53:夏期休暇
歯磨き粉を作るのに、瓜を育てて頂く契約を取り付けたりギルドに登録したり。
ドニさんには瓜の油で作った歯磨き粉も、もちろんプレゼントした。
フィリベールくんが使うのに良さそうな高さの椅子や踏み台を見付けては買い揃えたり。
作物の摘心や、人工受粉させて収穫量を増やす方法を伝授したり。
あれやこれやとしていると、あっと言う間に夏期休暇がやって来た。
一部の方にはボーナスはあるが、夏期休暇はない。
将軍さまのボーナスなんて、なんと、四半期に一度支給されるんだよ!
しかし、盆休みみたいな休暇はない。もともと、日曜日みたいな概念もないからね…。
だが、しかーし!私は今年こそ海へ行きたくて、夏期休暇と、冬期休暇がもらえるよう交渉していた。
ふふふ…っ。ふふふふふっ。
そう!今年こそ、海で泳ぐんだ!
[ブルビィ、お願いね]
[うむ。任せろ]
氷の属性の竜、ブルビィ。集団暴走を食い止める時、一緒に戦った竜の一匹。
その時、シルバーにユリシーズさん共々、最上位の個体認定されたっぽいのだが、竜たちにもそんな感じの認定をされたみたいなんだよな。
そのお陰で、以前、妃殿下方のために欲しい生地を買付けに行く時、運んでもらう事が出来たんだけどさ。
その時は人に見つからないよう、夜間、しかも海上を極力飛んでもらった。
竜が見えると、どこの国も地上は大変な騒ぎになるって事だったからだ。
しかし、今回は昼間、普通に飛んで運んでもらう。
それに、だ。事前に、竜が見えても恐慌状態にならないようというお触れを、有難い事に国王陛下が出して下さっているのだ。
お触れがあっても念の為、海上を目的地目指して飛んでもらうけどさ。
二階、三階を無限収収に収収したコンテナハウスの一階に全員集まり、結界を張る。
結界を張ったコンテナハウスを、ブルビィの立派な鉤爪がそっと掴むと…。
やや揺れながら、コンテナハウスが浮き上がる。
アークとアイルには、前もって大丈夫だからと何日も掛けて言い聞かせてきた。浮遊感にちょっと驚いていたけど、暴れる事はなかった。
「将軍さま!ショアラさん!行ってきまーす!」
町から離れた平原に佇む将軍さま方に手を振り、しばしの別れの挨拶をする。
向かうのは、海老でお世話になっている港町!日本酒などの取扱いをなさっている、ヤーン商会のダカルヤナさんのお店のある町。それと、泳げる場所のある三ヶ所!
釣りはどこかで適当にする予定。
夜はタドリィ親方の住んでいらした村にある、大好きな風景の窓辺のある家で過ごす予定だ。
◇
「皆、大丈夫ですか?」
「い、生きている…」
ユリシーズさん以外、皆下を見てからコンテナハウスの真ん中に集まって震えていたんだ…。
窓から外を見たまでは良かった。空を飛ぶって事がない事だからさ。高さと速さに目を回しちゃったんだよね…。
ユリシーズさんは何度も空を飛んでいるので平気だったが、ユリシーズさんと私以外は全滅したんだわ。
ブルビィには町から離れた場所に降ろしてもらったので、皆にはしばらく休んでもらう。その間に、アイルに二階建てキャンピングカーを繋ぐ。
「キャンピングカーの用意ができましたけど、出発できますか?」
「ああ、何とか…」
「私たちも、何とか行けるよ」
「じゃあ出発しましょう」
出発の前に、ブルビィにお礼と確認だ。
[ブルビィ。ここまでありがとう。夕方にここで]
[うむ。我はこのままここにおる]
[じっとしてるの?何かお肉おいておこうか?]
[いや、眠っておるよ]
竜たちは意外と寝る時間が多いらしい。お休みと手を振り、早速海老の輸送でお世話になっている港町を目指す。
不思議な町を、明け方くらいに出発したのでまだ午前中だ。
期待を胸に、久しぶりの港町を目指してキャンピングカーを進める。
アークに跨がり、アイルが牽くキャンピングカーの御者をしてくれているユリシーズさんと話しながら目指した港町には、あっと言う間に着いた。
「わあ!やっぱり港町の活気は独特だね!」
「そうだな」
小さいが、活気のある港町の大通りを、港を目指して進んで行く。
魚介類の焼ける、香ばしい香りがそこらから漂って来て胃袋を刺激する!
しかし、とりあえず港だ!色々買いたいんだ!店頭には並ばない物の中に、食べ慣れた物もあるかも知れないし!
主にたことかー、タコとかー、蛸!
たこ焼きか、明石焼きが食べたい!ソースはないけど、醤油がある!
「おう!優さん!会うのは久し振りだな!」
「あ、ホランドさん!はい、ご無沙汰です。海老、いつもありがとうございます」
「いやいや。優さんのお陰で、海老が飛ぶように売れるようになった!
海鮮バーベキューってので、他のも良く売れるようになったんだ!こっちこそ、ありがとうよ!」
ホランドさんとのお付き合いは、初めてこの港町に立ち寄った時、海老を生きたまま旧王都まで運ぶのにお世話になって以来続いている。
それ以来ずっと、海老のお取り寄せでお世話になってもいるんだ。
今日は普段、捨てちゃうような魚介類をおいておいて下さいとお願いしてあった。
「今日もお世話になります」
「おう!任せな!」
鮮度に文句のあろう筈もない。選んだ魚を順次神経締めと血抜きして、無限収収へぽいっ。あれもこれも、ぽいっ。
今回は冷蔵庫へ入れる予定がないので、五十度洗いはせず、神経締めと血抜きだけしっかりしておく。
ホランドさんたちに、それは何のためにしているのだと聞かれ、神経締めと血抜きの説明をする。そして、実践して頂く。
旧王都で、美味しい魚が出回ると良いななどと目論んでいたりする。だって、やっぱり旧王都でも海魚を食べたいしね!
しかし、タコが…!タコが無い!
「タコって、捕れたらその場で海へ戻すんですか?」
「タコ?!ってぇと、海のスライム?!あんなもん食べるのか?!」
「美味しいんですよ?」
ホランドさんは別の場所に固めてあったタコを、目の前に並べて下さった。
やったー!!タコがある!これでタコ焼きが食べられる!
「下処理にたくさん塩を使いますけど」
そう断り、お昼の用意を兼ねてまずタコの処理をしてゆく。
「…。確かに、かなり塩を使うんだな」
塩も現代ほど安くはない。だから、下処理に惜しみなく塩を使うのは、かなり高価な処理となってしまう。
「タコはこのぬめりがあるから、この処理をしないと味も食感も悪くなるんですよ」
高くなろうと、ちゃんと下処理をしたタコはとても美味しい。下処理を終え、網で焼いただけのタコを皆で食べてみる。
中にはもちろん手を出さない方もいらっしゃったが、忌避されている食材だ。それも仕方ないだろう。
「あちちっ。はふはふっ。んまっ!」
タコ特有のあま味とぷりぷり感。こっちの世界に来て初めてのタコは、ブランドタコに負けない物だと思う。
「これは…、美味い」
「見た目はアレだけど、魚とも貝とも違う旨味が、何とも味わい深いね」
「イカとも違うわね!」
「おいしいっ」
吸盤がどうしても怖いというフィリベールくんは、吸盤を削いだタコの足に囓り付いている。
小さなフィリベールくんも、美味しいと囓り付いているからかな?私たちの様子を見守っていた方たちが、恐る恐るタコに手を伸ばす。
「…!」
「これは…!」
食べてみると、意外と美味しかったのだろう。
その後、タコ焼き、シーフードのアヒージョ、タコとブロッコリーのバター炒め、タコ天などなど。
作れば作るほど、タコが皆の胃袋に収まっていって、夕方近くまで料理に掛り切りとなった。
匂いに釣られたのか、人も増えたので、そりゃもう大量に作ったよ。
しかし、海老以外の魚介類に飢えていた私には、お腹一杯、魚介類を味わった良い一日となった。
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