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ララは、その時、洗濯をしていた。
(水、冷たい)
もうすぐ雪が降りそうだと思う気温になっていたのだが、お湯で洗濯物を洗う事は出来ないので、手は冷えていく。
(また、王子に余計な心配かけちゃうな、今日は、メイド用の暖炉に当たれるといいんだけど……)
洗濯物を洗いながらそう思う。
「ねえ、ルナ、あなた彼氏が出来たんだって」
隣に座っているメイドが、メイドの仲間に声をかけられて、頬を染めている。
(そういえば、王子の彼女のようなものなのか? 私!)
キャイルの顔を思い出して、ドキドキしていた。
(だめよ、想像するだけでこれでは、本人の前でどうしらいいか)
そこに、いつどやの書類をばら撒いた、茶髪でポニーテールのメイドが来た。
「ジュリ、あなた、王子がナフィク国の姫に求婚されているのを知っている?」
「ええ、でも、王子は断るでしょうね、ナフィクは小さな国ですもの」
(王子が求婚された)
「ジュリは、本当に王子の事が好きだよね」
「だって、かっこいいじゃない」
(確か、茶髪のポニーテールの女は、ジュリって呼ばれていたわ、メイド長にいじめの件で報告しておいた方がよさそうね)
そう思って、こっそり抜け出した。
メイド長室に向かうと。
「どうしました? ララ・メロー」
「いじめの犯人がわかりました」
「あら、誰だった?」
「ジュリと言うメイドです」
「ジュリ! ジュリ・カサンドラとナンシー・クリンでしょうね、よく、一緒にいますから、良く調べましたね」
「たまたま、声が聞こえて」
「しっかり、叱っておきます。今日から王子の部屋に行かなくていいですよ」
「そ、そうですよね」
メイド長にそう言われたので、王子の部屋に荷物を取りに行った。
「母上、そうは、いいましても」
キャイルの声がする。
「あっ、王妃様!」
急いで、頭を下げる。
「あら、あなたは、いつだか、メイド達に責められていたメイドさんね、あの後、大丈夫だった」
「はい、私は、ララ・メローと言います。よろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
「あなたが、ララ・メロー? キャイルの好きな子?」
「なっ!」
ララは恥ずかしくて固まっていた。
「母上、ララが困っているでしょう」
「あら、キャイル、王子のくせに王妃に内緒で、彼女を作ったのだから、それは、反省した方が良いわ」
「あの~、私、メイド寮に戻ることにしたので、荷物を取りに来たんです」
「あら? 別居宣言? さっき、キャイルに、同じ部屋で寝泊まりしているって聞いて、ラブラブなのだと思っていたわ」
「違います。表向きは、いじめから私を守るために、同じ部屋で寝泊まりしていたんです。恋愛関係ではないはずです」
「そうなの、じゃあ、いじめた犯人が分かったのね」
「はい」
「本当か?」
キャイルが反応した。
「ええ、本当よ」
「ララ、もう、俺の部屋にいなくなるのか、さみしいよ」
「あんまり、恥ずかしくなるようなこと言わないで下さい。王妃様がにやけてらっしゃるじゃないですか」
「いいのよ、続けて」
「続けられません」
「本当に面白い子、キャイルが好きになるのも分かるわね~」
王妃が喜んでそう言う。
「王妃様、違うんです」
「ララは、かわいいだろ、母上もそう思わないか?」
「ええ、とてもかわいらしいわね」
「この親子もういや」
恥ずかしさで、その場にいられなかった。
「とにかく、私は、メイド寮に戻ります」
荷物を抱えて、走ってメイド寮に向かった。
「はーはー」
「どうしたんですか? ララさん」
メイド長が、不思議そうにこちらを見ている。
「さては、王子に迫られたのね、「君のいない夜は眠れないよ、また、この部屋にいてくれないか」とか言われて」
「い、いいえ、快く追い出してくれました」
「そう」
メイド長は、つまらなさそうにそう言った。