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第四話 人間

食事の有用性に気づいた後、何体かのゴキブリを狩って食した。

黒ズミが増して移動が早くなって、足と羽が生えた。まだ十分に動かせないけれど、練習と、あと何体か食べれば機能しそうだ。

気づいたが、要素を引き継ぐ、もそうだがもっと言うと食べたものそのものに自分の体が寄っていくような、そんな感覚がする。


それに、取り込んだ特徴は出し戻しできる。

すごく便利な体だ。


スキルの有用性についても気がついた。

レベルが追いついたとしてもあの時のゴブリンに勝てると思うほど浮かれてはいない。

これまで何度か子ゴブリンを見かけることはあったが、気付かれないようにやり過ごしていた。

挑まなかった理由に、何となく頭の片隅で警鐘を鳴らしている感覚があった。

恐らく、《生存本能》の危険察知が働いているのだろう。

これがなければ調子に乗って死んでいたかもしてない。

生きるために、大事で最適なスキルだ。


とはいえ逃げてばかりでは始まらない。

そこでゴキブリ以外に、前に見た蛇腹の黒光り、ムカデを狩りに行こうと思う。


ムカデを探す。

ゴキブリの特徴を取ったおかげで移動、特に壁面移動がかなり早くなった。


見つけた。

ゴキブリに比べて、ムカデはかなり大きい。

三倍はある。

取り付いて窒息だと逆に取り付かれてやられてしまうだろう。

だが、見た感じ、あいつは遅い。

ゴキブリとも正面切って戦うことができた今の俺の体なら、遅れを取ることはないだろう。


正面に立つ。向こうもこっちに気づいた。


ーーーーーーーーーー

魔ムカデ


レベル4

ーーーーーーーーーー


格上。だけど向こうは油断している。当たり前だ。こっちは体格は二分の一、レベルも下だ。

《生存本能》も警鐘を鳴らしている。

しかし、ここは踏み台。俺が強くなり、生き抜くために、いつかはこれ以上の挑戦もしなくてはいけないこともあるだろう。

怖がるな。強みを活かせ。生きるんだ。


俺が先に動く。狙うは足。俺には決定力がないから、動きを封じたあとで殺す。

速さにものを言わせて足を何本かちぎり飛ばす。

あっちは俺を追えてはいるが体が追いついていない様子。

このまま削っていくぞ。


走る、走る。地面も壁も。

順調に思えたとき、ムカデが動きを止めた。

足をかなり削っていた。チャンスだ、と思った。

あいつの顎牙を取れれば負けることはなくなる。

頭に乗れるように飛んだ瞬間、空中で身動きが取れなくなったのを見計らってか、尾で撃ち落とされた。

壁に叩きつけられる。


ぐへっ。


悪手だった。堅実さを失っていた。


それにしてもほどんどの足をとったのに、まだ生きてる。

こっちは一撃で瀕死だっていうのに。

ムカデはゆっくりとこっちに向かってくる。

トドメを刺しに来てるんだ。

《生存本能》がより音を大きくしている。


いや、よく見ろ。俺は瀕死だが、あいつも満身創痍だ。残り少ない足で何とか体を支えているに過ぎない。

ここが踏ん張りどころだ。

死ぬ気で勝て。

もう一度さっきの優位を繰り返すだけだ。

支えてる足は六本。

いけ!


焦らず、強く、堅実に。


一本目!ムカデが体勢を崩す。


前の二本!


ムカデが包まって身を守ろうとする。

遅いんじゃ!


もう二本と閉じた顎牙!


ラスト一本を引きちぎる。


これでこいつは締め付け以外無防備だ。

あとは惨いが死ぬまで頭を殴りつける・・・・・・


 ――――――――

魔ムカデを撃破しました。

経験値を獲得しました。

経験値が規定量に達しました。レベルアップします。

レベルが3 → 4に上昇しました。

 ――――――――――




ムカデを食べると顎牙が生えた。

まともな攻撃手段が手に入ったな。

掬い上げるとかかみちぎるとか。

速度の膂力と咬合力が合わされば大きな相手でも傷を与えられそうだ。


それにしても疲れた。

かなり有利な戦いだったもののこのざまだ。

調子に乗らずに挑戦を重ねていこう。


その時、≪生存本能≫が最大級の警報を鳴らしてきた。

とっさに岩陰に姿を隠す。


なんだ?


「……この辺にでかい魔ムカデがいたはずだ。」

「いないようだが。」

「おかしいな、どこに行った?」


あれは……


ーーーーーーーーーー

アルド(人間)


レベル8

ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー

ロッド(人間)


レベル8

ーーーーーーーーーー


人間。しゃべっている。そういえば俺ってしゃべれるのだろうか。

後で試してみよう。


ともかく、どちらもレベル8。体格も4〜5倍。装備もしている。今戦って勝てる相手なわけない。

でも、


「いや、よく見ろ。魔物の体液やらがあたりに広がっている。」

「……ムカデを倒した奴がいるってことか。」

「ああ。それに、まだそんなに時間もたっていない。近くにいるぞ。」


やばい。話題は俺だ。今は逃げるしかない。

逃げやすいようにできるだけ体を速度特化に。

ゴキブリのように。小さく、静かに。それでいて滑らかに。


「かなりの死闘だったようだな。あちこちに散乱している。しかも一対一だ。」

「どうする?そいつを探すか?一対一で死闘ってことは強くなる意思があるってことだ。ムカデなんて食料にならないやつを狩るなんてことも。早めに倒したほうがいいのかもしれないぞ。」

「いや、依頼は魔ムカデだ。ただ働きはしたくない。帰るぞ。だが、説明はしよう。」

「わかった。」


帰っていった。

ふう。危ない。

あのままぼーっとしていたら。≪生存本能≫がなかったら。

恐ろしい。


ただ結果としては大満足だ。ムカデも倒して、レベルも上がって。

人間という脅威も知って。

もう初めの子ゴブリンも倒せるだろう。

しばらくの目標はこのまま戦いを続けて、人間に恐れないで済むようになることだ。


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