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第三十四話 魔導国家アラドニア

前回までのあらすじ!


人斬り侍がダークエル子をシュシュっとつかまえたぞ!

 彼女の話は至極単純だった。

 早い話が、レアルガルド大陸に無数に存在する小国家の一つに過ぎなかったアラドニアが、どのようにして、この大陸の最大勢力にまでのし上がったのか、ということだ。


 時は五十年前まで遡る。

 他種族と交わることを禁忌とする排他的なハイエルフ族とは違い、好戦的なダークエルフ族は積極的に人間種の勢力争いに関わっていた。

 そして、そういった勢力争いの渦中にあったのは、当時、無数に存在していた小国の一つに過ぎなかったアラドニアとて例外ではなかった。

 隣国ロンドレイを統治していた騎士王リリエムが、アラドニア領内に存在する黒の石盤遺跡を手にするため、アラドニアへと侵攻を開始したのだ。


「黒の石盤遺跡? なんだィそりゃ?」

「……おまえ、本当に知らないのか? 人間なら誰でも知っているぞ!」


 ライラが首筋に鏃をあてがわれたまま、疑惑の視線をおれへと向けた。

 出たよ、これ。また生塵(なまごみ)を見るみてえな視線だ。リリィといいライラといい、まったく異国の女ってのは。


「いや、だから~、おれがこのレアルガルド大陸に来たのは数日前だっつっただろうが。これを大前提としてわかりやすく話してくれ」


 ライラが黒髪をがしがしと掻き毟り、苛立たしげに長い息を吐いた。


「ふん! ……もういいっ。そういう体で話してやるっ」

「おう。なんかすまねえな」

「ったく、ふざけた人間だッ」


 ほんの少し、空気が弛緩した気がした。

 むろん、だからといっておれはライラの首筋にあてた(やじり)を下ろしてやるつもりはない。相手にこちらの生死を委ねるなんざ、危機感の欠如したまぬけのすることだ。

 そんなおれの気持ちを知ってか知らずか、ライラがこれまでより幾分落ち着いた声で静かに呟いた。


「魔導技術(テクノロジー)発祥の地が、アラドニアの黒の石盤遺跡だ。ロンドレイの騎士王リリエムがその力を知っていたかどうかは知らん。だが、リリエム王は石版遺跡を狙ってアラドニアに侵攻を開始した」


 当初こそ互角に渡り合っていたアラドニアだったが、いかんせん相手が悪かった。

 騎士国家ロンドレイは大国ではなかったにせよ、騎士王リリエム率いるロンドレイ聖騎士団は勇敢にて頑強。死をも恐れぬ騎士たちだったのだ。

 開戦からおよそ一年、アラドニアは領地の大半を失うこととなった。


 これに窮した当時のアラドニア王は、周辺各国に助力を仰いだ。

 だが、騎士王リリエムの聖騎士団を恐れた周辺国家が、アラドニアのために動くことはなかった。


「一つもかい?」

「そうだ。一国たりともだ。だが、各国も聖騎士団を恐れたというだけではない。リリエム王は炎と騎士を司る女神リリフレイアの末裔と呼ばれていて、多くの国に教会と信奉者を抱え持っていたんだ」


 女神リリフレイアに、その末裔ねえ。

 宗教が絡んできやがると、とたんに胡散臭く感じる。ま、古竜や黑竜なんて生物がいる地だ。神などというふざけた存在もいるかもしれん。一応は気に留めておいたほうが良さそうだ。


「なるほどな。騎士国家ロンドレイに弓を引けば、自国領内でリリフレイアの信徒が反乱を起こす恐れがあった、か」

「そうだ。だから周辺各国はどこもアラドニアに手を貸さなかった。そこに現れたのが、土地を持たず傭兵を生業としていた、神をも恐れぬ我ら常闇の眷属ダークエルフ族だ」


 囚われの身でありながら、どこか誇らしげにライラが胸を張った。


「あ~、度々話の腰を折って悪いが、常闇の眷属ってのはなんだィ?」


 ライラが眉根を寄せて舌打ちをした。

 こんにゃろ~ぅ……。自分の命がおれの手の中にあるってことを忘れちまってねえかい……。


「神を信じぬ種族。あるいは神にすら弓引く種族。つまりダークエルフ族のように、知能が高く秩序を重んじる種族を総じて、常闇の眷属と呼ぶんだ」

「魔物は?」


 面倒臭そうにライラがため息をついた。


「おまえバカか。魔物に秩序を重んじる知能があると思ってんのか」

「魔物だって群れを作ってるじゃねえの」

「あんなもん生存本能だバカ。知能じゃないだろバカ。死ねバァ~カ!」


 言い過ぎだろ……。ちょっと涙出そうになったじゃねえか……。


「ダークエルフ族の他には、魔人族なんかも常闇の眷属だ。逆に女神リリフレイアや他の神を信奉する人間は光の眷属にあたる。ハイエルフやドワーフは中立だ」


 まじんってなんだよ。どわあふってなんだよ。

 罵られるのが嫌だからもう訊かねえけどさあ……。


「とにかくダークエルフ族は精霊魔術によって、リリエム王率いるロンドレイ聖騎士団と互角に戦った」


 それでも、アラドニアは自国領を守るだけで精一杯だった。ダークエルフ族は、決して数の多い種族ではなかったからだ。

 やがて交戦状態のまま数年が経過した頃、すっかり疲弊したアラドニア王は、禁忌を犯した。黒の石盤遺跡に手を伸ばしたのだ。


「人間種が魔導技術(テクノロジー)を扱い始めたのは、この頃だ。アラドニアは試験的に魔術兵を組織した。ダークエルフ族の精霊魔術も合わさり戦況はたちまち盛り返し、魔導国家となったアラドニアはついにロンドレイの侵攻を打ち破った」


 おれは思い出す。火筒を向けられながら、刀を振り上げて走っていた時代を。

 リリエム王とやらはどのような気持ちで魔術兵と戦っていたのだろうか。

 頭を振って思考を戻す。


「それだけではなく、アラドニア王は騎士国家ロンドレイを滅亡にまで追い込んだ。力に脅えていた王が、力に溺れた。手にした力を試したくて使いたくて仕方なかったんだ」

「……魔術ってなァ、なかなかに恐ろしいもんだねェ」


 刀で人を斬れば命の感触が手に残る。人斬りは罪悪感に苛まれる。それに圧し潰されたやつは狂う。他者の命の引き替えに、己の魂を穢してゆく。

 だが、火筒や魔術はどうだ。何もない。何も感じないから平然と人を殺せる。畑を耕すように人を殺せる。魚を捕るように人を殺せる。帰って飯を喰らう。

 アラドニアの魔術兵たちは、ロンドレイを滅ぼしたあとに誇っただろう。


 おれは三名殺したぜ! おれなんて七名だ!


 名もなき国が軍用飛空挺をどうにもできないように、騎士の国であったロンドレイが魔術を得たアラドニアに蹂躙されたであろうことは想像に難くない。

 ライラが吐き捨てるように言った。


「アラドニアが魔術を得るまで、ダークエルフ族が戦線を保たせた。なのに戦いを終えたあと、アラドニア王は――」


 言葉を切って歯を食いしばる。

 エルフの集落の夜に、炎の光はない。暗く、そして静かなもんだ。


ドラ子の雑感


……むにゃ……ハッ!? あ、あれ……?

いつの間にかほんとに寝てた……!

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