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第六十四話 爵位持ち

前回までのあらすじ!


ドラ子が恋する乙女だ!

 肩口を押されて突き飛ばされる。


「――っ!?」


 落下防止の鉄柵に腰を打ちつけたおれが見たものは、つい先ほどまでおれたちが立っていた通路に出鱈目に突き刺さった、いくつもの剣の姿だった。

 ぶわっと汗が浮いた。

 逆側へと避けたリリィが叫ぶ。


「巨大な魔素反応です!」


 あいつが肩を押してくれなければ、おれはすでに串に刺さった肉団子だ。

 魔素を可視できないというのは、レアルガルドにおいて相当な不利なのかもしれない。もっと気配を読むことに意識を割かねばならんようだ。


「助かったぜ、ありがとよ!」

「来ますっ!」


 リリィが空を指さす。

 薄闇。何もない空間が歪んだと思った直後、十本ほどの剣が突然出現して、おれへと向けて飛来した。


「夢でも見てんのか糞ったれが……」


 おれは金属を網目状に編んで造られた空中通路を走って避ける。

 剣は次々と火花を上げて、足もとの通路に突き刺さる。


「ンだこりゃあ!? 魔術ってのはなんでもありかよ!」


 せいぜいが火ぃ噴くだけかと思っていた。

 やれ不可視の氷弾だの、やれ精霊召喚だの、今度は金属の剣まで持ち出してきやがるときたもんだ。


 足音を立てて大型魔導機関(エンジン)の周囲を走り、裏側へと滑り込むようにして回り込む。

 ちょうど逆側からリリィが滑り込んできて、おれたちは苦い表情を付き合わせた。


「ゆっくり破壊している暇はありませんね」

「んぁ~どうすっかね。この分じゃもう基地内の通信室からアラドニア本国に報告もいってんじゃねえかなァ」


 リリィが片手を額にあてて薄闇の空を仰いだ。


「でしょうね。ですが、どういう経緯でわたしたちのことが判明したのか……」


 名もなき国の一件では、アリッサの親父が己の身の安全のためにおれたちを売った。まあ、安全を保証されるどころか、吐くだけ吐いたら国ごと灼き払われちまったようだが。


「ナタクさんではないですね」

「ああ。あいつらにゃ不可能だ」


 おれたちだって莫迦じゃない。名もなき国と同じ轍は踏まなかった。

 つまり、ナタクには魔術兵殺しや飛空挺墜としの犯人がおれたちであることを話していない。表向き、あれはどこぞの竜騎兵(ワイバーン乗り)がやったことになっている。


「……考えるだけ無駄だねェ。とりあえず脱出するかィ? 大型魔導機関(エンジン)を目の前にして撤退するのは、ちょいと惜しいところだが」

「そうですね。まだ合図を送っていませんから、ナタクさんたちが無意味にこの基地へと突入することもないでしょう」


 作戦は失敗だ。


「じゃ、こっから先は――」

「――はいっ。徹底的に暴れてやりましょ……ぅ?」

「リリィ?」

「へ? えっ?」


 リリィの身体が傾き、突如として倒れ込んだ。

 リリィの足首に、長く黒い影のようなものが絡まっている。


「なん――?」


 影は遙か直下から長く伸びていて、おれたちのいる空中通路の端からリリィの足を引いていた。


「ひゃ!?」

「リリィ!」


 手を伸ばしたときにはすでに遅い。リリィの身体は落下防止の鉄柵の隙間から、闇に引きずられるように吸い込まれていった。


「きゃあああああぁぁぁぁぁ……ぁ……っ…………ぁ…………………………」


 落ち……た……? なんだ、今のは……? あれも魔術か……?


「糞!」


 おれは鉄柵から身を乗り出して下を覗く。

 船底が見えない。

 薄闇で高さがわからない。飛び降りるにはちょいと危険な高度であることだけは間違いない。足を引っかける場がなきゃ、うかつに飛び込むこともできやしねえ。


 おい、冗談じゃねえぞ。


「リリィィィィィッ!!」


 木霊する。だが、返事はない。

 代わりに、静かな闇の空間に足音や破壊音が聞こえ始めた。

 おれは胸を撫で下ろす。

 生きている。何かと殺り合ってやがんだ。


 だが、何とだ?


 どこかから降りる場所は――と視線を回した直後、おれは空間の歪みを見つけた。

 直後、剣が降り注ぐ。


「く……っ」


 菊一文字則宗を抜刀し、数本を薙ぎ払いながら残りを体捌きで躱す。おれの足もとに数本が散らばり、数本が突き刺さった。


「ふい~、危ねえなァ」

「ハァッ!」


 耳もとで聞こえた声に、ほとんど反射的に、おれは後ろ回し蹴りを繰り出していた。ブーツの足裏で振り下ろされた剣の腹を蹴飛ばし、空中通路を転がって距離を取る。


「驚いたな。凄まじい反応だ」


 そこにはアラドニア魔術兵とは少々違う制服をまとう、口ひげを生やした男が立っていた。

 年の頃は四十路(よそじ)から五十路(いそじ)といったところか。肉体は精悍。背丈はおれより頭二つ分高く、白髪の交じり始めた髪は短く整えられている。

 胸にはいくつかの勲章がぶら下げられていて――いや、そんなことをすべてさておいても、ただ者じゃねえことは歴然だ。

 臭うのさ。己と同じ臭いだ。


「ンだてめえ?」

「キミが名乗った男だと言えばわかるかね?」

「……? ゲイルってやつかい?」


 二本の剣をひっさげ、男は見たこともねえ奇妙な構えを取った。左の剣を下げ、右の剣を上げ、前に出した左足を少し曲げて体勢を低くしたんだ。

 呼応するように、おれは上段にかまえる。


「いかにも。酒が抜けるまで少し時間がかかってしまったが、なに、もう問題はない。すっかりと素面(しらふ)だ。キミが相手であれば十二分に楽しめるし、楽しませてやる程度の自信はある」


 ゲイル伯爵がにやりと笑った。

 ほうらな、同類だ。ろくでもねえ人斬りだ。


「それはそうと、なかなかの見世物だったよ。詰め所の魔術兵とキミの会話は」


 しばし黙考し、思い至る。

 おれは顔をしかめた。


「たはぁ~……、最初っから全部罠かい……」


 笑い話だ。

 前線基地の入口で、おれとリリィが必死でゲイルとルシアに成り代わる演技をしていた頃、詰め所の赤ら顔の足もとかその背後には、すでにこのゲイル伯爵とやらが潜んでいたってわけだ。

 それも半笑いで。二人の大根役者を見ながら。


 赤ら顔はゲイル伯爵に文字なり小声なりで、おれたちの演技に付き合うよう命じられ、ゲイル伯爵はまんまと不審者二名をアラドニアの前線基地(腹ン中)に誘い込むことに成功した。

 つまり、まぬけはおれたちのほうだったってことさ。


ドラ子の雑感


う、う、うねうね、うねうねしてる!

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