第22話 疑問
セービへの航海は特に何事もなく、無事にたどり着いた。
「まさか全属性を覚えるとは思いませんでした」
船旅の間、王子であるアルミロに魔法を指導していたティノだったが、たった9日でティノが使える全属性の初級魔法を覚えてしまった。
「師匠の指導が分かりやすかったからです」
何事においても普通の人より才能の無いティノは、地道にコツコツ時間をかけて魔法を覚えてきたのだが、たった9日で覚えた王子を見て、才能がある事に羨ましさを覚えた。
「カルロもそうだけど、才能があるっていいなぁ……」
カルロにも、ティノが身を守るために色々教えたので、5才にして色々なスキルを覚えている。
アルミロは現在10才で、初等部に通っているのだが、これほどの才能があるのに期待されていないと言うのは、もったいないとティノは思った。
「セービからの残り1週間は基礎を重点的に行って行きましょう」
「はい! 師匠!」
初めて会ったときからアルミロは、王族にも関わらずティノに対して常に丁寧に接してくる。
更に、魔法指導を始めてからティノの事を師匠と呼ぶようになっていた。
『何でこんな良い子で才能があるのに、期待されていないのだろう?』
アルミロの才能を知らず、期待していないこの国の王は何を考えているのか、ティノは理解できないでいた。
後に知る事になるのだが、アルミロは王がメイドに手を出して出来た子供で、その血筋から王にも2人の兄達にも期待されていないのである。
『あれっ? そんな期待されていないアルミロに、国にとって重要な再生魔法士を動かせるのか?』
ティノは王都に着く今更になって、その事に気付いた。
『アルミロが嘘ついてるとは思わないんだけどな?』
王都に近付くにつれて、ティノは不安な要素が増えて来たが、考えても仕方ないと気持ちを切り替えて王都に向かって行った。
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「予想通りになったな……」
王都に着き城内に入り、手足を再生して貰おうと思っていたティノだが、現在再生される事なく城から追い出された。
「フェルモ兄上! ただいま戻りました」
城内に入り少しして、アルミロの兄であるハンソー王国第2王子のフェルモに出会った。
「あぁ、お前か……」
アルミロの顔を見て、不機嫌そうにフェルモは答えた。
「国境の砦にいる将軍に、書類を渡すだけの旅なのにずいぶん時間がかかったな?」
「……申し訳ありません」
王子であるにも関わらず、馬車も用意されず、騎士1人しかお供に付けず、それでも任務をこなしたアルミロにフェルモはきつい言葉を投げ掛けた。
「ん!? 何だそこの平民は?」
ティノの姿を見つけ、フェルモは更に不機嫌な顔になった。
「この方は、我々が魔物に襲われていたところを助けていただいた旅の御方です」
アルミロの背後に立っているリヴィオが、アルミロの代わりに答えた。
「初めまして、私はリンカン王国から来ましたティノと申します。どうぞお見知りおきを……」
頭を下げてティノはフェルモに挨拶をした。
“ピクッ!”
「何だと!?」
「どうした? フェルモ……」
ティノの挨拶に、大きめの声をあげたフェルモの背後から1人の青年が現れた。
「兄上!?」
「ベニート兄上!?」
現れた青年にフェルモとアルミロが反応した。
その青年が第1王子のベニートである。
「兄上、アルミロの奴がリンカン王国の人間、しかも平民を城に勝手に入れたのです!」
アルミロと違い、フェルモはリンカン人を嫌っているようである。
「落ち着けフェルモ! アルミロ! 何の理由で他国の民を招き入れた?」
フェルモとは違い、ベニートは冷静に対応してきた。
「この方は私とリヴィオが魔物に襲われていたところを助けて頂き、更に王都までの護衛をして頂いたので、お礼に手足を再生して差し上げようと、城内にお招きしました」
ベニートにアルミロがこれまでの経緯を説明した。
「そうか……」
アルミロからの説明にベニートは納得したように頷いた。
「ティノとやら、どうやらうちの者が世話になったな」
「いえ……」
かなり上からの物言いだが、立場上当たり前かと思いつつティノは返事を返した。
「残念だが、再生魔法士は他の者を治しているので諦めてくれ」
「な!? 兄上どなたが!?」
ベニートの言葉にアルミロが反応した。
ティノは、もしかしたらこうなるとは思っていたので、あまり驚かなかった。
「王のペットのビアンコだ」
聞いてみたら、どうやらペットの犬が魔物に襲われ、脚を負傷したらしい。
「犬より下かよ……」
城の外に出されたティノは、断られた理由に、さすがに苛立ち愚痴を呟いた。
すいません体調を崩しました。皆さんもお気をつけください。




