たまには(?)あってもいいよね、こんなこと。
その時、黄島さんは。
そうだったのか……って、苦笑いしていた。
とてもいい人だと思う。
優しくて、強くて、何よりも紳士。
だからこそ私なんかより、もっと相応しい相手がいるのでは?
そう考えていたけど……。
困った時に颯爽とあらわれて、助けてくれるなんて。
まるで私のためのヒーローか、白馬に乗った王子様じゃない。
これはもしかしたら、恋愛の神様のお告げなのかも……なんて、都合良く考えてみたりして。
都合良すぎるかな?
ところで。
私のすぐ目前に立っている黄島さんは、吊革につかまって……筋トレをしているらしかった。
広島駅に到着する。
ここから職場までは、また路面電車を乗り継いで移動しなければいけない。
黄島さん、ニッコリしながらまた手を差し出してくる。
私は。
その手をするりとかわして、思い切って、彼の太くて逞しい腕に抱きついてみる。
なぜって、そんな気分になったから。
「まるで、コアラの気分です」
「……安心してください。無事に、捜査1課の部屋までお届けします」
ひょい。
で、結局、相変わらずのお姫様抱っこ。
でもなぜだか、人目がまったく気にならなくなっていた。
「あの、黄島さん」
「なんでしょう?」
「その、えっと……」
今でも私のこと、好きですか?
「あの……」
うう、恥ずかしい!!
「……初恋の相手って、誰ですか?」
「……忘れました。それぐらい、古い話です」
「じゃあ、私のことは……何番目に好きになった相手ですか?」
言っちゃった!!
「さぁ……どうでしょう?」
「その……今でも、気持ちは……変わっていませんか?」
すると黄島さんは真剣な表情で、
「あきらめの悪さが俺の良いところだ、って隊長によく言われます」
それに、と彼は続ける。「すぐに変わってしまうような気持ちなら、本気じゃなかったということです」
ああ、そうか。
そういうことだったんだ。
高岡警部に告白して、相手にしてもらえなくて、しぱらくは凹んだけど……意外と引きずらなかった。
たぶん私は、恋に恋していただけなんだ。
でなきゃ、いくら誘われても婚活パーティーなんて行かないよね。
初恋は上手くいかないっていうけど……。
それはつまり、まだ本当の愛も恋も知らない内の、一時的な感情の高まりみたいなものだからなのかな?
……私、もう成人してるのに……まるで、思春期の少女だわ。
「どうかなさいましたか?」
「いろいろ考えごとを……」
「誰のことを、ですか?」
にっこり。
私もにっこり。
「初恋は上手くいかないっていいますよね?」
「そう言いますね」
「繰り返しになりますけど、黄島さん、私のことは初恋じゃないんですよね?」
「そうですよ」
「じゃあ……決まりですね。初恋じゃないなら、きっと上手くいきますよ」