達花誠人
早くも入部試験当日。
この一週間で、最初は泣くほど何もできなかった耀は、着実に力を付けていた。
その成長速度は並みじゃない。
彼女には闘王学園の選手たちにも匹敵するような才能があると、剛羽は確信していた。
(あんなやつが今まで無名だったなんて信じられないな)
剛羽は、入学初日早々、他の生徒たちの注目の的になっている耀を見る。
《IKUSA》で彼女のことを検索してみたが、出てきた情報は剛羽と試合をしてフィールド損壊のため無効試合になったことだけだ。彼女の過去の戦績はおろか、今までどこで何をしていたかすら分からない。
彼女の過去については少し気になるが、少なくとも今はどうでもいい。
耀のような才能ある選手と一緒に練習できるのだから。それだけで満足だ。
一緒に練習するなら、強い奴とやりたい。
だからこの一週間、耀という玉を磨き続けた。入部試験を突破した後のための布石でもある。
「そろそろ行きましょ」
放課後教室で剛羽が本を読みながら時間を潰していると、上から件の少女の声が降ってきた。
顔を上げると、案の定、耀が腕を組んでこちらを見下ろしている。何というか、一緒に練習しているときと違って、プライドが高そうで声を掛け難い雰囲気だ。
「学校じゃ話掛けるなって言ってなかったか?」
「あなたが一人ぼっちで寂しそうにしていたから、声を掛けてあげたんです。感謝しなさい」
「そういうこと言ってると、友達できないぞ」
「よ、余計なお世話よ! あなたには言われたくありません!」
耀はぷいっとそっぽを向いた。
こういう表情をしているときは親しみ易さを感じる。
「つーか、クラスもまだ決まってないし、焦ることないだろ」
そう、剛羽たち新入生は、まだ正式なクラスが決まっていないのだ。
九十九学園には砕球科、風紀科、普通科の三つがあり、砕球科もしくは風紀科に入るためには、本日の砕球部と風紀部が共催する入部試験でアピールしなければならない。
そのため、普通科希望の生徒以外は、今日のホームルームなどは一時的に配属されたクラスで受けているのだ。
「友達づくりの悩みなんて時間が解決してくれる」
「それはどうでしょうね」
言われて、剛羽が教室内にいた生徒たちに目を向けると、一斉に警戒態勢を取られた。
「なん、だと……?」
薄々勘付いていたが、どういうわけか自分はこの教室内にいる生徒に限らず、他の生徒からも少し距離を取られているようだ。
自分の口からあの闘王学園出身だと言ったわけではないが、彼らの反応から察しは付いた。彼らの間に――延いてはこの学園中に、剛羽が闘王学園から来たということが知れ渡っていることを。
とはいえ、だ。
「俺が爪弾きにされるのは、皆目見当が付かないな。見る目ないぞ、こいつら」
「あなた、地味に傷付いてるのね……しょうがないから、あたしの友達にしてあげるわ」
「そんなのこっちから願い下げだ。なんで友達にされなきゃならないんだよ」
「今のは感謝して然るべきところよ」
そんな感じで、剛羽たちが聞くに堪えない言い合いをしていると。
「――まったく、騒がしいやつらだ。少しは大人しくしたらどうだ?」
眼鏡を掛けたが生徒が声を掛けてきた。小柄だが、ズボンを穿いていることから男子生徒だろう。
眼鏡によって一層引き立てられた利発そうな雰囲気が特徴的だ。
この教室内で唯一、剛羽に対して臆した様子を見せなかった少年でもある。
(何か、また偉そうなのが来たな……)
「神動の親戚か?」
「それはなんの冗談かしら?」
「おい、僕に対して失礼だろ!」
「あら、悪気があったわけじゃないの、ごめんあそばせ。お詫びに、友達にしてあげるわ」
眼鏡を掛けた少年は「ふざけるな」と耀から差し出された手を払いのけて続ける。
「僕は達花誠人。今日はキミたちと同じクラスだ」
剛羽は耀に「知ってるか?」と視線を送るが「さあ」と首を横に振られた。
「まったく、寮でも毎晩遅くまで騒がしい上に、教室でも分別がないんだな。キミたちはどこに行けば静かになるんだ?」
「この程度の声量でうるさいなんて、あなた、よっぽど狭い世界で生きてきたのね。ああ可哀想」
「突っ込むところ、そこじゃないだろ……。達花だっけ? なんで、寮でのことまで知ってるんだよ?」
「そんなの、僕も一般寮に暮らしているからに決まっているだろう」
「ふぅん、全然気付かなかったわ」「なんかすまん」
「キミたち、ほっんとに失礼だな! そんなんだから、いつまで立っても友人ができないんだ! ぼっちめ!」
「ぼっ!? ふふ……ぽっと出の分際で、生意気言うじゃない」
耀と誠人がぐぬぬぬぬと睨み合う。
その様子をクラスメイトたちは固唾を呑んで見守る。
「まあいい……キミたち、これから砕球部の入部試験を受けるのだろう?」
「だったらなにかしら? 応援なら大歓迎よ」
「それはない。僕も試験を受けるんだ。つまり、ライバルだな」
「ふふ、愚かね。あなたがあたしに勝てると思って?」
「何だと!?」
「はぁ、お前ら試験前に余計なエネルギー使うなよ」
仲裁に入った剛羽はこう提案した。
「達花、試験受けるなら途中まで一緒に行こうぜ」
「まあ、別にいいだろう……言っておくが、特に意味なんかないからな! 勘違いしてくれるなよ!」
「まったく、素直じゃないわね」
「神動もな」
ぷくっと頬を膨らませた耀に、すかさずツッコみを入れる。
先行き不安な三人パーティが、ここに結成された。
達花誠人
性別:?
誕生日:1月29日
年齢:15歳(高校1年生)
身長:166cm
ポジション:動手
好きなもの:ヒーロー
作者コメント:どの立ち位置にするか迷ったキャラです。誠人みたいなキャラは個人的に書きやすいので――剛羽の数倍書きやすい笑――最初は主人公にしようと思ったんですけど、最近のラノベ主人公には向いてないんじゃないかと……!(ど偏見)でも、俺はお前みたいなやつ大好きだからな、誠人!笑