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A級一位は遂に退職を志す  作者: タラレバ


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プロローグ


 

 俺の生まれは、王国の端っこにある名前も無い田舎村だった。


 のどかで、静かで。争いごとなんて然程無く、田畑しかない農村社会。村の中では顔の知らない相手など一人も居らず、か細くも村の皆で助け合いながら生活しているような、そんな何処にでもありそうな平凡な村。


 正直なところ、退屈ではあった。俺だけでなく、村の子供達皆がその想いは抱えていただろうと思う。


 村の大人たちは温和な人柄の人達が多く、別にそこに不満がある訳でもない。人口の少ない田舎村が故に、まだ成人にも至っていない身でありながら労働を課されているけれど、農作業自体は始めて見ればかなり面白いものだった。

 特に、稲なんかは育つのも早くて楽しみを見出しやすかった。日が経つ度に伸びる茎の先を見るのが、この村での数少ない楽しみだった。


 そう、村での生活が不満だという訳では決してないのだ。退屈ではあれど、不幸ではない。貧しくはあれど、人間としての品性を失わずに生きている村人たちは、それこそ清貧に満ちた心の逞しさすら垣間見えた。


 この村に生まれた事を恥じた事は一度もない。例えお偉いお貴族様の前でだって、胸張って出身を名乗れるくらいには誇りは持っている。


 それはそれとして、という話だ。


 退屈な事に変わりは無く。言ってしまえば、俺は既に飽きてしまっていた。

 村での生活はそれなりに気楽で、けれど面白みに欠けている。もう村で出来るような遊びはやり尽くしてしまった。


 村の子供達からお山の大将みたいに持ち上げられて、彼等と共に村で悪戯して、或いは普通に仕事をして過ごす日々。平穏なのは良い事なのだろうが、俺の若い心はもっともっと鮮烈で強烈な非日常を求めている。


 そんな折だった。


 ふと、ある冒険者達が俺達の過ごす村を訪れてきた。こんな寂れた村にやってくるのなんて、一月に一度という頻度で定期的に日用品を売りに来てくれる行商人くらいのものだ。

 つまり、商売でも無ければこんな村に滞在する輩は少ないという事でもある。あの行商人め、せめて2週間に一回くらいのペースで来てくれればいいのに。


 とにもかくにも、珍しい外からのお客さんに村が盛り上がったあの日の事は、強く記憶に残っている。あの日俺は、いつもは険しい顔つきで畑の手入れをしている隣の家のケムットさんの愛想笑いを初めて見た。


 さて。村での刺激の無い日々に飽きていた俺が、そんなお客様方に興味を抱かない訳もなく。意気揚々と冒険者達の話を聞きに行った俺を見て、両親が苦笑していたというのを後日件のケムットさんから教えてもらった。


 冒険者達がしてくれた話は、本当に面白い冒険譚だった。今となればある程度比喩や誇張が入っていたのだと分かるけれど、当時の俺は無邪気に話の内容が全て真実だと信じて、目を爛々と輝かせていた。


 一度、質問した。冒険は楽しいのかと。


『人による、としか言えないな。冒険は危険が付き物だから、楽しいよりも怖いが勝ってしまう時だって当然ある』


 続いて、質問した。では、冒険はしない方が良いのかと。


『ハハッ、まぁ怖いのが嫌ならしない方が良いかもな。でもな、坊主。人生には冒険が付き物なんだぜ?』


 首を傾げた。人生に冒険が付き物、というのはどういうことかと。


『新しい事に挑戦する時、未知の世界に足を踏み入れる時。勉学でも武術でも、あらゆる分野の世界にはいつだって冒険ってもんが着いて回る。だからきっと、人は冒険から逃げ切ることはできやしない』


 その時、俺は自分がどういう顔をしていたのか分からない。何処か遠くを見つめる冒険者の男の横顔だけしか、俺はその時の事を覚えていなかったからだ。


『冒険は怖いさ。当たり前だ、冒険ってのはゴールの見えない道筋を地べた這いずってでも目指すってな事だからな』


 男はその時、きっと見えないゴールを見ていたのだろう。あの時、自分が目指す見えないゴールを、自分が歩く道の先を見据えていた男の横顔が、俺の脳裏から離れない。


『でもな、坊主。一つだけ言える事がある』


 いつの間にか、男は俺の目を見ていた。子供の俺の瞳を真正面から見つめて、直後にニッと歯を見せて笑った。


『冒険は、飽きねぇ』




















 夢を見ていた。


 幼い時、初めて自分の『夢』を持った日の事を、思い出していた。


 両親を説得し、村中の皆からの応援を背中に浴びて村を飛び出した。あの冒険者の男から分けてもらった熱を胸に、生まれて初めて知ったワクワクとした高揚を胸に、俺は王都の冒険者組合を目指して旅立った。


 それももう、10年ほど前の話。


「――朝かぁ……」


 気怠い声が漏れる。


 窓から差す朝日が実に眩しくて、目が萎む。カーテンを閉めてやりたくなるけれど、それをすると二度寝してしまうのは目に見えていたので仕方なしにベッドから身を起こす。


「あー……」


 寝て起きた後だからか、水を求める喉を黙らせるように発声。収まらないので後で水を飲むことは確定した。


 人は朝目覚めたなら、まず朝日を全身に浴びる事で体内時計を調整するとされている。両親から叩き込まれた幼い頃からの習慣に身体が突き動かされ、自然と足が窓際へと向かった。


 バッ、と窓を開け放つ。春を知らせる暖かい風が頬を撫で、部屋の空気を変えていく。外からは、まだ朝早いというのに道を駆け回る子供達の声と、威勢の良い男達の仕事に励む声が聞こえてきていた。


「…………」


 ここは、王都カーヴェルン。国内でも最大手の冒険者組合が設置されている、冒険者の聖地。


 活気あふれるこの街で、冒険者として花咲いた俺はただひたすらに――


「冒険者辞めてぇぇええええええええ!!」


 ――平穏を求めていた。


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