44:不思議な町
「わーっ、わーっ!凄い!夏に縮みほうれん草!」
町が近くなり、畑の間の道を通ったら。なんと!日本では冬、それも期間限定でしか収穫できない作物、縮みほうれん草が目に飛び込んで来たのだ。
縮みほうれん草は日本にもある。だが、それは普通のほうれん草が露地栽培で栽培される事で寒さに耐え、育つ事で縮みほうれん草に変化する物だった。
寒さが重要なので、夏に縮みほうれん草はできないのだ。
だというのに、七月の今、目の前には縮みほうれん草の畑が広がっている。
やっぱり、日本のほうれん草と種類が違うのかも。あるいはこちらでも、冬と春のほうれん草で種類が違うのか、はたまた別種なのかも知れない。
「地球には、夏にはないの?」
「うん、夏にはないよ。出回るのは冬限定で、数もとても少なかったんだ」
「ああ。数が少ないのは、冬縮みと同じか。
夏縮みはこの辺りでだけ採れる。それも七月頃に収穫期を迎える、普通のほうれん草の一部が変化して縮みほうれん草になるらしい」
「へえ?やっぱり、気温とかが鍵なのかな?」
それにしては普通のほうれん草の間に、そこそこ疎らに生えてるよな…。しかも地域限定ってなんでだろう?
「さあ…?俺には分からないな…」
「そっかあ。ユリシーズさんにも分からないんだ」
[お!甘くて美味い葉だ。あれを食わせろ]
[分かったよ。後であげるね]
[うむ]
アイルも好きらしい。だけど、アイルが食べた事があるのは、冬の縮みほうれん草だった。
夏の縮みほうれん草も、アイルが好む味だと良いな。
夏なのに縮れている、縮みほうれん草に後ろ髪を引かれていたのだがー…。
「今度は木立ちトマト?!」
「あれ?本当だ。なんでこんな低地の、温かい所に?」
「え?!寒さは苦手だよね?」
「いや。もっと高地の、夏もそんなに気温の高くならない所で育つ作物だよ」
地球のとちっがーう!真逆だよ!
「この町近辺は、そちらの木立ちトマトや夏縮みほうれん草といった、他所では育たない物が育ったり現れたりしやすいんですよ」
そう教えて下さったのは、双頭隊のショアラさんだ。
「そうそう。ここは美味しいものが多いから、私たちはこの辺りを拠点に活動してたのよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ。原因は分からないんだけど。それみたいに、普通は育たない物が育ったり、普通の物より甘みが凝縮した縮みほうれん草や、他にいくつかが縮みになるのよ」
「へえー、不思議だね」
「本当に。生物だと豚ね。一度だけ、変わった見た目の、とても美味しいのが狩れたわ」
「どんな豚だったんですか?」
「ええと…。毛むくじゃらで、鼻が黒くて、蹄なんかも黒かったわね。味は甘みが強くて、肉は豚っていうより、牛の肉に近いと思ったわ」
「それ、マンガリッツァ?!」
え、希少な美味しい豚だと、これもネットサーフィンしてて、たまたま知った豚だ。
特徴も、マンガリッツァにそのまま当てはまる。マイナス30度にも耐えれるから、寒いこの国にいても変じゃない。
「名前は分からないけど、とても美味しかったわ」
「赤身と脂のバランスが最高!」
「濃い赤褐色の肉だけど、普通の豚より柔らかくて美味しかったぁ!」
「へえ。食べてみたいな」
〘クーも!美味しい豚、食べたい!〙
〘ルーも、美味しいの好き!〙
〘美味い物は、興味あるな〙
小高い山の、上から下までの段々畑。段々畑の間を縫うようにして、山の頂上にある町を目指し、皆で話しながらゆっくりと進む。
「私もその豚、食べてみたいな。でも、売られてはないんだろうな…」
「そうだろうな。狩り、行く?」
「私たちも良いかしら?」
「優さん達とフェンリル達が一緒なら、見付かる気がするね」
「むしろ、見付かる気しかしないよ!」
「絶対だわぁ!」
ははは…。いつかの釣果以来、私が漁猟へ行くと、珍しい獲物が捕れると言われているそうなのだ。
あれはたまたまだし、毎度変わった獲物が確実になんて捕れないからね!
「宜しいですね。私たちも加えて頂けませんか?」
「えぇ?ショアラさん達も?」
お仕事あるんじゃないのかな?
「はい。少々気が緩んでいる者が出始めておりますので。気を引き締める為に、是非」
「さっきの戦闘で、何かあったんですか?」
ショアラさんは双頭隊の隊員さんだ。双頭隊は、調査行軍の先頭に配置されている。先頭の守りと、他部隊の戦闘のフォローなどをなさる隊だ。
そんなショアラさんがここにいらっしゃるのは、魔物牛の群れが現れたので、討伐なさっていたからに他ならない。
戦闘に加わらない者は急いで町を目指し、戦闘中の方たちを残して来たんだ。
その戦闘が終わり、いつものように定位置へ戻ろうとなさったのだが…。道が狭くて、私たちを追い越せなかったんだよね。
「ええ。そうです」
ショアラさんの笑顔がコワイっ。何があったのか、絶対聞かないぞっ!
しかし、返事する前に盛り上がっちゃってるな…。
ここで売られてない物を食べたいとなると、だ。冒険者ギルドに依頼を出すか、自分で狩るしかないんだよね…。
冒険者ギルドに登録はしてないが、私が討伐依頼出すのも何か違うからなぁ…。
「うん、行こうか」
と、なるよね。
◇
いつ狩りへ出掛けるか?後で将軍さま同伴の席で相談する事となった。
なので、それまで町の八百屋さんや雑貨屋さん巡りをしてみよう。
「あ!縮みほうれん草ある!」
「それは時期だから。
時期外れのアスパラも、ブロッコリーもあるよ」
「いらっしゃい!そうだろう、驚きだろう?
うちの妻が大きめの無限収納なんだ。だからそこに旬を過ぎた物も収納してて、時期外れの野菜も扱ってるんだよ」
店主さんが種明かしをして下さった。
「なるほど。無限収納は野菜や果物、魚の保存に最適ですもんね」
「お?お客さんも無限収納で食べ物を保存してるのかい?」
「色々入れてますよ。無限収納にはとてもお世話になってます」
群れ虎に襲われていた村を出発する前。パン屋さんや村の方たちから、色んなお餞別を頂いた。
サワー種が完成したので、サワー種で作った黒パン。これが最近増えた物の中で、一番量があるものだ。
小麦のパンと同じ大きさだと、ほとんどの方が二個も食べ切れない。だからちょっと小振りの黒パンを、なんと五十個も下さったのだ。
他の物は丁重に、極力お断りしたけどね。
復興もまだ完全じゃないのだから、お金も食べ物もいくらあっても良いからだ。
お金は私たちが出発してから配って下さいとお願いし、ユリシーズさんと連名で、お見舞金を文官さんに預けて来たりもしたけど。
中世ヨーロッパに近いこの世界。鍋一つの調理道具すらない家も多かったりする。なんなら台所がない家も多い。
だから屋台が多く、朝から賑わっているのだ。
そこら辺の事情も、地球の中世ヨーロッパに近い。
そんな事も含め、ラノベなんかで読んでいた世界より、ここはかなり地球の中世ヨーロッパに近いと驚いたものだ。
家は土魔法で再建したりしたから、問題はないと思う。だからお見舞金は、調理道具なりが買えるように、ね。
「へえ!…もしかして、噂になってる黒いパンは…」
「ありますよ」
頂いた物も、自分たちで焼いた物もある。それがどうかしたのかな?
それにしても、もうライ麦パンの噂が広がり始めてるのか。早いな。
「持ってるのかい?!物は相談なんだが、黒いパンと何か商品を交換してもらえないかい?」
「構いませんけど、どうしてですか?」
「ちょっと酸味があるが、腹持ちが良いって聞いてさ。興味があるんだよ」
なるほど。八百屋さんも意外と体力仕事だ。三食食べてても、腹持ちするのは魅力的なのかも。
出すなら自分たちで焼いた物だ。三十ニ個焼いて、十四個残ってるから、それ以内なら交換しても構わない。
こうして縮みほうれん草や木立ちトマトとか、欲しい物のいくつかはライ麦パンとの物々交換で手に入れたのだった。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなど、お気楽に下の
☆☆☆☆☆
にて★1から★5で評価して下さいね。
いいね!も、宜しくお願いします。
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしてます。




