転機
「あのスポーツ眼鏡のやつ、いい動きしてるじゃん」
剛羽の隣で炎児が身を乗り出しながら呟く。発言それ自体は上から言っているように聞こえなくもないが、先程までとは誠人を見る目がまったく違う。
ギラギラと、獲物を仕留める肉食獣のような目だ。
「戦ってみたいか?」
「そりゃもちろん――めっちゃ楽しそうだかんな」
「……炎児ならそう言うと思ったぜ」
剛羽は小さく笑いながら、隣でメラメラと闘志を湧き立たせている戦友にそう返した。
相手が強ければ強いほど燃える。炎児のそういうメンタリティは尊敬できるし、一緒に戦う仲間であれば頼もしい限りだ。
「ッ、なんだこの硬さ……!?」
誠人の手持ち円盾に正拳を弾かれた相手守手は、苦悶の表情を浮かべる。
今の盾といい剣といい、補助武器庫が錬成する武器にしては硬度が高い。
というのは、《心力》がある程度成熟した選手が補助武器庫を使えば、当然錬成される武器の威力も増すからだ。誠人の体内の《心力》、その元となる《心素》の特性を考えればなおさらである。
そして何より、「補助武器庫は小学生以下が使うもの」という固定観念が、誠人とマッチアップする相手守手の目を暗ませていた。
誠人は相手の攻撃を弾くと同時に盾を剣に変換し、ズバッとカウンターの一撃を決める。
派手さはないが、きちんと練習していることが伺える一振り。
胸元を斬り付けられた相手は吹っ飛ばされ、半壊した家屋に身体を埋めた。
チーム上妃は全部で三人。一人は球砕手、一人は守手の自分を邪魔している動手。であれば、残り一人は球操手でハダカ状態だ。
それに気付いた自軍と他チームの選手が、互いに牽制し合いながら捜索&狩猟をしているとオペレーターから連絡があった。
そんなふうに状況を整理しながら、誠人に不覚を取った守手の選手は何とか立ち上がる。
一刻も早く奮闘している球操手のもとに行かなければ。しかし、目の前に立ち塞がる選手が予想以上に強い。
というか正直な話、試合前にチームメイトの先輩から「あの眼鏡が《最弱》ってやつだ」と聞かされていたので、強いなんて一ミリたりとも思っていなかった。
振り切れるのかこれ、とあきらめの感情が芽生え始めたところで――
「なに《最弱》相手に足止めされてんだ! さっさと潰せ!」
試合前に眼前の眼鏡の少年が《最弱》と呼ばれていると教えてくれた先輩が、フォローにきてくれたようだ。
二対一。これで何とかなりそうだと持ち直したところで、ゴーレムに仮装した守手の選手は目を見開く。
「――先輩、後ろから来てます!」
どうやら、得点の匂いを嗅ぎ付けた別のチームの球砕手が、ご苦労なことにフォローに来た先輩の尾行していたらしい。
これで二対一対一。
これ以上、味方の球操手のもとへ敵を行かせるわけにはいかない。ここで食い止めなければと動き出したところで。
「え?」
足が何かに引っ掛かった。視線を落とすと、そこにはクモの巣のように張り巡らされたワイヤーが。味方の先輩も、乱入してきた敵球砕手も、足を取られてしまっている。
この場にいる眼鏡の少年以外が、全員動けない。
直観的にマズイと思ったが、時既に遅し。
そして間髪入れずに、青色の砲撃が近くに着弾。
ドォーーーーーーンという重たい音がすると同時に、自分と先輩、そしてミーラに仮装した敵球砕手が吹っ飛ばされた。
全員が全員、身体がバラバラになって《心素》を盛大に撒き散らしている。
一体何がと視線を走らせると、少し離れたところにある修道院の屋根から飛び降りる長銃を手にした金髪の少女の姿を捉えた。
間違いない。
視界の悪さなどお構いなしに一撃で自分たち三人を戦死させた少女は、チーム上妃のキャプテン、上妃・ヴィクトウォーカー・優那だ。
【上妃先輩、ナイスショットです】
【ううん、誠人くんのおかげだよ。私は撃っただけだから】
互いの健闘を褒め合う二人。
間もなく、耀が交戦していた相手球操手を倒したと、風歌から連絡が入る。
【耀ちゃん、誠人くん、この調子で行こうね!】
【はい!】【勿論です】
優那の声掛けに耀たちが力強く答える。
チーム上妃の快進撃が始まった。
「なんだよ、剛羽。すごい嬉しそうじゃん」
「いや、別に……そう見えるのはアレだからだ。あいつらが優勝できたのは、俺の指導がよかったからだ」
「剛羽って分かりやすいよなぁ」
すっかり陽も暮れて真っ暗になった中。
剛羽と炎児は、耀たちの出場した大会について話しながら、ドームを出て駅に向かって歩く。結局、耀たちのチームは他を寄せ付けずに優勝した。
剛羽や炎児から見ても危なげない勝利だ。
自信を付けてくれればいい程度に思っていたが、望外の結果となり驚きを隠せない。
「うおぉーっ! なんかテンション上がってきたあ! 帰ったら練習しよ!」
「もう夜の8時過ぎてるんだぞ。体調崩すぞ」
「大丈夫だって。今アドレナリン出まくってるから一暴れしたい気分なんだよ」
それに怪我なんかしないと、炎児は続ける。
「俺、楽しみしてるんだよ。剛羽と戦うの。先輩たちめっちゃ強いけどさ、大会までには絶対ポジション奪い取って一年レギュラーになってやるぜい! そしたら剛羽と直接対決できるじゃん! だから、決勝まで負けんなよな!」
炎児はにっと笑いながら、拳を突き出してくる。
炎児の編入先は九十九学園と同じ、彩玉県に所属する荒晚大学付属高校だ。県内四強の一つで、昨年は彩玉県の代表として全国大会に出場している。お互いシード校のため、順調に勝ち進めば決勝戦で当たることになるチームだ。
「炎児こそ、俺と戦うまで負けるなよ」
そう言って、剛羽は拳をぶつけ返した。
しかしその表情はどこか寂しそうだ。
剛羽には、編入先でレギュラー奪取のために打倒先輩に燃える戦友が眩しく映っていたのである。
「剛羽、なんか今日いつもよりテンション低くね? 編入先でなんかあった感じ?」
「……なんだよ、急に」
「だって剛羽、チームの話全然してないじゃん。それに顔色も少しよくない。あ、少しよくないっていうのはあれな。試合観てるときは顔色よかったから、足し引きした結果少しよくないって意味な」
「……チームってなんなんだろうな」
突然のそんなことを言い出した剛羽。
しかし、炎児は条件反射のように即答で。
「そんなの最高の仲間たちに決まってんじゃん!」
快活に笑いながら答える。
そしてその言葉は、確かに剛羽の心に響いたのであった。




