決闘開始
耀に決闘を申し込まれてから三日後の金曜日、放課後。
九十九学園敷地内にある闘技場の一つ、第一闘技場にて。
剛羽は耀と誠人の二人と対峙していた。
闘技場の観客席は練習を終えた九十九のチームの選手たちで疎らだが埋まっている。
「それではこれから、こうくん対」
「耀先輩と誠人先輩の試合を始めます」
観客席で三人の決闘を見守る優那と風歌が進行役を務める。
《IKUSA》があれば試合の立ち会い人は必要ないが、こういうのは雰囲気が大切だ。
「よく逃げなかったわね、褒めてあげるわ」
「明日から遠征で、今日はオフだからな。軽い運動ついでだ」
剛羽はその場で軽くストレッチをしながら素気なく答える。
剛羽たち一軍、二軍の選手たちは、全国大会予選前の最終調整として明日からの土日を使い、他県の強豪チームと試合をする予定だ。
「にしても、お前らも懲りないな……つーか、これで楽しくなるのか?」
「さあ、どうでしょうね」
まるで悪びれる様子もなく、そう嘯く耀。
「でも、少なくとも、あたしは楽しいわ。これであなたも楽しければ一石二鳥でしょ?」
「おい、此間言ってたことと違くないか?」
「あれは方便よ」
どうだ参ったかと、耀は腰に手を当て何故か得意げな顔で胸を張る。
(相変わらずというかなんというか……とりあえず、泣かしてやりたい)
いや絶対泣かすと内心独りごちる剛羽。
「ハンカチの用意くらいしとけよ。神動、負けるとすぐ泣くからな」
「泣いてなんかないわよ! こ、このあたしは代謝もいいから、め、目からだって汗が出ちゃうだけだわ」
「汗が出やすいのって一概に代謝がいいからってわけじゃないらしいぞ」
「え、そうなの? ちょっと待って、メモ帳取ってくるから!」
「いや行くな……達花、準備はいいのか?」
耀と会話に疲れた……一段落付いたところで、剛羽は先程からずっと押し黙っている誠人に水を向ける。
耀から伝え聞いた話だが、小学生相手に負けたことを引き摺っているのだろうか。
まあ、無理もない。年下に負けるというのは結構響くものだ。
無理してこの決闘に参加しなくてもいいのだと、剛羽はそれとなく説得しようとしたが、寸でのところで気付く。
(……笑ってる?)
いや、より正確に言うならば、目の前の獲物を仕留めようとしているハンターのように、スポーツ眼鏡の奥にある目をギラつかせている。
少なくとも、凹んでいる様には見受けられない。
「蓮、僕は準備万端だ。やるならさっさとやろう」
「……驚いた。てっきり戦意喪失してるのかと思ったぜ」
三人は手持ちの《IKUSA》を闘技場脇の筺体にセットした。
『フィールド展開、フィールド展開、ご注意ください』
間もなく、三人の戦士が半球状のスケルトンブルーの壁に包まれる。
『戦用複体に変身してください』
「トランス、ダブル!」「ダブル!」「ダブル」
変身し終えたことが確認されると、剛羽たちの立っている土のグラウンドが森林に変化した。入部試験で戦ったときの密林と比べると、木の丈も低く、視界は良好で、何となく安心できる。
次いで、剛羽はキューブを転がしてメイド服姿の訓練用人形、サーヤを召喚した。
今回の決闘は二対二。剛羽の勝利条件は耀と誠人を戦死させることで、耀たちの勝利条件はサーヤを倒すか球を三個以上割るかのどちらかだ。因みにサーヤの設定レベルはノーマルである。
両者の間に浮かんでいる青色の数字が10、9、8……とその数を減らしていく。
「マスター、荒ぶってますね」
「……ああ、そうかもな」
サーヤの指摘した通り、剛羽は早く始まれと思っていた。
(なんでだろうな)
カウントが終わるのを待ち切れないと、前屈みになっている耀たちを見ながら思う。
(お前らとやるのは嫌じゃないんだ)
間もなく「BREAK OUT!!」と試合開始の合図が出た。
開戦と同時に剛羽と耀がフィールド中央で正面衝突。ドン、という重たい音ともに、衝撃波が《闘技場》全体を舐めつくすように拡散する。
「達花くん!」
と、剛羽と鍔迫り合いをしていた耀が叫んだときには、誠人がサーヤに向かって走り出していた。
二対二――特に相手が守手と球操手の場合の定石通り、剛羽が足止めを食っている間に、誠人がハダカ状態のサーヤに攻め掛かる――が。
「二倍加速(クレスト=ダブル)」
耀のマークを一瞬で引き剥がした剛羽が、誠人の背中を取った。そのまま斬り掛かるが、反転した誠人が補助武器庫で錬成した盾で弾き返す。
攻守逆転。弾き返されてよろめいた剛羽に、耀が振り翳した直剣を叩き付ける。
「お前には……剣はまだ早いって忠告したはずだけどな」
「人は進化するのよ。そしてあたしも進化したわ!」
剛羽は耀の攻撃を何とか双剣を十字に組んで防いだが、その馬力に足元がクレーターのように沈んだ。
「そうだな……亀から馬にクラスチェンジしたってところ、か!」
耀が前のめりになっていると見るや、剛羽はふっと力を抜いて半身になり彼女の体勢を崩す。前方向に倒れていく耀の苦し紛れに放った横薙ぎを掻い潜り、痛烈な一撃をお返ししようとする。が、剛羽はそこで突然、ノ―ルックで双剣を背後に振るった。
ガキンという剣戟音。
攻撃時の防御意識の欠落を見越して、誠人が死角から攻めてきたのだ。
剛羽が間一髪防げたのは、誠人の攻撃のタイミングが数瞬速かったために、まだ警戒する意識を持っていたからである。
今思えば、耀の横薙ぎは苦し紛れのものではなく、剛羽を屈ませて動きを限定するためだったのだろう。
誠人の攻撃を間一髪で防いだが、今度は体勢を立て直していた耀が襲い掛かってくる。
「マスター」
しかし、耀の手首にサーヤが操作した亀球が直撃し、狙いをずらした。
耀の叩き付けた剣によって撒き上がる土くれ。剛羽は土のカーテンに剣撃を忍ばせ、手にした二本の得物で、耀と誠人の胸部をほぼ同時に斬り付ける。
攻撃自体は浅かったが、一旦距離を取らせることには成功した。
剛羽も追撃せずに一旦サーヤのところまで退避する。
「サーヤ、サンキュー。助かった」
「はい、もっと褒めてください、マスター」
「はいはい。でも、気を付けろ。あいつら連携が上手くなってる」
剛羽は少し離れたところで不敵に笑う耀と誠人に目をやる。
ともすれば仲間を斬りかねないほど密着した状態で、あれだけ思い切って攻撃するのは簡単にできることではない。耀が普段より剣のサイズを小さくしているのは、誠人と二人で崩すことを意識してのことだろう。
小さな気遣いだが、それができることで結果も変わってくる。
「……とりあえず、第一段階クリアってところね」
一方で、耀と誠人は最初の攻防を終えて、確かな手応えを感じていた。
最初は《心力》を使って戦うこと自体に一苦労していたが、今はそんな初歩的なことに躓かずに戦えている。
それだけではない。
「ああ、プラン通りだ。勝てるぞ、神動」
「勝てる、じゃなくて勝つのよ!」
そう言って、二人は剛羽に向かって駆け出した。




