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31.打ち寄せる波が引いていき



 緑色の波が引いていく。

 纏め上げていた長たるゴブリンジェネラルが倒されたからか、一万も居た数の有利でも勝てないと悟ったからか、生き残ったゴブリンは蜘蛛の子を散らすように森へと逃げ帰っていく。


 敗走していく様子を見て古都の防衛隊は安全が守られた事と、しばらくはあの残党への対処が必要であろうと予想させられた。

 一方で異邦人(プレイヤー)達の方は、ワールドクエストの完了によって配布された報酬に一喜一憂したりと反応は様々であった。





「おーい、ナイン。生きてっか」

「……ナイン、さん?」


 そうプレイヤーもNPCも十人十色の様子で有る中、最前線で地べたに五体投地しているナインの脇腹を聞き覚えのある声と共につつく者が居た。

 まるでからかう様にヒューイが弓の端で片方をつつき、反対側はしゃがんだマージーが指でつついている。


「生きてる。けど死んでる」

「はは、どっちだよ」

「よかった」


 絞り出すように目を閉じたまま悪戯の主が判れば声を上げれば、二人から各々の反応が聞かされた。

 仕方ない、とばかりにナインは気怠い身体を起こせば、もう二人が近づいてくるのも遠めに見える。


 思えば、ゲームをログアウトすれば殆ど残らないとはいえ、ゲーム内でのこの感覚が実際に感じるという事は興味深いと思いながら、ナインは駆け寄る二人を迎えた。


「お、後衛組。お疲れさん」

「お疲れさま、です」

「ええ、二人ともお疲れ様」

「お疲れーですぜぃ」

「うん、みんなお疲れさま」


 気付けばいつものメンバーの様に、良い雰囲気で五人は城壁へと帰路に着いた。



「……そおいえば、リザルトが来てるっすよねぃ」

「あ」


 肩を並べて古都へと戻る最中、スプークの思い出したような言葉にナインは思い出す。

 そう言えば撃破数の勝負をもちかけていたことを。


「そうだそうだ、昼飯だったよなぁ!」

「……じゃあ、私も、それで」

「待て待て待って?なんだかランクアップしてない?あとマージーさん面識ないよね?」

「じゃ、成績はっぴょ~」


 流れがそういう方向へと傾けば、なぜかやる気の二人にナインは困惑させられる。

 その上、高校が同じであるヒューイ……圭はまだしも、マージーとはゲーム内で出会ったばかりである。

 そんな懸念もよそに、スプークの声を皮切りに、各々がリザルトウィンドウを見せ合う。


「俺は416体で、貢献度1563ポイントだな」

「私は、473体。1635ポイント……」

「…………」

「どしたよ、ナイン」

「……?」


 ヒューイとマージーが先に結果を口にするが、その数字にナインは目を逸らす。

 そう言った様子に二人が首を傾げていれば、背後に回ったアリスとスプークが代わりにナインのリザルトを読み上げる。


「あーこれなら、言い辛いですよね」

「どういうこった?」

「姉さん、撃破249体で貢献度が2811ポイントみたいです」

「うっわ……だっせえ」

「ヒューイ、お前飯抜き」

「ひでえ!?」

「ちなみにうちはぁ、撃破397体っす」

「ぐはっ」


 予想以上にヒューイとマージーが撃破数を稼いていた事に驚きつつ、一方で自分の撃破数に現実逃避したくなるナインだったが、そこにスプークの追い打ちが浴びせられる。

 これなら貢献度で争えばよかったとも思うが、後の祭りであった。



「総長、ではまたっすよぅ」

「じゃ、期待してるぜ

「ぜ、です」


 などと騒いでいるうちに古都の北門へと辿り着き、ヒューイとマージー、スプークとはここで別れる事となった。





 三人と別れたナインとアリスは、以前待ち合わせた喫茶店に身を寄せていた。

 そこで紅茶とナインはサンドイッチ、アリスはショートケーキを頼んで反省会を行っていた。


「ではここは、下げるよりも前に出した方が……?」

「うん、逃げ気を攻められるだろうから、牽制する程度で」

「なるほど……」


 アリスが開いてテーブルに置いたウィンドウには、今回のクエストを溯った状況が示されていた。

 それを見ながら、時に助言したり一緒に考えたりとしてアリスの指揮の腕を確かなものに上げていく。


 だが初めてにしては手際が良かったとナインは思う。

 大抵あんな大舞台では尻込みするのが普通であるのに、彼女は任されてから一歩も退かなかった。

 その事に嬉しさ半分の複雑な心境で、事後検証が終われば紅茶をゆっくりと味わう。


「それで、初めての指揮はどうだった?指揮官殿」

「止めてください……でも、そうですね。凄くどきどきしました」

「緊張で?」

「いえ、興奮で」


 問い掛けに良い反応を見せてくれる彼女に、ついナインの口から微笑が漏れる。

 この様子だと、自分とは違う方向性のいい指揮官になれる事だろう。



 ふと話題が途切れ、サンドイッチを齧り始めると今度はアリスから話題を振られる。


「姉さんの方はどうでした?今回の戦いは」

「んー、どちらかと言えば、不完全燃焼かな?」

「そうでしたか……」


 暗い顔をされてしまうが、こればかりは自分の落ち度も有って事実故に仕方がない。

 実際に今回のナインの反省点と言えば、やはり火力であった。


 ヒューイの様に射程が有る訳でも、マージーの様に火力が有る訳でもない。

 その上、範囲殲滅に長けたスプークの様にも対複数の技が圧倒的に少ない事だ。


「もう少し、スキルやアーツの勉強かな……ほんと」

「それか、職業の会得もいいかもしれませんね?」

「職業?」

「この前北の森へ抜けたじゃないですか。その先の街で出来るんですよ」

「ほへぇ……」


 指に着いたパンくずを払いながらウィンドウを開き、ブラウザを呼び出して検索すれば確かにベータ版ではそうだったらしいが――


「なるほど、ベータテストでは未実装だった、と」

「そういう事です。けれど可能性の模索には良いかと……?」

「そうだね、これも考えてみよっか」


 軽く見てみると、東西南北の四方向の中でどこでもいいのでエリアボスを討伐し、その先の街でクラスチェンジという名の職業選択ができるようだ。

ならば、折を見て行くしかあるまいと思考しながら、ナインはその後アリスとのんびりと紅茶を楽しむ事にした。




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