剛羽にとっての二つの光
五月中旬。
九十九のチームでの練習が始まってから、早くも一ヶ月が経過していた。
「あ、こうくん、風ちゃん! お疲れ様~」
夕方、チームの練習を終えて一般寮の隣にある空き地にやってきた剛羽と風歌に、優那が声を掛けてくる。
そう、風歌も無事、九十九のチームから指名されたのだ。
「優那先輩、耀先輩、誠人先輩、スポーツドリンクとか補給食持ってきました!」
「風歌ちゃん、グッジョブよ」「ふうちゃん、ありがとう~」
「そう言えば、神動。四軍っていつ練習してるんだよ? お前らが学校の闘技場で練習してるところ全然見ないぞ」
剛羽は一軍で毎日練習しているが、九十九のチーム内で最底辺の四軍に席を置く耀と誠人からはチームでの話はほとんど聞かない。
「それはそうよ。二週間に一回、三軍の人たちに混ぜてもらうだけだから」
仕方がないという表情で呟く耀。
九十九学園の敷地内には全部の五つの円形闘技場があるが、その内三つは学園一の九十九義経のチームが使い、残り二つは第二位の風紀部と第三位の壇ノ浦のチームが分け合っている。
よって、耀たち四軍のチームには割り当て分がない――しかし、それではまるで。
(それじゃまるで飼い殺しじゃないか……なに考えてるんだ、九十九先輩は?)
剛羽はギリッと歯を食いしばり、爪の痕が残るほど拳に力を込める。
「どうしたのよ、難しい顔して?」
「……いや、なんでもない。それより、特訓の方はどうだ?」
「ふふん、ばっちりに決まってるでしょう? この一カ月で百レベくらい上がったわ」
「耀ちゃん、すごいよ。最大出力も回復力も、プロ選手みたいだもん。今日は五十セットやっちゃたんだよ」
「ゆな先輩、そんなに褒められると照れちゃいますよ~」
耀は頬を朱に染めながら手をぱたぱた振る。
嬉しがっているのがまる分かりだ。
慢心しないか心配だが、優那の言うとおり、五十セットもこなしたことには驚いた。
耀に課しているセット練習の場合は、たくさんできるほどいい。
何回も繰り返せるということは、赤型の瞬発力を維持するオーラの総量と回復力があることの証明だからだ。
その凄まじい成長速度もさることながら、こんな地味な練習を一カ月も続けられたことが一番の驚きである。
見た目は高貴な感じだが、汗を掻くことを惜しまない性格らしい。
「優那先輩、あんまり甘やかさないでくださいね。こいつ、すぐに付け上がるんで」
「な、なんですって!? ……ふん、だったら、今から決闘しましょうよ。練習の成果、見せてあげるわ」
「断る。ここ一ヶ月で何回もやっただろ? そんなことより、今日から新しいメニューだ」
「新しい、メニュー! あ……そ、そ、それを先に言ってくださる?」
剛羽は《IKUSA》を使って空き地に《闘技場》を展開してもらう。
スケルトンブルーで囲まれた異空間に入った耀の前に立ちはだかったのは、変則型の青色ツインテールとメイド服が特徴的な少女――訓練用人形のサーヤだ。
「あら、あなたの大事な大事な彼女さんじゃないですか。久しぶりですね」
「はい、マスターの彼女のサーヤです」
「す、すごく可愛いね。そっか、こうくんの彼女さんか……」
「な……なに本気してるんですか、優那先輩! 訓練用人形ですよ! ……つーか、神動、その挑発は俺に虐められたいってことか?」
「なにこの扱いの差!? まあ、いいわ。あたしは心が広いから不敬を許します。それで、この可愛子ちゃんとなんの訓練するのよ?」
「口で説明するより試したほうが早い。神動、最初から全力でいけよ」
「全力?」と、耀が髪をなびかせようとした手を止めた次の週間。
「クイックモードレベル3。サーヤ、敵を駆逐します」
無機質にそう呟いたサーヤは両手を剣に変形させて、耀に斬り掛かってくる。
「ちょ、え、なんですかこれ!?」
「クイックモード。速度重視でガンガン攻撃してくるって意味な。速く《心力》出さないと速攻で戦死させられるぞ」
「なるほど、基礎の次は実践ってことですね……ふふん、掛かってきなさい、サーヤ」
偉ぶってる耀は優那に任せて。
剛羽は空き地の隅で死んだように倒れている誠人のもとに行く。
「達花、調子はどうだ?」
「言わせるな。鬼か」
耀が《心力》の基礎トレーニングを順調にこなしている一方で、誠人は未だに基礎中の基礎であるオーラを出すことすらできないでいた。
誠人の《心力》が紫型であることは分かっているのだが……。
しばしの沈黙の後、剛羽がこう切り出した。
「《IKUSA》で達花の出てる試合全部観たけど、お前ってかなりしぶとくて中々死んでくれないよな」
「な、何が言いたい!? ……おかげで性悪たちからサンドバックの刑さ」
「褒めてるんだよ。壊れ難い戦用複体をつくれるってことはかなり有利だからな」
「それはつまり、実は僕にも秘められた才能が――」
「――ってわけではない」
瞳を輝かせながら立ち上がりかけた誠人が、ガクッと四つん這いになる。
「で、話戻すけど、耐久力があるってことはオーラの総量がそれなりにあるか、一粒一粒が大きいはずなんだ」
「一粒って《心力》を粒子の集合体と考えたときの単位だよな?」
「ああ、普通は一つ粒あたりが大きければ大きいほど外からの衝撃に強くなる。でもその分、小さい粒子と比べて外に放出し難い。つまり、一粒あたりが大きいとオーラの扱いが難しくなるんだ」
「知りたくなかった事実だ……」
「いやいや、先も言ったけど、戦死しにくい戦用複体をつくれるってのは有利なんだって。それに達花には優れた感知能力もある」
入部試験で、誠人は砂刀の個心技発動にあの場にいた誰よりも――剛羽よりも――早く気付いていた。
おそらく《心力》を発動するときにその術者から出る力の波を敏感に察知できるのだろうと、剛羽は見ている。
「あれは特段すごいことじゃないよ……僕は強いオーラに当てられやすいだけだ」
「……はぁ、今の、神動だったら飛び跳ねて喜ぶところだけどな。でもまあ、達花のそういう性格は砕球に役立つと思うぜ。自分を知ってるやつは強いからな」
「自分を知ってるやつは、つ、強いか……ふふふ」
誠人の気味の悪い笑みは無視して。
「じゃあ、自分を知ったついでに一つ提案なんだが……補助武器庫使ってみないか?」
ぴんと人差し指を立てた剛羽は、そう提案した。




