51:参入
「これはとても美味しいね」
「本当。とても料理が上手ね」
「アチチのトマト、おいしいの」
「いつもの薄いピザも美味いけど、揚げピザも美味い」
厚生地のピザが食べたくて、パン作りに使う酵母を増やして水洗いして作る生イーストを作ろうとしているが上手くいかないんだよね。
なので、ピザはまだ薄いのしか食べられないんだ。
いつか分厚いピザを、絶対に食べるんだから。
「いつもの薄いピザ?」
「ああ。こんな風に包んだ形じゃなくて…」
夕飯を作っている間、小腹が空いたと仰るデジレさんに揚げピザを摘んで頂いていたのだが…。
デジレさん以外の全員も、何故か揚げピザを摘んでいる。
デジレさん以外の全員には、カーニバルの皆さんも入っているよ。
ユリシーズさんも夕飯作りを手伝ってくれていたが、揚げピザをテーブルで揚げるのと摘むのにちょっと抜けている。
そんな団欒を横目に、ちゃちゃっと夕飯を作る。
今日の夕飯は鶏雑炊。サラダうどん。豆腐のグラタン。鮭のムニエル。エブリンさんとゾーイさんからリクエストのあった、牛肉のピッツァヨーラ。きのこ汁。
こういった和食系は、移動中に食べている事が多い。
ご飯を食べると腹持ちが良いと、皆から移動中の食事に和食を希望されたからだ。
町や村でなら、小腹が空けば屋台や大衆食堂があるので問題ない。
だが、移動中はそうはいかない。
小腹が空くと、ナッツ類やお皿代わりに使われるパンとかを齧る事がある。
しかし、食べなくて済むなら、食べずに済ませたいとの事。
そんなリクエストから、町や村にいる間にニホンショクを食べるのは珍しいんだ。
私はもっと和食が食べたいんだけどね。
南瓜の煮物とか、白和えとか。
かと言って、和食が人気がない訳じゃない。こういった和食は、アレクサンドリーヌさんとマルゴーさんに好評だ。
そのお二人は香りで夕食がニホンショク系と分かっているのか、なんだかそわそわしている。
「お待たせしました。ご飯にしましょう」
揚げピザを食べ終え、夕飯作りの手伝いに戻っていたユリシーズさんと料理を運ぶ。
それに続いてカーニバルの皆さんも、まだ運び切れていない料理や飲み物を運んで下さる。いつも洗い物して下さるのに、ありがたい。
「ぼくも、もつ」
「ん?フィリベールくんも手伝ってくれるの?」
「うん。する」
こちらの五歳児の標準くらいらしい体格のフィリベールくん。現代日本人から見ると、三歳児とかくらいの小さな体だ。
軽い物を選び、これを運んでとお願いすると、嬉しそうにとてとて運んでくれる。
人数が増えたので、無限収納に入れてあるテーブルセットを出して拡張したテーブルに皆が着くと夕飯だ。
「このサラダうどんは、マヨネーズを出汁に溶いて食べて下さい。頂きます」
フィリベールくんには、テーブルも椅子も高くて食べにくい。そのため、ユリシーズさんの膝の上が食事の時の定位置となっている。
取皿にフィリベールくんの食べたい物を取り分け、フォークと一緒に渡してあげる。
小さな体と、小さな手。
デジレさんは集中してしまうと、子育ては無理だろう。ミラさんも、生活費を稼ぎに冒険者業に勤しんでいらっしゃる間、子育ては厳しいだろう。
今までどうやって来られたんだろう?そしてこれから、どうなさるんだろう…?
「なあ、親父。母さん。
フィリベールを育てながら、今までみたいな生活をするの?」
あ、聞きたかった事!
「いや、もう体がついて来なくなっているからね。
何より、フィリベールがいる。東部へ戻る仕上げに、この町へ来たんだよ」
「デジレのあの生活の仕方では、体に掛かる負担が大きいわ。ガタもくるわよ。
まあ、かく言う私も西部で冒険者は厳しくなって来ているから、旧王都に落ち着く心算よ」
「旧王都なら食事も困らないだろうし、情報もほどほど集まるだろうしね」
「あそこの森なら私でも、まだ暫くは冒険者として生活費が稼げるでしょうし」
「そうか。それを聞いて安心した」
東部より危険な西部に、体の衰えを感じていながら残ると言われたら心配しかない。
体の事、フィリベールくんの事を考え、東部に戻ると聞けば、そりゃ安心出来るよね。
良かったね、ユリシーズさん。
「この調査行軍に加わられてはいかがですか?」
「そうそう。学者冒険者デジレなら大歓迎と、将軍さんも言っていたよ」
「調査行軍に同行している学者にも、学者冒険者デジレがこの町にいるって噂が広まってて」
「探してたぁ!」
「それも良いかも知れないね。詳しく調べられずとも、一度見ておきたかった物もまだ沢山ある」
「デジレが良いなら、私はそれで良いわ」
「じゃあ明日。将軍さまの所へ伺いましょうか」
◇
翌日、将軍さまの所へデジレさんをご案内し、無事に同行の許可が下りた。
そして挨拶に学者さんたちの所へ寄ると、物凄く歓迎されたんだ。
「デジレ殿!論文を、全て読ませて頂いております!」
「私もです!『蜂、蝶々が実をつける』は良かった」
「いやいや。『雄、または雌のみで絶滅しない理由』が宜しかった」
などと、デジレさんが発表された論文の話で盛り上がったよ。
うっかり、「それは雌雄のキメラではなくて、雌雄モザイクの個体だと思いますよ」なんて言ったら、デジレさんはじめ学者さんたちに、それは何だと質問攻めにあった。
○○は、何故雄しかいなくても繁殖出来るのか?!
雄と雌で別の種類だと思われている可能性がある。
例えばオシドリ。オシドリの雄の冬毛は派手で、雌と同じ種類と思えないほど見た目が違う。この例のように、同じ種類と思われていない物の中に雌雄がいるのでは?
とか。
温度によって、孵った卵の全部の性別が雄になったり雌になったりする生物の事。亀とかワニだね。
生まれた時は全部雄、または雌だが、成長して性転換する生物の事。ホンソメワケベラとかサクラダイの話だ。
そんなのを知る限りする羽目になった。
お陰でこれ以降、デジレさんがいらっしゃるからだけでなはく、学者さんたちが頻繁にコンテナハウスへ訪ねて来られるようになったよ。
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