第51話 白狼
ティノとエヴァンドロがちょっとの間目を離したスキに、森に入っていたマルコは1つの白い毛玉を見つけた。
「……?」
“ツンッ!”“ツンッ!”
マルコは、ソフトボール位の毛玉が何か分からなかったので、そばにあった木の枝でつついてみた。
“モゾモゾッ!”
つついた毛玉はどうやら生き物らしく、少しだけ反応した。
「……なんでしょ?」
マルコは、そっとその毛玉を持ち上げて見てみた。
「…………いぬ? でしゅか?」
その毛玉は子犬のようで、かなり弱っていた。
「……あっ!? けがしてるでしゅ!」
その子犬は、お腹が切られたようなキズがあり血が流れていた。
更に、後ろ足の先が片方欠損していて、持ち上げているマルコの掌は子犬の血で真っ赤に染まっていた。
「たいへんでしゅ!」
子犬の状態を確認したマルコは、そのままその子犬を持ったまま森から出て、ティノの方に向かって行った。
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「ティノしゃま~!」
ティノに近寄りつつ、マルコは掌の上の子犬をティノに見せた。
「マルコ! 勝手に森には入るなとあれほど……」
ティノがマルコの顔を見て叱ろうとした後、子犬を見て止まった。
「ティノしゃま! このこをみてくだしゃい!」
マルコは子犬のケガをしている部分を見せて、ティノに治療を頼んだ。
「ん!? それ白狼じゃねえか?」
その子犬を見たエヴァンドロが、その犬の正体を呟いた。
「ハクロウでしゅか?」
「あぁ、白い狼って事だ」
マルコが持ってきた子犬は、犬ではなく狼だと分かった。
「治してどうする? そいつは成長次第でBランクの魔物になるんだぞ!」
ティノは白狼のキズを見た後、マルコに治す理由を聞いた。
「えっ……!? なおしてくれないのでしゅか?」
ティノならすぐに治してくれると思っていたマルコは、ティノに治す気が無さそうな事を言われてうつ向いた。
「……まぁいっか」
落ち込んだマルコの顔に、ティノは何となく負けた気になった。
“スッ!”
ティノは白狼に手をかざして、光魔法による回復魔法を放った。
すると白狼のキズが塞がり、再生魔法で欠損していた足も治した。
「えっ!? あんた再生魔法まで使えるのか?」
エヴァンドロはティノが白狼のキズだけでなく、欠損していた部分も先だけとは言えすぐに治したことに驚いた。
年月が経っても、いまだに再生魔法は貴重な能力である。
ティノが戦闘だけでなく、最上級魔法まで使うことに、改めて感心と驚異を覚えた。
「ありがとうございましゅ! ティノしゃま!」
白狼のキズが治ったのを見たマルコは、先程の落ち込んだ顔から一気に元気になった。
「……………!?」
「あっ! めをさましたでしゅ!」
キズが治った子白狼は、すぐに目を開いて辺りを見渡した。
その事に気付いたマルコは、子白狼の顔を覗きこんだ。
「ガウッ!」
“ガブッ!”
「いたっ!」
驚いた子白狼は、マルコの手を噛んで地面に飛び降りた。
「グルルルルッ!」
地面に降りた子白狼は、ティノ達3人に向かって唸り声を上げた。
「大丈夫か? マルコ」
子白狼に噛まれて少し血が出たマルコの手を、すぐにティノは治した。
「……いたいでしゅ。でもげんきになってよかったでしゅ!」
言葉とは裏腹に噛まれたマルコは少し元気がなくなった。
「…………そうだ」
かなりの魔力を使って治して上げた子白狼が、唸り続けているのを無言で見ていたティノは、ある事に思い至った。
「マルコ! こいつをお前の従魔にしろ!」
ティノはこの子白狼が、そのうちマルコの役にたつと思い、従魔にさせることにしたのだった。




