襲来
時刻は夜9時を回った頃。
春の仮装収穫祭で見事優勝を飾り、優那や風歌と別れた後の一般寮にて。
「よし、行きましょうか」
耀と誠人は寮長である初衣に適当に言い訳して、夜の町に繰り出した。
これから二人で夜通し居酒屋を梯子するためではない。
「流石に今日くらいは控えた方がいいんじゃないのか?」
「むしろ逆です。大会が終わったら、少なからず落ち着くじゃない? そこで気を抜かずに練習するのよ。周りが休んでいる間に差を付けられるわ」
「でも、蓮は休むのも練習って言ってただろ」
「うぐっ……は! で、でも、ほら、軽く練習することで疲労が抜けやすくなるっていうじゃないですか。そうそう、積極的休養ってやつです」
「この場合、クールダウンじゃないか? それならさっき、5駅前から降りて寮まで走っただろ」
誠人は至って冷静に指摘する。
「むぅ、蓮くんをぎゃふんと言わせてやるって、あの夕陽に誓ったじゃない! あれは嘘だったのかしら!?」
「なっ、急に恥ずかしいことを言うな! それに、そんなロマンチックな感じじゃなかったはずだぞ!?」
「ふん、じゃあいいわよ、達花くんは帰っておねんねしてればいいわ。あたし一人で練習してくるから」
「…………僕も行く」
大会で優勝したばかりだというのに、ライバルがこれから練習しようとしているのだ。負けていられない。
山道を駆け下り、そのままさらに走ること十分。
二人は大きな運動グラウンドがある河川敷に到着していた。秘密の特訓場である。
早速、軽く準備体操をしてから、疾走緩走を繰り返すインターバル走を始める。
「はぁはぁはぁ……大体、言われたことだけやってるだけじゃいけないと思うのよ。思考停止ってやつね」
「ふ、それはキミがなにも考えずに練習してるからさ。蓮は僕たちに自分で考えさせるために、敢えて細かいことは言わないんだ」
「え、そうなの!?」
実際、剛羽はそこまで考えてはいないのだが……。
緩走で息を整えている間にそんなことを言い合いながら、疾走&緩走を一セットとして十セットを終えたところで、二人は切り上げることにした。
十セットで使い切るように走っていたので、もう足がガクガクだ。
そんな痛みが心地よくなってしまうほどの達成感に満たされながら、誠人はグラウンドで大の字になっていた。
剛羽の言葉に感化され、コーチしてもらうようになってから早くも一ヶ月以上が過ぎている。
今までずっと一人で練習してきた。《最弱》の名を冠する自分とトレーニングしてくれるような物好きは中々いないから。
自分なりに追い込んできたつもりだが、一緒に練習する仲間ができたことで、さらに追い込めるようになった気がする。
「ぅぷっ……ぉえええええ」
こうしてリバースしているのも、追い込めた証左だろう。
暗くなった河川敷は閑散としており、芝生の坂を昇ったところにある外灯がその存在感を増している。
そんな空間で、誠人は大の字になったままぐっと伸びをした。
胸一杯に空気を吸い込むと、たちまち気分が晴れる。
このまま練習をしても、この先上手くいくかなんて分からない。ただ、やりたいからやる。今はそれで十分だ。
剛羽たち練習することで、自分はまだまだレベルアップできると分かった。今回の春の入部試験が終わった時点で諦めていたら、知り得なかったことだろう。
まだまだ成長できる。そう思うだけで練習への活力が生まれてくる。
よしやってやるぞ、と気持ちが上がってきたところで。
「てめえ、何もんだ!?」「何もんだ~」
空から声が降ってきた。まだ幼さの残る声だ。
仰向けに寝転んだまま視線を動かすと、芝生の坂を昇った先にある舗装された道のところで、二人組の子どもが腕を組んでこちらを見下ろしていた。
「ここはおれたちのナワバリだぞ。出てけよ」
「お出かけお出かけ~」
と、順番に喚く。
よく見れば、自分に攻撃的な言葉を浴びせてきたのは、小学生くらいの子どもだった。
しかも、九十九学園初等部の制服に身を包んでいる。
小学生がこんな夜中に一体何を……。
(まったく、これだから最近のガキは)
「ふ、年長者に対して礼儀がなってないな。初等部で何を学んでいる?」
「は、あんたこそ、礼儀がなってないね。説明してやれ、あず」
「はーい。わたしたちの正体は……じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃん! 《無双兄妹》だよ」
「ヘル……ブラザーズ?」
どこかで聞いたことがあるなと、誠人は記憶を探る。
喉の辺りにまで来ているのだが、思い出せない。
そうこうしている間に、小学生二人が勢いよく坂道を滑り降りてきた。が、坂を降りたところに置いてあった耀と誠人のバッグに躓いて、男の子のほうだけ転倒。暗くて足元がよく見えなかったのだろう。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「心配するな、あず。か、掠り傷さ……っ~~~~~~」
「何を強がっている。早く水洗いして汚れを落とせ」
「こんなのつばつけとけばすぐなおるし! ぺっぺっ。それにこの傷はめいよの傷なんだから、ぜんぜん痛くなんかないぜ!」
「軽いな、名誉の傷!?」「すごいよ、お兄ちゃん!」
意地を張ってないで早く治療した方が賢明だと思ったが、言ったところで聞く耳も持たないだろう。これも若さゆえの誤ちというやつだろうか。
「ちゃんと水で洗うんだぞ」
誠人は二人に構うのを止めて整理体操をしようとしたところで。
「ちょっと待ちな。おれたちとバトろうぜ!」「バトミントン!」
「はあ?」
眼前の小学生たちは、身に付けた新品の砕球用具を嬉々として見せ付けてくる。
「これ、この間発売されたKOKの籠手な! 超かっこいいだろ? 特別に、あんたを籠手のサビにしてやる!」
「ふ、小学生と喧嘩などするものか」
「じゃあ、おれたちのシマを勝手に荒らした罰だ!」
「そうそう、お仕置き~」
しつこくバトルを申し込んでくる小学生たち。
最近の若者は血の気が多いなと、誠人は呆れた。
「生憎、小学生のお遊びに付き合うほど、僕は暇じゃないんだ」
誠はふんと鼻を鳴らして「早く帰らないとパパとママが心配するぞ」と付け加えた後、今度こそ整理体操を始めようとする。が。
「なんだよ、逃げちゃうのかよ。チキンじゃん」「一緒に遊ぼうよ~」
(このガキ…………)
いや、ここは大人の風格を見せつける場面だ。
そう、所詮ガキの戯言だと切り捨てる場面なのだと、誠人は自分に言い聞かせる。
「僕は無闇に喧嘩なんてしない。そんなことをするのは弱いやつだ」
「なんだと!?」「かっこいい!」
「キミたちとは、戦う理由の格が違うってことだ!」
誠人はくわっと表情をつくって声高に宣言した。まるでヒーローのような決め台詞と仕草だ。実は一度言ってみたかったりする。
「ぷぷぷ~、戦う理由の格が違うんだよ! だってさ。いい歳してなにそれ。自分に酔ってるなあ、この眼鏡」
「…………何ィ?」
好きなヒーローものの中でもトップスリーに入る名言を侮辱され、誠人は拳に力がこもる。正確には、侮辱されたのは年齢にそぐわないことをした誠人なのだが……。
落ち着け相手は小学生だぞ、という理性はとっくに機能不全を起こしており、誠人の中で激しい衝動がふつふつと燃えあがる。
「僕をここまで怒らせるとは……泣いても知らないぞ、ガキども」
「やっとやる気になったのかよ。おっそ」「早く遊ぼ遊ぼ!」
誠人はバッグから補助武器庫を取り出してくる。
白を基調とした長方体のそれは、自分にとって個心技に等しい。
「あ、ほるだーだ! めがねのお兄ちゃん、ほるだー使うの?」
「それ小学生が使うやつじゃん。こりゃ楽勝だな」
「ふ、そう言っていられるのも今のうちだぞ。こいつを使えば……」
とそこで、突然黙り込んだ誠人は手にした補助武器庫をバッグに放り込んだ。
剛羽に奨められてから愛用している得物を、今日の大会で活躍できた要因となった得物を放棄する。
「ホルダー、使わないの? もしかして、おれに言われて使うのはずかしくなっちゃったパティーンとか?」
「違う。キミたち相手には、これを使うまでもないってことさ」
「うっざ、超調子乗ってるじゃん!」
「お兄ちゃん、早く始めようよ~」
少女は兄の腕を押したり引っ張ったりする。
「ったく、あずは我が儘なだな~。それじゃあやるか。でもその前に名乗ってもらおうか。あんたはどこの誰なんだよ?」
「……僕は」
誠人はだんっと力強く一歩踏み出し。
「僕は達花誠人――砕球部のエースになる男だ!」
堂々とそう名乗り上げた。
戦いが始まる。
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遅ればせながら優那のプロフィール紹介です汗
上妃・ヴィクトウォーカー・優那
性別:女
誕生日:4月9日
年齢:18歳(高校3年生)
身長:170cm
ポジション:球操手
好きなもの:ケーキ、両親、年少者、可愛いもの、愛を感じるもの
作者コメント:金髪碧眼でスタイルのいいお姉さんキャラ。対剛羽戦において無類の強さを誇ります(腕っ節ではなく精神的な戦いで)。年上にするか同い年にするかで迷いましたが、剛羽は異性の先輩に弱いという設定にしたかったのでお姉さんキャラになりました。同い年だったら……優しいは優しいけど少しベクトルの違うものになっていたかと思います。




