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記憶にある初めての味

二階の宿泊客の部屋へ料理を運び、スカムや商人達の注文通り料理を作って暫く立った頃、テーブルに料理が並び出した辺りでようやく注文が止まる。


「ふぅ……ったく、あいつら一体どんだけ食う気だよ」

「お肉足りるかな?」

「問題ないだろ。一番肉を消費してるのはスカムの野郎だが、あいつもそれを見越して肉だけは大量に買い込んでやがったからな」


今日食糧庫を覗いてみたら肉だけ他の食材の三倍の量は用意されていた。

野郎、俺達がこの宿に泊まっている間に死ぬほど肉料理を食い溜めする気なのだろう。

まぁ毎年の事なので今更何か言うつもりは毛頭ないが、店主なんだから少しは手伝えと思ったりはする。


そんな事を考えながら受けていた注文の最後の料理を作り終えティアに料理の乗った皿を手渡しテーブルに運んで貰おうとした。

ティアが料理を受け取りテーブルに運ぼうと調理場の入口に向かう。

すると調理場の入口の前でティアがピタリと足を止め、じっと調理場の外の方を黙ったまま見つめていた。


「ティア、どうした?」

「……テオ、あれ」


ティアの様子が気になり、俺とアリスは手に持っていた物を一旦置きティアの元へと歩み寄り、ティアの視線の先へと目を向ける。

そこには階段の影から飯を食いながらどんちゃん騒ぎをしているスカム達をじっと見つめる黒いフードを被った何者かが居た。

スカム達の方からは階段の手すりが邪魔になって見えていないだろうが、調理場からはその背中が丸見えだった。

そして俺はその背中、というかその恰好を見てそれが何者なのかに気が付いた。


俺はティアにここで待つように言いながら調理場から出てその人物に背後から声を掛ける。


「そんな所で何してるんだお前」

「っ!?」


俺が声を掛けるとそいつは驚いたようにバッと顔をこちらに向ける。

激しく顔を動かした時、目深に被っていたフードが浮き上がり右目を覆う大きな眼帯、それでも隠し切れない大きな傷を負った顔が見えた。


それは今日、穢神を探している際に出会ったあの黒フードだった。


「お前、昼に会った――」

「テオスだ、また会ったな黒フード」

「変な呼び方をするな、オレはそんな名前じゃない」

「そう言われても俺はお前の名前を知らねぇし、嫌なら名前を教えてくれ」


俺がそう言うと黒フードは少し考えるような素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた。


「……カイウスだ」

「偽名くせぇ……まぁ良いか」


偽名であろうとなかろうと、それでこちらに何か不利益がある訳でも無し、そこを気にする必要は無いだろう。


「それでそんな所でお前は何をしてるんだ?」

「いや、それは……」


カイウスが何か言い辛そうに顔を逸らした時、ふと視界の隅に何かが見えそちらに目を向ける。

そこには俺とティアが客室まで運んだトレイと料理が綺麗に無くなった皿が置かれていた。


「聞き覚えのある声だと思ったら、あの宿泊客はカイウスだったのかよ」

「そういえば料理を運んできた人間の声に聞き覚えがあると思ったが、あれはお前だったのか」


お互い改めて認識が一致した所でカイウスは立ち上がってこちらに向き直る。


「テオスはここの従業員だったのか?その割にはここ数日泊っている間見た事が無かったが」

「ちげぇよ、俺は客で今日からここに泊まってんだ。料理を運んでた事については……まぁちょっとここの店主に借りがあってな、ここで料理を作っててそのついでだったというか」

「あの料理を作ったのはお前だったのか?」

「ん?あぁそうだが」

『む……作ってるのは私とティアだぞ』


それは分かってる。

目の前にカイウスが居るのにそう声を出す訳にも行かないので、俺は右手で宥めるように左手(アリス)に触れながらカイウスに質問する。


「こんな所でコソコソしてわざわざ食器を持って来てくれたって訳でも無さそうだが、本当に何の用だったんだ?」

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