因果応報
上妃家にお邪魔した剛羽は優那のご両親に挨拶した後、優那の父の水着に着替え浴室に向かう。
「……先輩、待ってなくてもよかったんですよ」
「だって、中に入ったら湯気でよく見えないでしょ?」
そう言って、優那は白のビキニ姿を惜しげもなく披露した。
黄金比は彼女から採ったのではないかというくらいスタイルがいいので、剛羽はまじまじと見てしまったが、我に返ったのか弾かれるように視線を逸らす。
(……綺麗だ)
と、心の中で感想を述べた。が、顔に出ていたのだろうか。
「こうくんは分かりやすいな~」
「な……なんのことですかね」
「ふ~ん、なんのことだろうね?」
と、優那はずいっと身体を寄せてくる。
余裕そうな、年下の少年を試すような笑み。そして何より、近い近い近い近い。
剛羽は自身に《速度合成》を使い、その場の勢いで取り返しの付かないことをしでかさないようにした。
「ゆ……優那先輩、早く入りませんか?」
優那は満足そうに頷き、剛羽の手を引いてお風呂場へ。
互いに背中を流し合いながら近況報告をする。
正直、露わになった優那のうなじやくびれた腰のラインが扇情的過ぎて、生殺し状態での会話だ。
「優那先輩、九十九先輩のチームじゃないんですか?」
「うん、ほら、九十九くんのチームって実力ないと入れないし」
「そうですか……」
優那の実力なら問題ないはずだが、と剛羽は思った。
現在高校三年生の優那は、大学に進学したら本格的にスポーツトレーナなどの勉強をしようと考えているらしい。
「こうくんは、九十九くんのチームから指名されたんだ。やっぱりすごいね~。受験者の一割くらいしか指名されないって聞いたよ?」
「へー、そうなんですか。でも結構指名されてたみたいでよ?」
「今回は豊作だったんじゃないかな? なんにせよ、受かったんだからすごいよ~」
剛羽の背中を流していた優那が頭を撫でてくる。
これは耀や誠人あたりに見られたら死にたくなるが、剛羽の思考回路に優那の手を払いのけるコマンドは組み込まれていない。
何よりそんなに嫌じゃない。
それから一緒に湯船に浸かったところで。
「どうしたんですか?」
剛羽は向かい合う優那にそう質問した。二つ上の少女が何だか嬉しそうな表情をしているからだ。
「こうくん、思ってたより元気そうだから。よかったなって、ふふ」
「まあ、闘王出るときは色々思いましたけどね。でも、なんていうか、ここでもやっていけそうだなって」
脳裏を掠めたのは二人の少年少女。
壁にぶち当たっても前に進もうと足掻いている彼ら彼女らに、剛羽本人は自覚していないが、勇気をもらっていた。
「優那先輩、一つお願いがあるんですけど」
「なんでも言って、力になるよ」
「……やっぱり、優那先輩は頼りになりますね」
「そうだよ、お姉さんにお任せあれだよ」
優那はどうだという顔をしながら、ぽんとその豊かな胸に手を置く。
その可愛らしい仕草に、剛羽はくすりと笑う。
「その……練習見てやってほしいやつらがいるんです」
「練習って砕球の?」
「はい。最近知り合ったやつらなんですけど、片方は基本的なことも知らないみたいなんですよ。メニューを紙に書いて渡すつもりですけど、分からないところもあると思うんです。俺もチームの練習が始まったらあんまり付き合ってやれないので」
「そっか。うん、任せて。こうくんの大事な友達だからね」
「そ……そんなんじゃないですよ。やる気はあるのに馬鹿だから、ちょっと情けを掛けてやろうと思っただけです」
「なるほど~。つまり、大好きってことだね! こうくんは素直じゃないな~」
「だから、そんなんじゃないですよ! 怒りますよ!」
「それはダメだよ! 怒ったら後で後悔するもん!」
「俺の心配ですか!?」
その後、にこにこする優那に散々ちゃかされてからお風呂を出て。
上妃家族と食事を済ませた剛羽は、優那の部屋に招かれる。
一人用には広すぎる室内。一人用には大き過ぎる天蓋付きのベッド。見るからに高価そうな革張りのソファーや調度品の数々。
部屋の中はきちんと掃除されており、優那の真面目な性格が表れていた。
そして、そんな部屋の中で異彩を放つ安っぽい写真立てには、小学生の頃の優那や剛羽、勇美たちの写真が飾ってあった。六年前、全国大会の会場でチーム全員で記念に撮った一枚だ。そしてその隣の写真には――
「こうくん、横になってくれる?」
そこで、剛羽はベッドの上にうつ伏せにさせられた。
それから優那は、慣れた手付きで身体を解し始める。
「どう、気持ちいいかな?」
「は……はい、すご、く……」
優那は恐る恐るという感じで聞いてきたが、プロのマッサージでも受けている気分だ。
先輩の部屋にいるという緊張感が解け、リラックスしてきたからか、今度は突然睡魔に襲われる。瞼がくっつきそうだ。
「……硬くなってる」
「え……?」
な、なにがですか?
「こうくん、ストレッチちゃんとしてる?」
「一応やってますけど……そう言えば、こっちに来てからは一人でストレッチしてますね」
「そっか……こうくんがいいなら、私がマッサージしようか? 専属のトレーナー、みたいな……あははは」
気恥ずかしそうに笑う優那。
自分から言っておいて照れ笑いする彼女に、剛羽はマッサージされながら答える。
「じゃあ、その、お言葉に甘えて……先輩の都合がいい日に」
ふかふかのベッドに顔を埋めたままなのは照れ隠しだ。
「え、い、いいの……!? そ、そっか……お姉ちゃん、頑張る! 頑張るね!」
と、興奮気味の優那はよいしょっと剛羽に騎乗し、腰を解し始める。
うつ伏せになっているため見えないが、優那が短く息を吐くのに合わせて身体を前後に振っているのが分かった。
指の力だけに頼らないで、身体をスイングした勢いを利用しているのだ。
じわっと満たされる感覚が全身に広がっていく。
背中越しに優那の優しさを感じる。昔と同じで、今も優しい人だ。
(やっぱり、先輩が最強だよな。優しいし、大人だし、一緒にいると落ち着くし、綺麗だし、可愛いし…………結婚したい)
ぼーっとしてきたのか、柄にもないことを思ってしまう。
と同時に、身体のある部分に異変が生じたことを感知した。
「――よし、背面は終わりっと。こうくん、仰向けになってくれる?」
いや、それはまずいぞ。
剛羽は静まれぇえええええ! と念じるが、身体は正直だ。
もう理性はどうにもできなくなったため。
(こうなったら…………股間に《速度合成》!)
「…………ごめんなさい」
「え?」
「すいません、個心技使っても無理でした」
今仰向けになったら、ほぼ確実にばれてしまう。
太腿のあたりをマッサージされたら万事休すだ。
「その……今日はもう帰ります。遅くなると寮長の方も心配するので」
「え、でも、そんなに時間掛からない――」
「――マジで無理っす」
と言うが早いか、剛羽は自己最速タイムが出るくらいの疾走で上妃家を飛び出した。




