45:食事が心配過ぎる…
問題です。
地球で世界一高い山はエベレストですが、世界一死者が出ている山もエベレストである。
○か✕か?お答え下さい。
チク。タク。
チク。タク。
チク。タク…。
タイムアップ。答えは✕。
エベレストが世界一、死者が出ている山ではない。
死者は日本の谷川岳が、『世界の山のワースト記録』としてギネ○ブックに記載されている。
谷川岳の標高はニ千メートルを切っていて、世界の八千メートル級の山々とは比較にならない程標高の低い山だ。
標高が低くても、山は侮ってはいけないという事が良く分かるだろう。
今いる町のある地域は平地ではなく、ちょっと高さのある地域だからね。
そこより高地へ行くのだ。寒さ対策と、雨の用心は絶対に欠かせない。
なんでこんな話をしているのかって?
「全く。今回は優卿がおられるから、雨が降ろうと寒くなろうと対策を講じて頂ける。
だがしかし!それは今回に限った事!そんな事も失念し、こんな平地の、それも晴れの日にしか対応出来ぬ装備で西部北の高地で野営だと?!
戦って死ぬならまだしも、寒さで死ぬつもりか!!」
昨日は金曜日で、今日は土曜日だ。土日は寺子屋は休みで、それに合せてマンガリッツァみたいな豚狩りへ行く事になったのだ。
朝九時、一泊野営する用意を整えて、町の軍の駐屯地の練兵場に集合だったのだが…。
その装備の確認での事だ。素人目にも、高地での野営装備とは思えない準備の隊がちらほらある。
そりゃ、気が緩んでいると言われてもしょうがないな…。
「高所野営の準備を、四半刻で整えよ!」
クーたちがいるので戦闘も少ないしね。西部が初めての、まだ若手の方の中には気の緩む方も出てしまうのかも知れない。
これではショアラさんも、カーンさまも、将軍さまも、気を引き締め直す必要があると仰る訳だ。
「…。俺も。優がいるから、荷物減らそうとしてたな…」
「うん、そうだね」
「良い機会になった。俺も気を引き締め直すよ」
ユリシーズさんは、その装備じゃ心許ないという意見は聞き入れてくれた。だが、気を引き締めていなくては駄目だからね。
今回の事は、ユリシーズさんにも良い機会になったようだ。
◇
「なあ、おい。これ、食えたよな?」
「聖魔法で嫌な感じは察知しないから、たぶん食えるんじゃないか?」
今回、調味料は使って良いが、食料は道中で確保した物しか食べちゃ駄目なんだ。
そのため、みんな目ぼしい物を物色しながら進む事となった。
マンガリッツァみたいな豚だけどね。集められた情報によると、捕獲された三回が三回とも、同じ谷で捕獲されたそうだ。
そのため、目的地の谷までどの位で着くか分かっている。なので時間配分は出来るよ。
ただね…。みんな新兵の時、万が一の事態に備え、自生している食べれる物も教わっているそうだ。
だが、マンガリッツァ狩りに集められたのは、生まれが貴族の次男、三男という方が多い。
つまり、自ら食材を探す事などまずない方たちだ。食材探しも覚束ない様子…。
東部と西部で勝手も違うのだろうが、ちょっと心配になるレベルだわ………。
これ、ホントに万が一にも部隊から逸れたら、食料が確保できなくて死ぬんじゃないかと、かなり本気で心配になるんだけど…。
その一方。私とユリシーズさん、カーニバルの面々と、一部の隊員さんたちは順調に食材を集めている。
この辺りを拠点にしていたカーニバルの皆さんもだが、ユリシーズさんもかなりの食材を確保しているよ。
ユリシーズさんは結構、勉強家なんだ。いつか西部で仕事する事も視野に入れて、かなり西部について勉強もしていたそうだ。
それを聞いた時、素直に凄いと、ちょっと笑みが溢れた。
いかんいかん。今も表情が緩んでる。表情を引き締めなきゃ。
食材を集められている隊員さんは、実家が貧乏で、狩猟、採取を普段からしていた方が殆どみたい。
もたもたしつつ、お昼過ぎにはどうにか目的の谷へ辿り着けた。川もあるし、魚も捕ろうかな。
竿も用意されていたから、ちゃんと持って来たよ。
海魚も食べたいが、たまには川魚も良い。海魚とはまた違う美味しさがあるもんね。
って、内臓取らずに焼くつもりなの?!
「まったーっ!!内臓は出して!内臓は食べちゃ駄目ですよ!!」
駄目だ。放っておけない。
手は出さないようにとの事だが、放っておいたらどうなるか分からないよ。何人か体調崩しそうで怖い。
はあ。魚の話に戻ろう。内臓が食べれるのは無胃魚の一種、サンマ。サンマは無胃魚であるが故、食べた物が三十分程で体外へ排出される特性から内臓まで食べられる。
鮎は苔しか食べないので、内臓も食べられる。
つまり、特定の魚しか内臓は食べられないのだ。
「こうやって腹を開いたら、エラと内臓は全部出します。心臓がここにあるけど、上まで開かないと見えないので、忘れず取って下さい。
最後、しっかり内部を洗います。
ここまで手早く済まさないと手の温度で傷みますから、頑張って手早く済ませて下さい」
内臓は食べられないと知り、みんな真剣に真似をしている。…すでに痛い思いをした経験があるのかも…。
今日は串打ちに枝を使うので、口から刺す方法で。枝は体から出ないようにする方法にしよう。
体から枝が出ると、燃える事があるからね。枝が燃えたら上手く焼けなくなる。
魚ごと、体を折る位置を間違えず折って刺せば、金串で刺した時もくるくる回らない。
くるくるしちゃうと炙りたい所を上手く炙れないので、下手したら生焼けの部分でができてしまう。
串一本でのやり方が難しければ、串二本を扇型に刺して回転しないようにするのもありだ。
枝を使う時は、かなり身がボロボロになるから…。一本で頑張れ。
ヒレは塩でコーティングして見栄え良くしたいが、こんなサバイバルで細かい見栄えは度外視だ。
「出来ました?」
「なるほど。ただ突き刺せば良いのではなかったのだな」
って、カーンさま?!
「川魚の内臓も、食べられない物だったのですね…」
って、カーンさまの向こうにショアラさん?!
「もー!心配で仕方ありません!
食事だけは私の管轄下に置かせて下さい!」
「うむ…。それが一番被害が少ないだろうな…」
「そうですね…」
こうして食事は、私の管轄下に置かせて頂く事になった。
調理経験なんて殆どない方たちだ。お腹壊さない、簡単な食事にしよう。
これは決定事項だ。
◇
「身にこう包丁を入れると、火の通りが早くなります。
魚は焚き火でじっくり焼くほうが適度に水分が抜けて、パリパリに焼き上がりますから。魚は焚き火で焼いて下さい。
火から少し離した所に串を刺して、じっくり焼きます。川魚なので、背中から焼いて下さいね」
みんなが串を焚き火に向けて地面に固定するのを待ち、次の作業に移る。
「できました?じゃあ魚が焼けるまでの間に、固い野菜を、厚さ五ミリから十ミリまでの厚みに切って軽く下茹でします。
茹でれたら表面の水分を、錬金術スキルか風魔法で軽く乾燥させます。
表面に水分がたくさんついていると、油が跳ねて危ないので、必ずちょっと乾燥させます。
マッシュルームとか、固くない野菜は切らなくても大丈夫です。下茹でも不要ですから」
しばらく待つと、みんな出来たようだ。さすがにただ切るだけなら出来るよね。良かったぁ。
「本当は専用のフォークを使いますが、今日は普通のフォークを使います。
必ず耐熱素材の革等を巻いて持って下さい」
シングルバーナーに、野菜が浸かるくらいのオリーブオイルを入れたミルクパンを乗せ、オイルを百四十度から百八十度に温める。
「オイルが温まったらフォークに刺して具材を入れ、火が通るのを待ちます。火が通ればオイルフォンデュは完成です。
食べている間に魚も焼けると思いますから。頂きましょう」
オイルフォンデュ。チーズフォンデュと同じくスイスの料理だが、あまり知名度はないかもって料理だ。
スイス版、卓上素揚げ鍋料理と言えば良いかな?
何種類かソースを用意して、好みのソースで食べるのも嬉しい料理だ。
具だが、具は何でも良い。冷蔵庫の掃除するのに向いた料理だ。
殻を剥いて背わたを取った海老から、肉、野菜。果ては果物まで具に出来る。
あ、葉物野菜以外ならね。流石に葉物野菜は厳しい。
作り方も、オリーブオイルに色々入れる方法もあるが、オリーブオイルさえあれば出来る。味付けの失敗のしようもない。
なので、料理が出来ない隊員さんたちでも簡単に作れる料理だ。
「美味…っ!」
炒めたのとも、焼いたのとも違った美味しさだよね。
「あれ、俺も料理できる?」
待て待て。これを料理が出来るとは言わないで。
「魚がちゃんと焼けてて、しかもパリパリで美っ味!!」
焼きたい面をちゃんと焼けなければ、生焼けの部分も食べてたでしょ?
ちゃんと串打ちして、しっかり焼ければそりゃ美味しいさ。
ユリシーズさんにカーニバルの皆さんも気に入ったのか、黙々と野菜や肉を揚げてはオイルフォンデュを食べ、魚を食べを繰り返している。
こうしてこれ以降、この時に作った料理は後世まで残る、シュシェーナ王国軍のサバイバルメニューとして継承されたのだった。
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