飾りは両方ともサファイアです。縁取っているのはダイヤモンドですね」


 長が首飾りを鑑定している間に、他の二人が耳飾りの鑑定をしていたようだ。こちらも銀の細工がついている。


「そうだったのね…。皆さんありがとう」


 エレオノーラは柔らかに微笑んで礼を言った。自分に向けられた笑顔ではないのに見とれてしまった。笑顔を向けられた三人は頬が赤くなっている。


「いえそんな!こちらを預からせて頂き、責任を持って綺麗にいたします!」


 再び長は背筋をピンと伸ばして言った。他の二人の背筋も伸びきっている。


「ええ、お願いするわね」


 エレオノーラはまた笑顔で言った。彼女はこちらを向いた。


「司令官殿、私はここで失礼いたします。何かあれば執務室におりますので、いらしてください」

「はい」


 エレオノーラはとても自然な動きをしたので、その場の雰囲気に流されてこの場に留まってしまった。本当だったら彼女について行こうと思っていたのにだ。


「はぁ、この国に来てよかったです…」


 長の娘は恍惚とした表情になっていた。男性鑑定人も嬉しそうな顔をしている。彼らを見ていたら嗚咽が聞こえてきた。音のする方を見たら驚いたことに長が目元を押さえて泣いていた。


「どうした?大丈夫か?」


 慌てて自分は長に声をかけた。長は何かを喋ろうとしたが上手く喋られなかったので、落ち着くまで待った。


「殿下申し訳ございません。感動してしまったのと、この首飾りに込められた思いを考えたら泣かずにはおられませんでした」


 長の目は赤くなっているが、しっかりとこちらを見て答えた。


「というのは?」

「はい、誕生日石と言うのがあるのですが…、中央のブルーダイヤは四月六日、隣のブルーサファイアが三月五日…」

「殿下、サファイアは青色以外もあるのでございますよ」

「お、おう」


 長の娘が言った。

 そうだったのか。何故、青い物ににわざわざ青とつけるのかと思った。


「そして両端のアウラナイトは十月二十七日です。おそらくですが、女王陛下のお誕生日は四月六日なのではないですか?」


 鑑定人達が一斉に自分をじっと見る。


「すまない。陛下の誕生日は聞いていない…」


 鑑定人達は驚愕の表情を見せた。部下達を見たら、苦笑いをしたり頭を抱えていたり呆れていたりしていた。そうか、聞かないといけなかったのか。冷や汗が出てきた。


「…隣と両端の石はご両親の誕生日石でしょう。お父上からお母上に贈られたとのことでございますが、女王陛下が成長なさった時にお譲りするつもりだったのかもしれません」


 長がまた泣き出しそうになりながら言った。


「耳飾りがブルーサファイアなのでお母上のお誕生日が三月五日なのではないでしょうか」


 長の娘が宝石をじっくりと見ながら言った。


「そして、ブルーサファイアを縁取っているダイヤモンドは四月の誕生石ですので、こちらもお譲りする予定だったのではないでしょうか」


 男性鑑定人は首飾りと耳飾りを手で示しながら言った。


「そうか…」

「女王陛下のお父上はこんなに妻や娘の事を思って贈り物をなさったというのに…。殿下は陛下への贈り物を誰かに任せるなど、なんと恐ろしい……」


 長はとても悲しげにだがトゲのある言い方をした。他の二人の鑑定人達の目線が怖い。


「……」


 心がとても痛くなった。早くここから抜け出したかったが、また長々と熱弁されてしまった。




 すみません。宝石について詳しくないんです…。

 続きが気になる方は評価&ブクマお願いいたします。

 ※予告なく加筆修正をする場合がございますので、予めご了承ください。

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