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殿下はトレジャーハンターの卵に絶句していましたわ

「私が聖女の『攻略対象』ですか?」


「それなんだが、当代聖女は貴族令息との親しい交流を望んでいないんだ。だから君に関する『聖女の予言』を伝えたいだけだ」



 ごきげんよう。

 ガブリエルです。


 本日は、聖女の予言の3人目の令息の闇について、ご本人に共有するために殿下の寮室にお運びいただいています。


「聖女シエルは、令息たちの攻略を行わない? そうですか。残念です」


「残念?」


 聖女が令息たちを誑かすのを見たかったということかしら?


「あ、すみません。聖女が令息たちに貢がせる嗜好品は、聖女が欲しがるまでその存在が知られていないレアアイテムであることが多いというのが、商人たちの間で都市伝説として伝わっていまして……」


 まぁ、そうなの?


「あぁ、商人のタマゴとして当代聖女が欲しがるものを探してみたかった、と言う感じかな?」


 ん?

 殿下にはおっしゃる意味が分かるのですね?


「はい。あの、不謹慎だということは分かっているんです。上位貴族の方々は、国防のために聖女を上手く無力化するのに一生懸命だというのに、商人たちはレアアイテムの宝探しのネタとして面白がっているなんて……」


「いや、いいんだよ。宝探しは楽しいものだ。といっても、私が探したことがあるのはイースターエッグぐらいだけどね?」


「それでも探すのが楽しかったでしょう! 宝探しはロマンです!! 魔族には宝探しのために商人をしている人も多いんですよ。ウチもそういう家系で、パーシャ王の『失われた財宝シリーズ』を探しては、ダジマットの博物館に寄贈しているんです!! 展示物と共に発見者の名前が記されるんですが、それが最大の名誉っていうか、憧れっていうか……」


 マシンガントーク、ですわ。

 熱量が伝わってきました。


「パーシャ王? わたくしのご先祖様の? 宝探しにハマって、探し物リストを出版しちゃった?」


「はいっ! パーシャ博物館では『失われた財宝シリーズ』の展示スペースが設けられているんですが、見つかっていない財宝の展示場所には何も展示されていないんです。そこに私が探し出した宝物を展示してもらうことを夢見ています!」


「展示物が置かれていない? そんな博物館があるのか?」


 わかるわ。

 展示物が名前だけ表示されて、現物がない博物館なんて、非常識よね?


「ええ。そうなの。わたくしも行ったことがあるけれど、確か半分も埋まっていないハズよ? 建物だけやたら豪華で……」


「あ~。それは、あれです。何も探せなかったトレジャーハンターがお金だけ寄贈するので、運営がサルベージプロジェクトに分配したり、秘境にトレジャーハンターの宿泊施設を作ったり、新米トレジャーハンターにスターターキットを配布したりするんですけど、それでも余ったお金は定期的に博物館の改装費に使われるんです」


「……」


 殿下、固まっちゃいましたわ。

 まぁ、初めて聞くと驚いちゃいますよね?


 ダジマット王は趣味に生きる人が多いので、こんな風に関連するコミュニティーが大きく育っちゃったりすることがありますのよ。


「聖女が欲しがる宝物は、新規の『聖女の財宝』として展示スペースが新設されるんです。といっても最近の聖女は宝物を欲しがらないからあまり展示スペースが増えませんが……」


「だから、残念がっていらしたのね? でも、それなら聖女シエルに事情を説明してそれっぽい宝物を提案していただいてはいかが?」


「ああ! それ、いいですね!! でも聖女シエルとは面識がないしな~」


「学園にいらっしゃるのでしょう? お友達になれないの??」


「いや、どうでしょう? 聖女シエルは、人嫌いっぽい雰囲気を出しているからな~」


 わたくしは思わず殿下を見つめます。

 わたくしたちに何かできませんかしら?


「こほん。その件については、後日ゆっくり考えよう。それで本題なんだが……」


 そうでしたわ。

 ご先祖様の世代を超えた趣味仲間のお話につい引き込まれてしまいましたわ。


 まだお名前すら紹介できておりませんでしたわね。

 わたくしったら。ダメね?


 この未来のトレジャーハンターは、商会を営む子爵家のご嫡男フィリップ様です。

 聖女の予言では、商流を広げるために留学を希望しているが、両親に認められずに王立学園に通うことになりどんよりしているところを聖女との対話の中でリーズ国内の魅力を再発見するというお話でしたの。



「え~。聖女シエルが嫁候補? ありえないな~」


 ??


「ありえないのか?」


「ありえないです。私の父は嫁選びに失敗して、稼ぎの20%までしか宝探しに注ぎ込めません。母はケチなんです。私は50%ぐらいは注ぎ込ませてくれる人がいいんです」


「聖女シエルは、宝探しに理解がないと?」


「いえ。それ以前の問題で、宝探しにはお金がいるんです。そのための商会です。そして嫁候補は商会を切り盛りする商才と社交性が必須です!」


「人嫌いっぽい雰囲気を出しているから、だめだということですか? わたくしが話した時は普通の方でしたわよ?」


「友人としては普通でいいかもしれませんが、商会の女主人には全然足りません」


「しかし、君の理想の女性は存在するのか? それこそ宝探しより難しいんじゃないのか?」


 殿下、そんなズバッと言わなくても……

 わたくしたちは聖女をおすすめしているわけではないのだから。


「商才があって、社交性があって、宝探しに理解があるどころか、一緒に探してくれる女性が存在します!」


 まぁ!

 既に意中の方がいらっしゃるのね?


「いるのか!?」


 殿下ったら、驚きすぎよ?

 涼し気王子様が崩れていますわよ?


「はい。今、宝探しでペアを組んでいる女性が、旅中に見つけた面白いアイテムを製品化したりして、それはもう理想的なんですが……」


「ほう! リーズ国内の令嬢か?」


「ええ。でも、次期近衛隊長の妹なので、政略とかあって嫁にもらうのはムリなんです。ウチは12名家の派閥ではありませんし、外様貴族ですからね。それこそ不貞腐れて、留学どころか商会をどこか別の国に移したくなっていますよ」


 あらあら。

 名門中の名門の令嬢なのね?

 身分違いに、派閥違いに、業種違いの三重苦。

 これは重いわね?


「次期近衛隊長の妹!? へぇ~。彼女、宝探しとかするんだ? 確かに社交的で商会の女主人どころか、社交界の女主人とかできそうだ」


 殿下にはどなたのことかわかったようですが、わたくしは外国人なので、さっぱりですわ。

 

 それにしても、フィリップ様は、流石は商家のお方ね。

 わたくしのご先祖様の話で好感触を得たら、意中の方と取り持ってもらえるように話を進めて……


 別の国への移籍をちらつかせながらこちらの出方をうかがってらっしゃるのね?


 抜け目がないって、こういうことかしら?


 まぁ、これは、乗ってみましょう?


「あら! そんな方がいらっしゃるの? 殿下、わたくしにその令嬢を紹介してくださらない? ご本人からもお話を伺ってみたいわ」


 わたくしが何かするとはお約束できませんけれども、初動としてはこれで十分でしょう?


「ええ! 是非、話をしてみてください。明るくて楽しい女性ですよ! ガブリエル姫様は学園にも通っていらっしゃらないし、リーズでの話し相手が増えるかもしれません」


 ふふふ。

 上手いわね?


 フィリップ様をお見送りした後、殿下はしばらくわたくしを膝の上で抱きかかえてゴニョゴニョとぼやいておられましたわ。


 予想外の角度から現れた重い展開に、お疲れになったようよ?


 前回、リチャード様の提案でわたくしを膝の上に乗せてからかって以降、そのポジションで休憩するのが気に入ってしまったようですの。

 なんだか落ち着くのですって。


 わたくしは、殿下に抱きしめられると幸せな気持ちがムクムク沸いてきますのよ。


 リチャード様に感謝ですわね?

 殿下を精神的に疲れさせたフィリップ様にも感謝すべきですかしら?

 

 ふふふ。



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