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第5話 街の便利屋、黄金を振るう

「……おい、動かないんだけど。これ、ギルドの最新モデルなんだよ?」


ガレージの入り口で、恰幅のいい中年の男が泣きそうな顔で俺に詰め寄っていた。

彼の手にあるのは、ギルドの紋章が刻まれた家庭用の『超小型魔導シュレッダー』だ。


最新モデル、なんてのは名ばかりで、少しでも硬い紙を入れたら即座に回路が焼き切れる「欠陥品の塊」である。


「最新モデルねぇ。旦那、ギルドに騙されたな。こいつは10枚も重ねりゃ、魔力が逆流して自爆するようにできてんだよ。……修理費、銀貨3枚だ」


「た、高いな! だが、頼むよ。大事な書類が詰まったままなんだ」


男が渋々銀貨を置くと、俺は作業台にそのガラクタを放り投げた。

いつものように'レンチを手に取ろうとした瞬間、左腕のガントレット――フィオが、静かにホログラムを投影した。


『その回路構成は「美学」を著しく欠いています。右回転のトルクに依存しすぎた結果、出力の42.195%が熱として無駄に廃棄されています。修正案を提示しますか?』


「……また始まったよ。いいか、フィオ。俺は銀貨3枚分、つまり『普通に動く』程度に直せればいいんだ。お前の超次元な最適化なんて求めてねえ」


『否定します。私の前で「不完全な魔導具」を放置することは、私の演算能力に対する冒涜です。左腕を貸しなさい。……導通コンタクト


「おい、勝手に……っ!」


俺の意思に反して、左腕が精密な機械仕掛けのように動き出した。

黄金の指先がシュレッダーの装甲を撫でるだけで、ギルドの封印シールが呆気なく弾け飛ぶ。

フィオは俺の脳内に直接、複雑な魔導回路の再構成図を流し込んできた。


『その「黒いボロ布」を2ミリ幅で裂き、第3増幅器の裏側に配置してください。そこから魔力を「左回転」で誘導すれば……』


「……チッ、分かったよ! やればいいんだろ!」


俺はフィオの指示通り、ボロ布の切れ端を驚異的な手際で基盤に埋め込んでいく。

仕上げに、メインの回転軸を「左ネジ」で強引に締め直した。


ガチ、ガチ、ガチッ!


完成したのは、見た目はただのボロいシュレッダー。

だが、スイッチを入れた瞬間、ガレージ全体に低く重厚な駆動音が響いた。


「……できたぞ、旦那」


戻ってきた客が、試しに分厚いギルドの広報誌を投入口に差し込む。


次の瞬間。


シュンッ!


一瞬だった。音もなく、広報誌は分子レベルの粉塵にまで分解され、排出口からキラキラと輝く「灰」となって降り注いだ。


「な、なんだこれは……!? 買った時より静かで、しかも速いぞ!」


「……ああ、まあ、ちょっと調整しといたからな」


男は興奮して追加のチップを置いて去っていったが、俺は作業台に突っ伏した。



噂を聞きつけたジャンク街の連中が、ガレージの外で列を作り始めているのが見える。


「……おい、フィオ。お前のせいで、ただの修理屋が『魔法使い』か何かに間違われ始めてんぞ」


『当然の結果です。私の理論に基づけば、家庭用のシュレッダーで鉄板を裁断することも可能です。……次は、あちらの「動かない洗濯機」をハックしましょう。重力制御を応用すれば、汚れと共に重力も消し去ることができます。』


「洗濯機に重力制御を積むな! 街中を洗濯物が浮遊することになるだろ!」


俺の悲鳴に近いツッコミが、活気づき始めたジャンク街の昼下がりに響き渡った。

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