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殿下ぁ~! 助けて~!!

「ガブリエル様。ご安心なさってください。わたくしとデインの第一子はリーズ籍のリーズ人として育てます。ロスウェル公爵家は、引き続き王家のスペアを担えますわ」


「え?」



 ごきげんよう。

 ガブリエルです。


 わたくしは現在、ピーターバラ王女ジャニス姫と対峙しています。

 当代一の美女との噂にたがわず気品に溢れたお美しい方ですわ。

 嬉しそうな笑みが輝いていて、見とれてしまいそうよ。


 聖女の攻略対象の一人、公爵家嫡男のデイン様の政略結婚のお相手で、もうすぐ正式に婚約を結ばれるとのことで、リーズ宮殿の迎賓館に滞在なさっているのです。


 ええ。わたくしが殿下と婚約する前に使っていた迎賓館ですわ。


「単刀直入な物言いは、魔族のスタイルではないから上手くいくかわかりませんが、敢えてはっきり申し上げますわね? リーズ王家のためにスペアを確保する代わりに、ピーターバラの正常化に協力していただきたいのです」


「それでは、わたくしも直言させていただきますが、わたくしは、ピーターバラにはお嫁に行きませんわ」


 ピーターバラが望んでいるのは魔王の娘の降嫁なのですよね?

 わたくしは、絶対に、イヤです!


「まぁ! ごめんなさい! ガブリエル様をピーターバラに連れて行こうなんて考えていませんわ。わたくしたちがリーズ国にスペアを残すのは、ガブリエル様とクレメント様がダジマットで王位を継ぐことになっても良いようにするためですわ」


 ジャニス姫は、思わずと言った風にちょっと吹き出して、扇を開いて優雅に取り繕われました。


 何なのこの方!

 何故、その話を既に知っているの?


 先日、わたくしの両親、つまりダジマット王と王妃、別の言い方をすれば、魔王とその妃がリーズ国を訪れ、ダジマットは当代で断絶する可能性をお伝えいただきました。

 そして、わたくしがリーズ国に嫁す場合、魔王に掛かった紫色の瞳の呪いがリーズ王家に引き継がれる可能性も併せてお伝えいただいたのです。


 リーズ王と王妃は、その場で速やかに、「断絶するならばリーズ家だ。ガブリエル姫が望むならクレメントはダジマットに婿に出す」と言ってくださったのですが……


 わたくしの両親が、「即断はよくない。どうか家臣団ともじっくり話し合ってわたくしの処遇を決めて欲しい」と、結論を保留して帰国したのです。


 あれから3カ月、わたくしは、まだリーズ国内での検討の結果を聞いていません。

 これからも殿下のお傍に侍ることができるのか、ずっと不安を抱えて暮らしております。


 それなのに何故?

 何故、この目の前の美女は、その話し合いの結果を知っていないと出てこないような発言をなさるの?


 わたくし、猛烈な疎外感を感じて、涙が出そうよ。


 ダメダメ。

 わたくしは、ダジマットの姫。

 腹芸のダジマットの第一王女よ。

 この程度の揺さぶりに負けてはいられませんわ!



「まぁ。それはありがとうございます。でも、断絶のリスクを負ってでも兄の婚姻を進めると決めたのは当家です。但し、そのことでリーズ家にご迷惑が掛からないようにとリーズ両陛下にわたくしの処遇をゆだねたのであって、他家を犠牲にした当家の存続は当家の望むことではありませんわ」


 毅然として、なおかつダジマット姫の渾身の笑顔で優雅に反撃できたかしら?


「まぁ! そうなのですか? それは大変失礼いたしました。わたくしは元々、ピーターバラ家の正当な血筋を残すためにリーズ両陛下にデインとの第一子をロスウェル公爵家の養子として保護してほしいと願い出たのです。それをリーズ両陛下が大変お喜び下さって、事情を伺いました。ダジマット家の皆様もお喜び下さるものとばかりに勘違いしておりました。平にお詫び申し上げます」


 美女は真っ青になって、速やかに椅子を降りて、床に両ひざを付けて首を垂れました。

 絶対服従の作法です。


 怖いわ。

 何なの、この素早い切り替え。


 怖すぎるわ。

 助けて、殿下。


「ジャニス様、どうかおやめになって。ピーターバラの正当な血筋とはどういうことか教えて下さる?」


 わたくしは、跪くジャニス様の手を取って、長椅子に誘導し、隣り合って座りました。

 これがわたくしを懐柔させる技なのだとすると、本当に怖いわ。

 わたくし乗せられて寄り添ってしまっているもの。


「はい。現在のピーターバラ家の次代は、第2王子だけが『正妃』の実子ですが、ピーターバラの基準を満たす正当な継承者は第1王子とわたくしなのです。現王妃は、わたくしたちの母を計略を用いて正妃の座につきましたが、継承者を育てる方法を知らないので、第2王子は継承者になりえないのです」


 ん?

 この方、もしかして、真心で話しているのかしら?



「でも3人とも王妃の実子ということになっておりますわよね?」


「はい。王が『この子が第1王子だ』と連れてきた子を実子として育てるかの選択肢が与えられ、受け入れたのです。わたくしの時も同じです。わたくしたちの実母は『教育係』としてわたくしたちを育てたので、わたくしたちは継承の資格を得ました。『正妃』としては、かつてのライバルを『教育係』に墜としたと悦に入ってるようですので、そのまま泳がせておりました」



 まずいわ。

 この方、本当に、真心で話しているっぽいわ。

 では、最初にマウントを取られたと感じたのはわたくしの被害妄想?


「第一王子殿下は、長子継承で王になるのだから、それでよいのでは…… まさか?」


「はい。長兄は、先の大病で高熱が続き、後継ぎを残せるかわからなくなってしまいました。それが『正妃』の策略だったという噂が王宮内に留められなくなってきております。このため、わたくしはピーターバラ宮殿を出て、密かに正当な後継ぎを生み育てることになったのですが……」


「もしかして、デイン様との婚約で計画が狂った?」


「ええ。わたくしにとっては良い方向に。デインが母子共に保護してくれることで、わたくしたちは王族ではなくなったとしても、ここリーズ国でピーターバラ家の秘儀を継承していけるのです。それに……」


 まぁ!

 そういうことだったの?

 この方は王族であることにこだわりはないのね?

 それで、リーズ両陛下も事情をご説明なさったのかしら?


 わたくしったら、早とちりで、きついことを言ってしまったわ。


「それに?」


「ガブリエル様が、状況打開のヒントをくださったのです」


「わたくしが?」


「はい。デインは、リーズの聖女の予言についてガブリエル様から話を伺った際に、『自分らしくない行動をとってみると良い』や『自分の力の及ばないことについては変えるのが難しい』と伺ったのですよね? それで『わたくしたちらしくない行動』を取って、『王妃の力の及ばないところまで逃げる』ことにした結果、全てが符合するように上手く行っていたと思ったのですが、ガブリエル様からお叱りを受けて自分よがりだったことを反省いたしました」


 まぁ。

 この方、本当に、不安になるほど、素直な方ね?

 困ったわ。

 ほだされそうよ?


「では、最初の『単刀直入に話をする』と言うのも、自分らしくない行動の1つなのかしら?」


「はい。ガブリエル様に信頼いただけるように。最初から正直にぶつかってみたのですが、ガブリエル様は不慣れで戸惑ってしまわれましたわよね? ごめんなさい」


「いいのよ。わたくしは。それに、成功例もたくさんあるのでしょう?」


「ええ! デイン様にご協力いただいて、第一子を懐妊いたしましたの!!」


 え?

 ええええええ?????

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