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第2話 ガラクタの心拍(パルス)前編

「……チッ。相変わらず、非効率ロスの塊だな」


ガレージの奥、作業台に鎮座する大型の魔導発電機が、不機嫌な唸り声を上げている。

ギルドから配給される粗悪なエーテル電池は、供給されるエネルギーの半分以上を「熱」として周囲に垂れ流し、肝心の魔力は雀の涙ほどしか生み出さない。


街の連中は、その熱を「故障の兆候」だと忌み嫌うが、俺に言わせれば宝の山だ。

俺は発電機の排気口に、自作の銅製パイプを強引に巻き付けている。

漏れ出す廃熱を物理的に捕獲し、断熱材を巻いた水槽へと誘導する。これこそが、俺流のエネルギー・サイクルだ。


シュン、と小さな蒸気の音。

パイプの先にある簡易式の給湯器から、勢いよく熱湯が溢れ出した。

本来なら虚空に消えるはずだった熱が、俺の「ハック」によって、カップ麺を完成させるためのエネルギーに変換される。


「無駄にするのは、設計思想がねえ証拠だ」


俺は作り置きの乾麺に熱湯を注ぐ。立ち上がる湯気には、安っぽいスープの香りと、ほんの少しのオイルの匂いが混じっていた。

麺をすすりながら、俺は壁に貼った古ぼけた地図を眺める。


「……食い終わったら、宝探しだな」


ギルドが管理し、流通を制限している「まともな部品」を手に入れるには、あそこへ行ってゴミの中から「本物」を見つけ出すしかない。

奴らが「ゴミ」だと言って捨てたものの中に、俺の命を繋ぐ回路が眠っている。

カップ麺を数分で平らげ、口元をツナギの袖で拭う。

俺は頭に付けた安物の魔導ライトを点検し、相棒の巨大レンチを腰のホルダーに叩き込んだ。


「さて……今夜のゴミ山は、何を隠してやがる」


夜の冷気が、ガレージの鉄扉を開けた瞬間に肌を刺す。

俺はライトのスイッチを入れ、静まり返った街の影へと踏み出した。



「……ったく、どいつもこいつも右ネジばかり使いやがって」


深夜。街の境界線に位置する巨大廃棄場、通称『スクラップ・マウンテン』。

俺は頭に付けた安物の魔導ライトで足元を照らしながら、膝まで埋まるガラクタの山を掻き分けていた。

ここは、華やかな中央区で使い古された「文明の死骸」が流れ着く終着駅だ。

錆びた鉄の匂いと、微かに残る魔力の残り香が、湿った夜気と混じり合って鼻を突く。


逆回転レフトハンドさせりゃ、魔法の逆流オーバーロードなんて簡単に防げるのによ。ギルドの連中、わざと壊れやすく設計してやがるな。……消耗品を売らなきゃ、あいつらの贅沢な生活は維持できねえってか」


手に持った自作の磁石付きロッドが、鈍い金属音を立てて何かを吸い寄せた。

泥の中から引き上げてみれば、回路が完全に焼き切れた旧式の魔導時計だ。文字盤は割れ、針はあらぬ方向を向いている。


「……ハズレか。いや、待てよ」


俺はツナギのポケットから細いピンセットを取り出し、時計の裏蓋をこじ開けた。

中には、現代では製造が中止された高純度の『絶縁石インシュレーター』の小片が、奇跡的に無傷で残っていた。

俺がこのゴミの山を漁るのは、日銭を稼ぐためだけじゃない。

ギルドが管理し、流通を制限している「まともな部品」を手に入れるには、彼らが捨てたゴミの中から「本物」を見つけ出すのが一番手っ取り早いからだ。

彼らにとってのゴミは、俺にとっては宝の地図そのものだった。


「……ん?」


不意に、ロッドがこれまでにない強さで何かに引かれた。

腕を持っていかれそうなほどの、強力な磁力反応。

俺はライトの照射角を絞り、泥と油にまみれた残骸を慎重にどかしていく。

その『塊』を掘り起こした瞬間、背筋に冷たいものが走った。

それは、肘から先を模した、金属製の義手のようなものだった。


「……なんだ、これ」


一見すると、泥を被った無骨な金属の棒だ。だが、表面の汚れを指で拭った瞬間、俺の目は釘付けになった。

ライトに照らされたのは、月明かりを吸い込むような、鈍い黄金の輝き。

その隙間からのぞくのは、現代のギルド製とは比較にならないほど精密な、極小の魔導歯車と、血管のように這い回るシルクのような銀の配線。


「……美しいな」


思わず独り言が漏れる。

回路の密度が異常だ。まるで生き物の神経をそのまま金属に置き換えたような、狂気じみた、しかし完璧な設計。


俺はそれを大事に抱え、ギルドの巡回ドローンに見つからないよう、影に潜みながら廃棄場を後にした。

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