2
キャイルは王妃の前に立ち、外出許可証を出した。
「まあ、外出?」
「はい、たまには、外の空気も吸いたいと思いまして……」
「でも、あなたは、ケガをしているのだから、大人しくしていた方が良いんじゃないのかしら?」
「サグナも一緒に行きますし……」
「でも、メイドは、ララ・メローしかつれていかないと書いてあるけれど、大丈夫なのかしら?」
「はい、ララ・メローは、とてもいい子ですから」
「そう、でも、やっぱり、お忍びじゃなくて、城の関係者たちで出かけた方が良いじゃないかしら?」
王妃はひたすら心配してくるので、困ってしまった。
「それでは、俺の見たい素の街が見れないんです」
「! 素の街ですって」
「いずれ、王位を継いだ時、街の状態を知らなかったでは、すまされないでしょう、だから、見たいのです」
「そう」
王妃は、しぶしぶ、外出許可を認めてくれた。しかし、次は、王を説得しなければいけない。
(父上は、手ごわいからな~……)
心の中では、不安だった。
「父上」
「なんだ? キャイルか、何の用だ?」
背が高く、威厳のある雰囲気をかもし出している王様は、キャイルを厳しい目で見ている。
「お忍びで外出しようと思っているのですが、よろしいでしょうか?」
「……いいだろう」
「本当ですか?」
「すべての始末を自分で出来るのなら許そう」
「すべての始末?」
「傷の事も、仕事の事も、すべての事をしっかり片付けられるのなら、許すと言っているのだ」
王の言う事は、最もである。何か事件が起きた時、王に頼らないで、自分で対処できなければ、いずれ王になどなれない。
「わかりました。すべての責任は、俺が背負います」
「そうか、それなら行っておいで」
「はい」
この約束をしたからには、気を張って行かなければいけないのだと、心の中で強く思った。
サグナとララの元へ戻ると。
「外出許可出ましたか?」
「ああ、もちろん」
「やったー」
ララは喜んでいる。この笑顔が見れただけで、外出の許可が出て本当によかったと思った。
「それじゃあ、私は、準備をしに戻ります」
「そうだね、ララ、メイド寮に行っておいで」
ララが部屋を出て行くとサグナがきつい顔で話かけて来た。
「許可を降ろす時、王は何の条件を付けた」
「自立しろってさ」
「なるほど、王の考えそうなことですね」
「大丈夫、俺、一人前だから」
「……」
サグナは黙った。
◆ ◆ ◆
ララは、部屋でカバンに道具を詰めていた。
「ララ・メロー、どこかにでかけるの?」
メイド長が不思議そうな顔でこちらを見ている。
「はい、でかけます」
「王子付きのメイドが、外出していいの?」
「その、王子と出かけるんです」
「! かけおちね」
「何を言っているんですか、メイド長! お忍びで出かけるのに同行するだけですよ、何もありません」
「そうですか、つまらない」
「メイド長って、ゴシップ好きなんですか?」
「女は、ゴシップが好きな生き物なのよ、年を取ればわかるわ」
メイド長は三十代後半で、とても美しいが、心の中は、嫉妬心にあふれていそうだと思った。
「メイド長は、恋人などは?」
「つい、この間、離縁したばかりよ」
「……悪い事聞いちゃいましたね」
(自分が今、幸せじゃないから、他人のゴシップにかみついているのね)
ララは心の中でそう思っていたが、口に出したりはしなかった。
「とんでもないギャンブラーで、借金作って逃げようとしたから、別れてやったのよ」
「そうでしたか……」
「あの男~……」
メイド長は、ものすごく怖かった。
「あっ、私行かなくちゃ、王子が待ってます」
「あなたは、王子にだけは、恋してはダメよ、きっと、あなたも遊んで捨てられるだけですからね」
「大丈夫ですよ、だって、キャイル王子ですよ、そう言うタイプではありませんよ、きっと」
「王子だって男よ、裏の顔の一つや二つ、あるに決まっているわ」
「あっても、私は、相手にされないでしょうから、気にしません」
ララは強気でそう言って、王子の部屋に向かった。
「王子様、準備してまいりました」
息を切らしてそう言うと。
「ご苦労、馬車の中に乗せてくれ」
「はい」
ララは、バッグを持ち上げて、後ろの馬車に置いた。
馬車の中の配置は、サグナとキャイルが並んで座って、その向かいにララが一人で座った。
馬車は、ガタガタ動き出す。
「出発したわね」
ララは、窓の外を見て、そう言った。
その後は、沈黙が続き、三人共ずっと黙っていた。窓の外の景色をみて、ボーとしている。
ちらっとキャイルと目が合うララ、キャイルもすぐ逸らす。
(どうしよう、恥ずかしいよ)
向かい合っているため、窓から目を逸らして、前を向くと、キャイルと目が合ってしまう。
ドキドキと心臓が高鳴る。
馬車は、無情にもそのまま走り続けた。




