第50話 毛玉
エヴァンドロが、冒険者登録してから数日たった。
現在ティノ達は、ソーツの町近くのいつもの草原で、マルコの訓練を兼ねた魔物討伐をしていた。
「スパーダ・ディ・アックア(水の刃)」
最近は、戦闘に魔法を使いつつ戦う事が出来るようになって来たマルコが、火吹き蛙2匹に向かって水魔法を放った。
“スパッ!”
マルコの魔法によって、蛙の頭部は胴体から切り飛ばされた。
「ティノしゃま~!」
魔物を倒したマルコは、ティノに向かって走り出した。
「今のはとても良かったぞ」
笑顔でティノに寄ってきたマルコを、ティノは魔法を誉めつつマルコの頭を撫でた。
「……他人から見たら、どう見ても親子だな……」
2人のやり取りを見ていたエヴァンドロは、しみじみと呟いた。
ここ数日エヴァンドロと3人で戦っていたのだが、エヴァンドロは料理スキルの影響なのか、短刀を使った戦闘が得意なようである。
魔法の方は、料理で使う用に覚えていた数種類の初級が使えた。
エヴァンドロが言うには、チリアーコの奴隷だった頃、時おり戦闘をさせられていたので、多少の荒事には対処出来るようである。
「……ハハッ、違いますよ」
苦笑しつつ、ティノは否定した。
「マルコ、あっちにまた魔物が現れたぞ!」
「はいっ!」
ティノはエヴァンドロを誤魔化す為、少し遠くに見えた森近くに現れた魔物を指さし、マルコに討伐をするように向かわせた。
ティノに促されたマルコは元気に返事して、魔物に向かって走っていった。
「エヴァンドロさん……」
マルコが少し離れたのを見て、ティノはエヴァンドロに声をかけた。
「んっ?」
「明後日の事なのですが、1日マルコの面倒を見ていて貰えませんか?」
「……明後日? 別に構わないけど……、何かあるのか?」
ティノの突然の頼みを受け、エヴァンドロは理由が気になった。
「明後日の1日を使って、現在のケトウ大陸の情勢を調べて来ようと思いまして……」
「ケトウ……? ケトウ大陸は今、各国が戦争状態で危ねえらしいが……、そうか、2人はケトウ出身だったのか……」
ティノとマルコの出身であるケトウ大陸は、エヴァンドロが言ったように、戦争続きでかなり危険である。
しかしティノは、妻のラウラが眠るトウダイ村の現状がずっと気になっていたので、1度様子を見に行きたいと思っていた。
マルコを1人で置いて行くのは、先日の件もあり気が引けたが、エヴァンドロなら1日位任せても大丈夫だと思い、1度行ってみることにしたのである。
「すいませんがお願いします」
「あぁ、全然大丈夫だぜ!」
「ありがとうございます」
ティノの頼みをエヴァンドロは快く引き受けてくれた。
その事に、ティノは頭を下げて感謝した。
「……あれっ? マルコは……?」
「……?」
2人が話している間、魔物と戦っていたはずのマルコの姿が、回りを見渡しても見当たらなかった。
「まさかっ! 森に入って行ったのか?」
「!?」
マルコが戦っていたのが森の近くだったので、ティノとエヴァンドロはその事に思い至り、森に向かって走り出そうとした。
“テテテテッ!”
「ティノしゃま~!」
しかし2人が走り出す寸前で、森からマルコが走ってきた。
「マルコ! 勝手に森には入るなとあれほど……」
ティノがいつも言い聞かせていた事を破り、勝手に森に入ったマルコを叱ろうと思ったティノだが、いつもと違うマルコの様子を見て、途中で止まってしまった。
「ティノしゃま! このこをみてくだしゃい!」
そう言ったマルコの手には、真っ白な丸い毛玉のような物を持っていた。




