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第百五話 求婚

前回までのあらすじ!


人斬り侍がうじうじ考え始めたぞ!

 ()()()()()()と呼ぶらしい。この縦長の建造物は。

 中に人が住んでいることもあるし、商売屋が入っていることもあるそうだ。


 おれたちはリスタの路地裏に入り、周囲に人がいないことを確認してからリリィが魔法で出した服装へと姿を変えた。

 こちとらお尋ね者だ。羽織も着物も、このリスタではちょいと目立つ。


 入国の際にゃあ裏口からこっそり入らせてもらったが、飛空挺の離発着場ではさに非ずといったところだ。

 リリィは出逢った当初に着ていた白の()()()()()、おれは散々っぱらべたべたと手で採寸された挙げ句、なんだかよくわかんねえ()()()()()()といった軽装にされちまった。


「……尻がぴっちりして気持ち悪ィなァ……」

「我慢なさいませ。よく似合ってますよ」


 ほっこりした面で言ってんじゃあないよ。そもそも尻を見ながら喋るな。おれの顔はもっと上だ。

 羽織を腰に巻いて、菊一文字則宗は背中に縛りつける。

 帯剣しているやつもちらほら見るから、問題はないだろう。


「あ、羽織巻くと見えないです……」

「何がだよぅ」

「羽織憎し……」


 爪を噛んで睨むな。行儀の悪い。

 なのによ――。


「くく」

「……?」


 笑っちまった。


「尻くれえ好きにしろィ。ただし、アラドニアを片付けて黑竜を討ったらの話だ」

「へ? あ、あの、どういう……」


 しかし菊一を背中にすりゃあ、抜刀術の類は使えねえ。早めに抜くように心がけねえと、てんやわんやしちまいそうだ。

 柄に手をやり、抜刀の具合をたしかめながら、おれは静かに呟く。


「リリィ、おれと所帯持つか?」

「え? え?」

「どうせ帰れっつっても地獄の底までついてくるんだろうがよ。盟約破って自壊されても寝覚めが悪ィって話だ」

「は? う? え、ええ~……」


 なんだその反応。


「嫌なら別に今のままでもいい。それとも、この期に及んでまだ命令なさいませってかィ?」


 ようやく言葉が頭に浸透したらしく、リリィの頬が一気に染まった。


「う、うう? そ、それは、も、もうそういうわけでは……あの……オキタ……?」

「すべてが終わったら、おれの女になれ」

「……め、め、盟約を……承りまし……た……」


 空色の瞳で、ぼうとして。


 どうかしている? 当然、どうかしているとも。


 今のおれは狂気に一歩踏み込んだ状態だ。そんなことはわかってる。だからこそだ。

 原因はリスタの街だ。この街を見たとき、アラドニアの内情を知った。ここでは皆が幸福に暮らしていた。


「すべてが、終わったらだ」

「……はい」


 おそらくおれはそいつを破壊することになる。

 この期に及んで、また取り返しのつかないことをしようとしている。それは、あの時代にやってきたことよりも、ずっと非道な行いだ。心を凍り付かせなければ、遂げることはできねえ。


 だから怖かった。その先に、未来にぬくもりが欲しかった。

 成し遂げた後、おれはもう独りでは立てないだろう。たとえば自刃ですら、その罪を晴らすことはできない。


 だからリリィを利用した。

 おれがリリィに対し、好意を持っていることに嘘偽りはない。だが、それでも。おれはこいつの心を利用した。

 てめえの正気を保つために、利用したんだ。

 こいつのためなら、まだ生きられるから。



 ……誰かが、おれを討ちに来てくれるその日まで。



「すまねえな」

「な、何が……です?」


 リリィが赤い顔のまま首を傾げた。

 おれは少し考えて、誤魔化すことにした。


「盟約を使った」

「……それは……お気になさらず……。……さっきの盟約は、もともと、そうするつもりでしたから……」


 おれはリリィの背中を軽く押して歩き出す。珍しくリリィが小さくよろけた。


「じゃ、そろそろ行こうぜ」

「え、ええ……。………………ええ、はい。はいっ」


 そうして小走りでおれに並び、手に持っていた藁の帽子を被ってから強い口調で呟く。


「生きて戻りましょう!」

「くかかっ、あったりめえよっ。今さら何言ってんだって話だろ」

「ふふ、はいっ!」


 路地裏を出て、人混みを歩く。

 おれに視線を向けてくるものは誰もいない。羽織を脱いだのは正解だったようだ。だが、隣を歩くリリィに視線を奪われるやつらは大量にいた。男どもだ。

 どうやら着物に目を奪われていたというよりも、着物を着ていたリリィに目を奪われていたらしい。藁の帽子で目もとまで隠れてるってのに、よくもまあこんだけ目立てるもんだと今さらながらに思っちまう。

 おれは離発着場を目指し、リリィの手を取った。


「くく」

「どうかしましたか?」


 おれたちの上空を、低空で飛空挺が飛んでいる。ごうん、ごうんと、重苦しい大魔導機関(エンジン)の音を響かせて。


「いんや」

「でしたら気を引き締めてください。本国まで戦闘はないとはいえ、ここは敵の本拠地の一つなのですから」


 おれたちが相手取ってきたものよりも、ずっと小さな飛空挺だ。つっても、魔導機関列車(エンジントレイン)なんぞに比べりゃ、相当でけえもんだが。


「そうだな。すまねえ」

「盟約、守ってくださいね?」

「おう」


 砲門も申し訳程度にしかついちゃいない。おそらくは魔物除けだろう。

 戦闘用のものではないのだとよくわかる。こいつも魔導技術(テクノロジー)として、アラドニアの民に恩恵をもたらしているものの一つだ。

 おれたちはこれからこいつにのって、アラドニア本国へと向かう。


「破ったら切腹ですからね?」

「へいへい。腹ぁ斬ったらすぐにエリクシルで治してくれよ」

「……もうっ! 切腹が自壊よりずっと軽くなってるじゃないですか!」


 リリィがぷりぷり怒っているのを尻目に、おれは笑いながら歩き出す。


「はっはっは! おれたちの未来のためだ」

「う、う、ならばよしとしましょう!」


 単純だ。可愛いやつめ。



ドラ子の雑感


嬉しい……嬉しいけど、あきらかにおかしい。

……オキタの心が軋んでいる気がする……。

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