試験開始!
剛羽たち「チーム閑花」が選手入場口東側から円形闘技場に入ると、フィールドを囲むすり鉢状の観客席から、砕球部の入部試験を観戦にきた生徒たちの大歓声が上がった。
他の五つの闘技場でも入部試験が同時並行で行われているというのに、席はほとんど埋まっている。
九十九学園砕球部は強豪だけあって、その入部試験ですら在校生たちからの注目度は高い。「砕球部入部試験」というのが、学校行事や祝日などと同じく、学校のカレンダーに記載されているほどだ。
既に北、南、西側の入場口には相手チームが一列に並んでいた。
閑花は自身が率いる剛羽たちチームメイトを、急いで整列させる。
『お願いします!』
全チームが一礼しながら挨拶をすると、円形闘技場が青い光に包まれ始めた。
九十九学園の近くにある日本砕球連盟支部から、遠隔操作でバトルフィールド――《闘技場》を展開してもらったのだ。
『会場にお集まり頂いた皆さん、お待たせ致しました! 今年も九十九学園砕球部、春の入部試験の季節がやってきましたよ!
球場には既に第一試合で戦い合う四チーム総勢二十名が出揃っています! なんとこの球場で試験官を務めるのは、我らが九十九学園が誇る五豪傑のうちの四人だ!
圧倒的物量で全てを粉砕、《不撓不屈》――山伏弁慶!
またつまらぬものを斬ってしまった、《無閃刀》――砂刀鋭利!
道は走るもんじゃない自分で切り開くものさ、《悪質運転》――駿牙轟!
仰々しい二つ名はないけど砕球部内トップ5の上位ランカー、閑花和姫!
くじ運が悪かった受験者諸君には心から同情します……が、これはチャンスでもあるから頑張れ、グッドラック!
さあさあ、《心力》に秀でた超人たちによる血湧き肉躍る武の祭典がいよいよ開幕!
実況は高等部一年、清森巴がお送りします! 今日も盛り上げていくぜ~~~~~~い!』
『うおぉああああああ!』
『ありがと~! 観客たちも大盛り上がりだぜい!
ではでは、続いて試合解説を担当してくれる方の紹介! 本日、第一闘技場にお越し頂いたのは~?』
『うおぉああああああ!?』
『我が校、砕球部始まって以来の天才球操手にして上級生を差し置いてのチームキャプテン! それから、皆さんご存知、現学園理事長のお孫さん! 学園のプリンス! まだまだあるぜ、現生徒会会長!
ああもう、挙げたら切りがないぜ! はい、九十九学園高等部二年、《闘将》こと九十九義経さんで~す!』
『せ~の、義経せんぱ~い!』
『おやおや、観客席には九十九義経ファンクラブの横断幕が見えますね~、って何しに来たんじゃお前たちはぁ!? ていうか、九十九先輩は高みの見物ですか!? 試合、参加しないんですか?』
『秋の試験でやらかしたからね。今日は、ボクは有望そうな新人選手たちの観察に来たんだ、よっ』
『あ~、確か九十九先輩とマッチアップした受験者の方は、試合が終わってから何週間か病院で寝込んでたみたいですね。しかし、砕球ではよくある話です』
『そういってもらえると救われるね。秋の試験からは戦場試験官に復帰する予定だからよろしく。それより、清森さん。そんなおっかない顔は、キュートな君には似合わないよ。でも、怒っている顔も素敵だ、ねっ』
『そんな超可愛いだなんて、恥かしいですよぉ~…………ひっ!?』
『どうしたんだい、清森さん? 顔色が悪いよ? どれ』
『つ、九十九先輩、わたしのおでこに触ってやらないでください! 今日の帰り道が不安になるので! わたしの学園生活が不安になるので!』
『なるほど……まったく、可愛い子猫さんたちだ』
『気障キャラが板に付いてるのが憎い! はい、それではそろそろ、試合に戻りましょう! それでは九十九先輩、皆さんご存知だとは思いますが軽く砕球のルールの説明をば』
『任せて、清森さん。
砕球っていうのは三チームないし四チームで行われるバトルロワイアル。でもって、得点を競い合うゲームだね。
点の取り方は至ってシンプル。各チームに五つずつ支給されている球を壊すと一個につき二点。相手チームの選手を一人倒すと一点。以上。
砕球とか言われてるけど、球だけじゃなく相手の意思を砕く必要もあるんだ』
『なるほど、だから秋の試験で相手選手を病院送りにしたんですね?』
『清森さん……蒸し返さないでくれまいか。これでも結構引き摺ってるんだよ』
『これは失礼☆
一応捕捉しておきますと、自軍の持ち球を全部壊されると、そのチームの選手たちはそれ以上プレーできなくなります。
獲得点はそのまま残りますが試合途中で味方選手が全員退場するというのは敗色濃厚でしょう。守手の方々は球操手を全力で守って上げてくださいね!
さてさて、各チームの選手たちが転送ゲートに入りました! 転送先は全選手ランダム! さあ、それでは皆さん、ご唱和ください! 時間の都合上試合時間はいつもの半分、たった十分間の濃縮還元バトル、3、2、1――ブレイクアウトぉおおおおお!』
「トランス、ダブル!」「ダブル!」「ダブル」
戦用複体へと変身したところで、剛羽たち選手の足元――紋章の形をした転送エリアが光り、その煌めきに選手たちが包まれる。
そして視力が回復すると、選手たちの目の前には、丈の長い木々やつる植物などが密生した大自然の空間が広がっていた。
『全選手、転送完了! 今回のフィールドは密林! 密林です!』
『視界や足場が悪い、敵の多いフィールドだね。お手並み拝見といこうか』
【皆~、聞こえてる?】
【蓮。感度良好。達花と一緒だ】
【こちら奥舟、蓮くんたちに近いっす】
【お、そりゃラッキーだね。耀ちゃんは?】
【神動先輩は現在交戦中です! 通信切断してるみたいで連絡取れません!】
【風歌ちゃん、耀ちゃんの相手だれ?】
【えっと……相手は山伏先輩です】
【あちゃー、運がないね。わたしがヘルプに行くよ】
【閑花、お前は球操手だ。危険過ぎる。それに神動にとってチャンスだろ。サポートに行くのは奥舟が適任だ】
【蓮くん、厳しいね~。でも、了解。じゃあ、予定通り、わたしと蓮くんは一旦合流しようか。頼りにしてるよ、わたしの守手】
【こちら奥舟。神動さんのフォロー、了解】
【奥舟くんが行くまでは耀ちゃんには頑張ってもらうおう。そんじゃ】
【あ、あの! わたしは何をすればいいですか?】
【フィールドプレイヤーから指示ない間は、今なにをするべきかは自分で考えることだぜい、風歌ちゃん。これはオペレーターの試験でもあるんだからさ】
耳に取り付けられた通信機でチームメイトたちと連絡を取り合った剛羽は、《心力》を使って手元にレーダーを出し、閑花の位置を確認する。
彼女はフィールドの北側にいるらしく、南側にいる剛羽たちとは五百メートル以上の距離があった。
閑花はこのチームの球を守るポジション――球操手を務めている。持ち球を全て割られるとそのチーム全員が退場を食らってしまうので、球操手の護衛がメインの守手を務めている剛羽としては、一刻も早く合流したいところだ。
「達花、足元気を付けろよ」
「分かっている。へまはしないさ」
「達花」
「何だ?」
「背、縮んだな」
「うるさい仕方ないだろ気にしてるんだ僕も!」
戦用複体では変身前のときと髪型や身長などを変えられるが、誠人の場合は《心力》が足りず戦用複体をつくるのもやっとなのだ。
結果、小柄な彼は戦用複体になるとさらに小さくなってしまう。
気を取り直し、苔生した倒木や地面に突き出ている木の根に注意しながら、二人は早速北に向かって進行を始めた。
少し霧のかかったあたり一面の緑の空間。
奇妙にうねった大木やアーチ状に伸びる木々。
静かに流れる濁った川水。
フィールドの再現度の高さも手伝って、どこか遠い国に来たような感覚だ。
とそこで、耀の救援に向かったはずの奥舟が視界に入った。
先程確認したときの耀の位置は西側の端っこ。助けに行くのであれば、こんなところで油を売ってる暇はないはずだ。
「奥舟、キミの仕事は神動のサポートだろ」
「いやー、そうしようと思ったんだけど、やっぱり誠人くんの方がこのミッションに合ってると思ったんだよね」
「話があるなら無線でしてくれ。時間の無駄だ」
「ごめんごめんって、蓮くん。お願いだから怒らないで。ね、このとおり?」
誠人が何か言いたげな表情を見せるが、それを剛羽が片手で制する。
「奥舟、砕球は――」
「――おっと、敵さんの登場だ。どうする? 戦うしかないよね。先陣は譲るよ、蓮くん」
「そいつはどうも」
そう言って駆け出す剛羽。
そのとき、誠人は確かに見た。剛羽の後ろにぴったり付く奥舟の姿を。
一番乗りは譲るなどと言っておきながら、獲物を横取りするつもりだろうか。
まさか最初からそのつもりで接触してきたのかと、誠人はそこまで考え付いてしまう。
しかし。
「「え?」」
と、誠人と奥舟が思わず間抜けな声を出してしまうほどに、剛羽は目の前に現れた二人の選手を瞬殺してしまったのだ。
やられた相手がどんな《心力》を使うかすら明らかにされないほどに一瞬。いつの間にか錬成していた小刀二本で、相手の首を斬り飛ばす。
何もできなかった相手選手二人の戦用複体が爆砕し、元の身体に戻った二人は一瞬で《闘技場》の外に転送された。二人ともチーム山伏の選手らしい。
「ちょ、オイ! 困るよ、独り占めされちゃあ!」
「あ、すまん。次見つけたら全部譲る」
剛羽にそう提案されてもまだ腹の虫が収まらないのか。
奥舟はダンダンと無駄に足音を立てながら先行してしまう。
「待て、奥舟。まったく、キミというやつ――は?」
瞬間、奥舟を連れ戻そうとした誠人の頚部目掛けて、大人の拳程度の石のようなものが飛来した。
それを剛羽に押し倒されたことで間一髪回避。しかし、今度は別方向から剛羽たちに対して銃弾の雨が撒き散らされる。
そして同時に、少し離れたところで上がる奥舟の悲鳴。見れば、見事に脳天を撃ち抜かれたらしく、額から黄色粒子――《心素》がブシューっと噴出している。
間もなく、痙攣したかのようにビクッと身体を震わせた後、奥舟の戦用複体は退場した。
各チーム獲得点数、途中経過
1位 チーム閑花2点(内訳:敵選手2人撃破=1点×2)
2位 チーム砂刀1点(内訳:敵選手1人撃破=1点×1)
3位 チーム山伏・チーム駿牙0点




