第二波
「飲み物、色々買ってきたわよ。達花くんって、スポドリはアクアリス派だっ……け? って、どういう状況!? 達花くん、流石にそれはマズイわ!」
「僕はロリコンでもショタコンでもない!」
買出しをしてきた輝は、グラウンドに戻って来たところで困惑する。
夜中の河川敷グラウンドに《闘技場》が展開されており、その中では今まさに激しい戦闘が行われていたからだ。
「へいへい、誰が砕球部の次期エースだって!? あんたがエースなら、おれは神様だな!」
「「《神様兄妹》だね!」」
いや、正確に言うならば、誠人が一方的に激しい攻撃の嵐に晒されていた。
しかも、誠人をリンチしているのは、全長二メートルはあろう武骨な段平を手にした小学生くらいの子ども二人だ。
(達花くんから絡んだの? それとも絡まれたの?)
どっちにしろ、コメントに困る。
どうしたものかと考えている間にも、誠人はすばしっこい相手に四方八方から段平で斬り刻まれる。弄ばれる。
(ん? 達花くん、どうしてホルダー使ってないの……?)
何故、誠人は徒手空拳で応戦しているのだろうか。
まあ、今はその理由を考えるよりも先にやることがある。
「ちょっと、ぼくたち――」
「僕はまだやれる! 下がっていろ、神動」
「違うわ、あたしも混ぜてって言ってるのよ!」
駄々をこねる子どものような態度になる耀。
こんなに面白そうなことを黙って見ているだけなんて勿体ない。
「なっ、これは僕の戦いだぞ! いくら神動でも邪魔したら許さないからな!」
声を荒げて他者の介入を断固許さない誠人。
その真剣な表情を見て、耀は「ふん」と髪の毛先を靡かせてから胸の前で腕を組み、不本意ながらも練習パートナーの決闘を見守ることにした。
ふらふらと立ち上がった誠人は、果敢にタックルしていくが、大会のときのようなキレがない。相手の少年にひょいと避けられ、ズザーっと頭から滑る。
「あのさ~、歯応え無さ過ぎ。雑魚じゃん。もういいや。あず、一気に畳むぞ!」
「どどどどどーんと打ち上げ花火だね、お兄ちゃん!」
お兄ちゃんと呼ばれた少年は、伏臥する誠人を段平の腹に乗せて上空にすくい上げ、それから少女と一緒に跳躍した。小学生とは思えない身体能力だ。そして。
「「――無限斬り(エンドレスラッシュ)!!」」
得物を手にした二人は、独楽のように高速回転しながら無防備な獲物に襲い掛かる。
ズバババババババ、と段平はまるで唸り声でも上げるように、相手を容赦なく切り刻む!
連続する斬撃音。
誠人は、視認できないほど速い斬撃に戦用複体をズタズタにされ、ようやく解放されて地上に落下した。
誠人は立ち上がろうとするが、身体が言うことを聞かない。
身体中から物凄い勢いで《心素》が溢れ出ている。
体調が万全でない状態でつくった戦用複体とはいえ、誠人にこれほどの大ダメージを与えた《無双兄妹》の実力は計り知れない。
それでも、どれだけボロボロになっても。
(戦用複体が壊れるまでは……ッ!?)
誠人は腕を突っ張って無理にでも身体を起こそうとするが。
「くっ……」
無情にも十秒カウントが過ぎ、機械音声で「達花誠人、戦死」と判定が下された。
場内に【WINNER 双葉マオ&双葉アズキ】という青い文字が浮かび、スケルトンブルーの壁が霧散する。
「達花くん!?」「…………」
「姉ちゃん、そいつの友達? だったら、家まで送ってやってよ」
「わたしたちも早く帰らないと、お姉ちゃんに怒られるもんね」
「違う。負け犬に近寄ると、マケキンがうつるからだ。ったく、何が砕球部の次期エースだよ。個人技も使えないくせに。砕球の才能ないよ。チーム負け犬でもつくれば?」
「……そこのぼく、まお君だっけ? 最後まで精一杯戦った相手に、そんなこと言っちゃダメでしょ」
誠人をグラウンド脇にあるベンチに寝かせた輝は、マオ(と一応アズキ)に親が子どもを叱るような眼差しを向ける。
対して、マオはにやりと笑いアズキに合図すると、それぞれ段平を構えて臨戦態勢に入った。
「へえ~、姉ちゃん、面白いこと言うじゃん」
「もっといろいろ教えてよ~」
「いいわ、お姉ちゃんが教育してあげる……あ、でも、お姉ちゃん、今手元に《IKUSA》ないんだよなぁ」
「いいよ、そんなの。すぐ終わるし」
「そう、ありがと……でも、戦いになったら年齢なんて関係ないわ――本気でいくよ」
それでもいい? と、輝は半身に構えて腰を落とす。
そして唱える。トランス、ダブル。
「あたしは神藤輝、九十九学園高等部一年、砕球科所属! でもって、砕球界のエースになる戦士よ!」
「おれは双葉マオ、九十九学園初等部五年! チームのエースブレイカーだ!」
「わたしは双葉アズキ、以下右におなじく」
「「二人揃って、《無双兄妹》だ!」」
マオとアズキはそれぞれの片太刀鋏をじゃきん、と重ね合わせた。
「かっこだけは決まってるね、ぼくたち」
「ぬかせぇ!」「いぇーい!」
それが決闘開始の合図となった。互いに前進して一気に距離が詰まる。
しかし、スピードでは輝の方が上だ。ぎゅん、と途中で進路を変え、輝はマオの側面を突く。
マオは反射的に段平でガードをつくるが、目の前で掻き消えた輝に背後を取られ、投げ飛ばされる。
「ごはっ」「お兄ちゃん!?」
姿勢制御をできすに、土埃を巻き上げながらグラウンドを転がるマオ。
「この!」と、兄の仇と言わんばかりに、アズキが段平を振り回す。
しかし、ぶんぶんぶん、と一向に獲物を捉えることができない。
そして、大振りになった隙を突かれ、アズキも腕を掴まれて投げ飛ばされた。
「ぼくたち、防御が御留守になってるわ!」
「う、うるさい! バトル中だぞ! あず!」
「お兄ちゃん!」
こくんと頷き合った二人が、輝を中心に円を描くように走り出し、息の合ったタイミングで襲い掛かった。
「「無限斬り(エンドレスラッシュ)!!」」
独楽のように激しく回転した二つの凶刃が迫る。誠人を斬り伏せた双葉兄妹の必殺技。
精錬された一連の動きは、獲物に逃げ場を与えない!
「――無限斬り、ここに破れたり!」
しかし。
ふふんと、耀は得意げに笑う。
その手には高速回転しながら迫って来たマオたちの段平ががっしりと掴まれていた。
確かに、脱出するのは難しいかもしれない。が、それなら、掴んでしまえばいい。
およそ、普通の選手ではできないことをさらりとやった上に無傷だ。
「そんな……」「お兄ちゃんとの必殺技が……」
一方で。
マオとアズキはいとも容易く止められた愛刀を呆然と見詰める。
砕球小学生の部で数々の強敵たちを斬り伏せてきた大技が、たった一、二回見た程度でいとも簡単に破られるとは……。未だに信じられない。
自分たちは、地元――彩玉県(コミュニティ=リ・バレット)内の小学生相手に無敗の《無双兄妹》だ。
そんな築き上げてきたプライドが、音を立ててあっという間に崩れていく。
マオとアズキは寄り添いあって打ち震えていた。涙がぽろぽろと零れ落ちる。
「あず、早く逃げろ! ここは兄ちゃんに任せて先に行け!」
「一人じゃ道分からないよ、お兄ちゃん!」
「まおくん、あずきちゃん」
輝は双子の肩に手を置き、普段剛羽や誠人たちの前では決して見せない、柔和な笑顔になる。子どもに慣れているのか、その立ち居振る舞いは自然だ。
「ナイスファイトだったわ」
「くっ……」「ないすふあいと……?」
マオは歯を食いしばって泣くのを堪え、アズキは首をはてと傾ける。
耀は中腰になって目線を合わせ、説得するように二人の手をそっと握る。
「よし、それじゃあ、あのお兄ちゃんにごめんなさい――」
「おい、貴様」
戦いが終わり、和やかな雰囲気に向かうと思われたその刹那。
背中にぞわっと悪寒を感じた輝が振り返ると。
そこには制服を規定通りに着こなした、セミロングの黒髪の少女が、こちらに射るような鋭い視線を投げかけながら立ち塞がっていた。
マオ&アズキのプロフィールは明日以降公開します汗




