ドラフト会議
入部試験翌日の放課後、九十九学園会議室にて。
「それでは、今年度第一回目のドラフト会議を始めます。僭越ながら司会進行を務めさせて頂きます、風紀科二年の屋島補斑です。よろしくお願い致します」
整った顔立ちの清楚そうな少女が、列席した生徒たちに昨日の入部試験受験者のリストを回す。
「ロ」の字に配置された長机には、砕球部部長の九十九や副部長の山伏、閑花の姿があった。他には風紀科の中のエリートである風紀委員などがこの場に集結している。
「皆様、昨日の入部試験、お疲れ様でした。大きな事故もなく……ある方のファンクラブが場所取りで他の生徒とひと悶着あったようですが」
「悪いね、屋島さん。どうやらボクは人を引き付けてしまうみたいだ」
屋島は一つ咳払いをした後、本題に移る。
ドラフト会議。
年に二度――春・秋の入部試験の後に行われ、受験者たちの受け入れ先のチームを決める。
というのは、風紀科には派閥などはなく風紀科それ自体が一つのチームだが、砕球科には全部で七つのチームがあるからだ。
その七つのチームをまとめて「砕球部」と呼称し、その中で最も強いチームの主将――九十九が、砕球部の部長ということになっている。副部長の山伏、閑花の他、居合い斬りの砂刀、出落ちの駿牙も九十九のチームの所属だ。
「選択順は昨年の校内戦で一位を取った九十九さんのチーム、その次に我々風紀科、三位の壇ノ浦さんのチーム、四位の――――――ということで」
「いやー、すいませんね、他のチームの皆さん。でも、一位なので、ナンバーワンなので」
殺気立つ他のチームの代表者たちを観て楽しむ九十九。
気に食わないが、この場では力がものをいう。
甘やかされて育った坊ちゃんが、と心の中で舌打ちしながらも、屋島は表情を取り繕って大人な態度で話を続ける。
「前のチームの指名が全て終わったら、次のチームの指名に移ります……ルールは従来通りですが、受験者本人の希望はできる限り善処するようにお願いします。特に砕球科。特に九十九義経さん」
「分かってるよ、屋島さん」
「無理矢理勧誘されたらそいつも困るからの~う」
と言ったのは、去年の校内戦第三位にして。
砕球科内序列第二位チームの主将、壇ノ浦闘吾だ。
高校生とは思えないくらい口周りに髭を蓄えた、むさ苦しい感じの見た目である。
「そっくりそのままお返ししますよ、壇ノ浦先輩。まあ、あなたたちには選択権なんてあってないようなものですけどね」
「何じゃと!? もう一度言ってみんかい!」
「いつも残飯処理してくれて助かってます」
にっこり笑いながら、しれっと嫌味を言う九十九。
壇ノ浦はガタンと音を立てながら立ち上がった。
「お二方、落ち着いてください。それと九十九さん、私は風紀科を希望する生徒を砕球科に引き摺り込むのはやめて欲しいと言ったんですよ」
「これはドラフト会議だ。ボクは有力な選手と交渉したい。それの何が悪いんだい、屋島さん? 才能のある子はボクのチームで砕球をやってしかるべきだ。それに嫌なら断ればいいと思わないかい?」
「最近の若い子は断ることにすら罪悪感を感じるんです。少しは察してあげてください」
九十九のチームが一番最初に受験者を選抜していくため、風紀科希望の受験者を横取りしてしまうこともある。
九十九学園の風紀科は卒業と同時に、《心力》を用いた凶悪犯罪者たちを取り締まる行政機関――征維義衛隊の受験資格を得ることができるため、風紀科を希望する実力ある選手たちがこの学園にはたくさん集まるのだ。
実際、風紀科希望だった屋島は、九十九から何度も声を掛けられていた。
勿論、受験者側にも拒否権はあるので、屋島は断ったわけだが。
そのことで義経ファンクラブから嫉妬の嵐にさらされたことがトラウマだ。
「屋島さん、ボクはね、交渉には相手への愛が必要だと思うんだ。つまり――」
「――義経」
先程から腕を組んで押し黙っていた、砕球部副部長の山伏弁慶が口を開く。
「練習の時間がなくなる。話を進めよう」
「……そうですね」
落ち着いた低音ボイスに促され、九十九は先に進めてくれと目で合図する。
それから、百人を超える受験者たちの運命を分ける取捨選択が始まった。
「さてと……ボクのチームからは以上だね。残りものはどうぞご自由に」
「ちょっと待てください、義経先輩」
「なんだい、閑花さん? 蓮くんはボクの――」
「――その話はもういいですから! そうじゃなくて、達花くん……受験番号1番の人、リスト漏れしてます」
「その子、要る? 試合を観てたけど、記憶にないなぁ」
「え……」
九十九にばっとリストを見せつけていた閑花は言葉を失う。
「だって、何か活躍したかい? 点も取ってないし、蓮くんがいなかったら鋭利の居合斬りで終わってた子じゃないか」
何だよちゃんと覚えてるじゃん、と思ったが相手は先輩。
本音はぐっと飲み込んで、閑花は続ける。
「確かに得点は取ってないですけど、砂刀先輩と猪勢くんから一本取りましたし……」
「随分、肩入れしてるみたいだね。でも、この学園の施設は有限だよ。これからこの学園を志望する生徒たちは益々増えるだろうさ。それを考えたら、見込みのないやつは不要だよ。少なくともボクのチームには要らない」
「でも――」
「――試しに入れるだけ入れてあげても、かい? 才能のない子に他の道を示してあげるのも、一つの優しさだとボクは思うよ」
「まあまあ、九十九さん、別にチームに入れるくらいいいじゃないですか。それに人数のことなら、実際に砕球科志望者が増えてきてから考えればいいわけですし」
そう提案した後、さり気なくサムアップをする屋島。
「やくしゅましゃん……」「…………」
先輩の理路整然とした言葉にぐうの音も出なかった閑花は、思わぬ救済に目を潤ませる。
一方、九十九は他所の科に口を挟まれて面白くない様子だ。
正論で部の後輩を黙らせようとした分、屋島からそれに被せるように客観的な意見を言われ、余計に腹立たしい。
「屋島君の言うとおりだ。君のような後輩を持てて光栄だよ」
と、屋島の賛同の声を上げたのは、風紀委員の一ノ谷正義だ。
濃い眉毛と太い縁の眼鏡、活力が漲っている目が特徴的な男子生徒である。
壇ノ浦とは違うベクトルで熱苦しい。
「そもそも、高校生というのはまだまだ未熟な存在。周りから言われたことを精査せずにそれが正しいのだと思い込んでしまうこともある――だからこそ! だからこそ、芽を潰すようなことを迂闊にしてはいけないと私は思うんだ! 我々の先は長い! 同じ学び舎ですごす者同士、切磋琢磨し、励まし合い、高め合っていこうじゃないか!」
どんどん言葉に熱が籠る一ノ谷。
会議室にいる者は、それに一々反応しない。もう慣れっ子だ。
「……あ、そっか」
「お、分かってくれるかね、九十九君!」
「そうだよ! 最初からそうしてればよかったんだ!」
「おおそこまで言ってくれるか! 私は感激したぞ!」
その会話はまったく噛み合っていない。
屋島はやれやれと首を振ってから続ける。
「では、続いて風紀科の選手選択です」
その後、ドラフト会議はつつがなく終了。
翌日の結果発表では「達花誠人」という文字が九十九のチームの欄にしっかりと記載されていた。
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屋島補斑
性別:女
誕生日:8月13日
年齢:16歳(高校2年生)
身長:166cm
ポジション:球操手
好きなもの:かき氷、、夏祭り、夏野菜、夏の大三角、夏日、夏空、夏期休暇、夏場所
作者コメント:最初主要メンバーだったけど紆余曲折あって島流……配置転換された「~の右腕」系女子。脇役にしてから急に書きやすくなったキャラです。が、ここのコメントで書くことは特に思い浮かばない不思議笑




