変態米連海軍事情―北太平洋の惨劇編―
「これはどういうことかね!?」
ホワイトハウスの書記長執務室。
アメリカ連邦書記長レフ・トロツキーは怒り心頭でデスクに新聞を放り出した。
「「「……」」」
沈黙する閣僚たち。
怒れる最高権力者に恐れをなしていたのはもちろんのことであるが、別の理由も存在していた。
『結局何が言いたいのかね?』
『それは君の感想に過ぎん。そこまで言うなら証拠を出したまえ!』
この状態のトロツキーに下手に諫言しようものなら、それに倍する勢いで反論される。
単なる罵詈雑言で無くて反論しづらいので、じつに質が悪い。
何を言っても無駄であることを知っていたからこそ、無言で耐えるしか無かったのである。
『ジャパンの輸送船 潜水艦との決闘を制する』
『前代未聞 戦車で魚雷を迎撃!?』
『稀代の幸運船 魚雷がことごとく不発』
デスクに置かれたカナダの主要紙の大半が同じ内容を一面に載せていた。
その内容は先日バンクーバーに入港した『さんふらわぁ丸』を讃えるものであった。
『帝国は日英同盟に基づき、カナダへの派兵を決定いたしました』
1940年4月下旬。
日本はカナダへの帝国陸軍2個師団の派遣を宣言していた。
『日本がカナダへ派兵した場合は宣戦布告となす!』
アメリカ連邦側もこれに対抗。
これまで平穏だった太平洋の緊張度が一気に高まることになったのは言うまでも無い。
さんふらわぁ丸はカナダへ陸軍を輸送する船団の一隻であったが、どちらかというと数合わせ的な意味合いが強かった。満州事変に従軍した歴戦の船ではあったが、この時点で船齢30年を超えた老朽船だったからである。
『まさか、エンジン故障とはなぁ』
『前の満州事変に使用したから、もう船齢20年越えだろう?』
『無駄に複雑なドイツ製エンジンをライセンスするからだろ。うちのエンジンを使えばこんなことにはならんかったんだ!』
もっとも、老朽船だったことが一面記事の一因になったことは否定出来ない。
エンジントラブルで船団からはぐれた結果、米連の潜水艦と不幸にもエンカウントしてしまったのであるから。
「……同志トロツキー。報告よろしいですかな?」
「あぁ、すまんな。取り乱してしまった」
頃合いと見たのだろう。
軍事最高責任者であるミハイル・ニコラエヴィチ・トハチェフスキー革命軍元帥が口をはさむ。長年の付き合いだけあって、ここらへんはツーカーの仲であった。
「今回の事態ですが、我が方の魚雷に問題があったと結論付けられました」
徴用された民間船VSポーパス級潜水艦。
目視距離での一騎打ちという現実では有り得ない対決は、これまた有り得ない結果となってしまった。
圧倒的有利な状況で魚雷を撃ち尽くして撃沈出来なかったと知ったら、誰でも呆れるか激怒するであろう。トロツキーは後者であった。
「どういうことかね? 魚雷など故障しようがないだろう?」
トロツキーは魚雷の構造を知悉していた。
内戦後は海軍を含む武装組織の再建・規律維持に関わっており、海軍の兵器に関する知識も豊富に持っていた。とはいえ、彼の知識はシュワルツコフ魚雷で止まっていたが。
シュワルツコフ魚雷はロシア帝国海軍時代に採用された初期の魚雷である。
当時の水準では比較的信頼性の高い兵器であり、適切に扱えば故障することはまず有り得ない。
「正確には魚雷本体ではなく信管の問題です。聞き取り調査をしたところ、信頼性は3割以下との結果が出ました」
「欠陥兵器じゃないか!?」
魚雷に採用されているMk6信管こそが諸悪の根源であった。
Mk6信管は触発信管と磁気信管を併用する当時最新の信管だったのであるが、磁気信管の信頼性が史実以上にどうしようもなかった。
史実では戦前から磁気信管の改良が実施されていたが、この世界では予算不足でそれすら不可能。その結果、深度調定機構の不具合による過深航走や磁気信管の早期爆発が多発していた。
『うひゃあ、これはまた派手にぶっ刺さったなぁ』
『命中した魚雷全部が不発とは。こいつは間違いなく幸運船だな』
『おかげで取材が殺到して、忙しいことこの上ないがな……』
挙句の果てに、さんふらわぁ丸に命中した魚雷は全て不発であった。
ポーパス級の艦長が切れ散らかしたのは当然のことと言えよう。
「潜水艦の艦長からは、これを機会に磁気信管だけでも外してくれと嘆願が殺到しています」
「これでは戦争以前の問題だぞ!? 最優先で実施したまえ!」
トロツキーが磁気信管の無力化を命じたのは言うまでも無い。
社会主義国家ならではの強力なトップダウンとチート工業力によって、5月上旬には全ての潜水艦魚雷の磁気信管が無力化されることになる。
「しかし、初戦でこれとは先が思いやられるな」
険しい表情のまま、トロツキーは懐から禁煙パイポを取り出す。
口いっぱい吸い込むと、鼻からミント臭い息を盛大に吐き出した。
「ご安心ください同志トロツキー。西海岸に空母部隊がおります」
すぐさま解決策を提示するトハチェフスキー。
ここらへんは、さすがの有能さと言える。
「空母部隊か……使えるのか?」
トロツキーにとって、空母とは未知なる存在でしかない。
ロシア帝国海軍はもちろんのこと、黎明期のソ連海軍にも空母は存在しなかったのであるから。
「現在錬成中ではありますが、非武装の商船相手なら問題無いでしょう」
「ふむ、実弾演習と思えば悪くないか。実績作りにもなるしな」
しかし、トハチェフスキーには別の思惑もあった。
彼は海軍内部の派閥争いに気を揉んでいたのである。
米連の戦艦部隊は赤色艦隊として世界一周航海を達成していた。
最近はグリーンランドにある英国紳士の根城を石器時代に戻すという輝かしい実績もある。
これに対して、空母部隊には何の実績も無い。
このままでは派閥争いどころか、派閥抗争になりかねない。
平時ならともかく、戦時にそんなことが起きるはずが無い――なんて考えは甘い。羊羹にハチミツをかけるくらいに甘い考えと断言出来る。
史実の帝国陸海軍は仲たがいしながら戦争していた。
アメリカも陸海軍の仲は悪かった。
(とにかく実績を積ませれば少しは落ち着くだろう)
海軍上層部に送り込んだ子飼いの部下からは、連日のように内部の惨状が報告されてくる。そんなときにカモネギでやって来たのが日本の船団であった。
「海軍で採用されたF5Fは、戦闘だけでなく爆撃も雷撃も出来る万能機と聞いております。同志トロツキーの期待に応えてくれることでしょう」
「よし、直ちに出撃させろ。奴らを太平洋の藻屑と化してやるのだ!」
航空機で戦艦を沈めることが出来ることを先の世界大戦でロイヤルネイビーが証明していた。
ならば、非武装の民間船を沈められないはずがない。
この場に居る誰もが作戦の成功を疑ってはいなかったのである。
「……ジャップの船団は未だに発見出来んのか?」
「はっ、未だに目撃情報は入っておりません」
空母『ヨークタウン』の艦橋。
艦長と副官は、この日何度目かのやり取りを繰り返していた。
出撃命令を受けたヨークタウンが、西海岸のサンディエゴ海軍基地から出撃したのは3日前のことであった。日本の船団を空母艦載機で撃滅することが目的なのは言うまでも無い。
「君はどう思うかね?」
艦長は空母航空隊を統括する空母航空団司令にも意見を求める。
元戦艦乗りだった自分よりも、適切な判断が出来るだろうと考えてのことであった。
「自分は出撃するべきだと思います。3個偵察飛行隊を扇状に飛ばせば確実に捉えられます」
偵察飛行隊(Scouting Squadrons)は敵艦隊の捜索だけでなく、攻撃任務も担う。史実WW2期の米海軍特有の部隊と言える。
水平線の向こうにいる敵に攻撃する場合、通常は索敵して敵の位置を把握してから攻撃するというプロセスが必要となる。その場合、遠くまで進出出来る航続距離の長い機体が望ましい。
史実の日本海軍は艦上偵察機の開発に熱心であり、『我ニ追イツクグラマン無シ』の彩雲に結実した。しかし、米海軍は偵察専門の機体を保有していなかった。では、どうやって索敵をするのか?
その答えが攻撃機に索敵をやらせてしまう偵察飛行隊である。
目標を発見したらそのまま攻撃に移行してしまえば良い。ある意味、非常に合理的と言える。
「よし、攻撃しよう。ただちに取り掛かってくれ」
「アイアイサー!」
CAGがブリッジを飛び出していく。
5分も経たずに飛行甲板が騒々しくなった。
「エンジンスタート! エンジンスタートっ!」
「邪魔な魚雷と爆弾の片付けを急げっ!」
「主翼がきちんと展開されているか再チェックだっ!」
「ストッパー外せ! 動かすぞぉ!」
耳をつんざくようなエンジン音、クルーたちの怒声。
ヨークタウンの甲板は戦場のような様相を呈していた。
「ふむ、訓練通りやれているようだな?」
「いつもより早いです。皆、張り切っておりますな」
甲板作業の様子をブリッジから見守る艦長と副官。
後方腕組みおじさんと化している二人であったが、彼らも初陣ということで密かに興奮していた。
「しかし、なんというか。見慣れたものかと思ったが、デカイ機体だな」
「こんなのを空母から飛ばすのはステイツくらいでしょうね」
甲板作業を見て呆れるやら感心するやら、あるいはその両方か。
二人の眼前で双発機――グラマン F5Fが発艦位置へ誘導されていく。
グラマンF5Fは、史実ではXF5Fとして試作のみに終わった。
しかし、この世界ではあろうことか主力艦戦として量産配備されていた。
艦上戦闘機と艦上攻撃機と艦上爆撃機を兼ねていることがF5Fの最大の特徴と言える。史実21世紀風に言えば、マルチロールファイターと言ったところであろう。
この時代の艦載機は艦隊防空は艦戦、雷撃は艦攻、爆撃は艦爆と分業するのが常識であった。にもかかわらず、米連海軍がこのような戦闘機を採用したのには当然ながら理由が存在していた。
『しかし、空母に載せる機体はあるのかね?』
『現在国内のメーカーに命じて開発中です。Xデーまでには間に合うでしょう』
1931年に日本を訪問したチャールズ・オーガスタス・リンドバーグによって日本の機体の情報がもたらされた結果、当時のデイビス政権はより高性能な艦載機を求めた。
その真の目的は対日本ではなく、これから敵対する裏社会の住民たちに対抗するためであった。彼らが密かに私設空軍の保有を進めているという情報が舞い込んできたからである。
当時の裏社会は、ヒューズ・エアクラフト社を筆頭に国内の航空機メーカーに大量に資金投下していた。このような状況であったために、空軍の保有を進めているという噂はそれなり以上に信ぴょう性があった。実際はエアレースに入れあげていただけだったのであるが。
裏社会が主催していたエアレースは単に娯楽というわけでなく、揉め事調停の意味合いもあった。当然負けるわけにはいかないので、当事者のギャングやマフィアたちは金に糸目を付けずに機体を開発することになった。
現場で開発する技術者たちも必死であった。
負けて責任を取らされることになったら、たまったものではない。
金に糸目を付けず、命までかかっていたら否が応でも技術は延びる。
そういう意味では米国の航空技術は裏社会が育てたと言える。関係者は絶対に認めないであろうが……。
一方その頃、海軍の新型機計画に名乗りを上げたグラマン社では野心的な機体が計画されていた。『機種統合機』と銘打たれたその機体は、全ての任務をこなせる万能機として開発が進められていたのである。
結局のところ、統合大好きコスパ至上主義のヤンキーの悪癖がF5Fが採用された理由と言える。史実のF-111の失敗や未だに火種が燻り続けるF-35など、メイドインUSAの兵器で無茶な統合&仕様変更による炎上は枚挙にいとまがない。
海軍上層部は艦戦、艦攻、艦爆と3機種開発するよりも1機種で全てこなせる機体を開発すればコストを抑えること出来ると思い込んでしまった。そこにお出しされたのがグラマン社が提出したF5Fだったというわけである。
ヨークタウン級空母10隻分の艦載機に加えて、海兵隊が運用する機体も含めると必要な機体数は軽く1000機を超えてしまう。これらを同一機種で統一してしまえるメリットは大きかった。
同一機種で統合出来れば、訓練も統合出来る。
蜂起まで時間が無かったデイビス政権にとっては大変に魅力的であった。
求められた機能を全部乗せしたF5Fのユニットコストが高騰したのは言うまでも無い。それも大量生産で単価を下げられる見通しがついていた。
単能機を3機種開発すれば単純に生産機数が1/3になってしまうし、少量生産では開発費の回収が難しい。万能機を3倍生産すれば開発費はすぐに回収出来てお釣りもくる。メーカーからしても美味しいのである。肝心の性能を度外視すれば、という前提は付くが……。
「艦長、出撃準備完了です。いつでもいけます!」
CAGが出撃準備が完了したことを艦長に報告する。
やはりというべきか、彼も初陣のせいで興奮気味であった。
「よし、針路を風上に向けろ! 両舷全速前進!」
「アイアイサー!」
発艦に必要な合成風力を作り出すために、ヨークタウンが加速し始める。
12万馬力の機関が唸り、長大な船体が波をぶち破って突進する。
『テイクオフ! テイクオフ!』
艦外スピーカーからCAGの命令が響き渡る。
同時に甲板上のF5Fのエンジン音がさらに大きくなる。
「よし、出るぞ! メカニックは退避しろっ!」
一番前に駐機していたF5Fが滑走を開始する。
爆装しているせいか、出足は鈍いがそれでも徐々に加速していく。
「次出すぞ! 急げぇっ!」
「ストッパー外すぞ!」
「よーし、GO! GO! GO!」
1番機が離陸を終わる前に、既に次の機体が発艦態勢に入っていた。
3個偵察飛行隊を出撃させるとなったら、これくらいのペースでやらないと間に合わない。
『さっさと上がってこい! 燃料がもったいないだろ』
『急がないと置いていくぞ?』
『あと5分だけ待ってやる』
何故ならば、出撃する偵察飛行隊全ての機体が発艦するまで上空で待機する必要があるからである。集結が完了するまでは無駄に燃料を消費し続けることになる。可能な限り発艦の間隔を短くする必要があった。
「機体が落ちたぞー!?」
「発艦は止めるな! 救助は随伴している駆逐艦に任せるんだ!」
当然ながら、そのような無茶をすれば事故も発生してしまう。
しかし、1機でも多く上げなければいけない状況では止む得ないことであった。
「第1スコードロンから入電。日本軍の巨大飛行艇を発見したとのことです!」
飛行隊が出撃してから1時間弱。
ヨークタウンに、待ちに待った報告が届くことになった。
「ヤツが飛んできた方向に船団がいます。直ちに攻撃を!」
巨大飛行艇発見の報を聞いて真っ先に反応したのがCAGであった。
彼は興奮気味に艦長に攻撃を具申する。
「その自信は何処からくるんだ? 確かに可能性は高いが……」
対する艦長は慎重であった。
欺瞞の可能性を疑っていたのである。
「ポーパスの艦長の報告をお忘れですか? あのデカブツは潜水艦狩りをしている可能性があります」
「船団から進出して、つゆ払いをしているということか……!」
ポーパス級潜水艦のネームシップである『ポーパス』が執拗な爆雷攻撃を受けてから1週間も経っていない。提出された戦闘詳報には、大型機による爆雷攻撃の可能性が示唆されていた。
「よし、他の飛行隊にも知らせてやれ」
「ジャップの飛行艇はどうしますか?」
「友軍のサブマリンを攻撃している可能性があるから放置出来ん。撃墜しろと伝えてやれ」
「アイアイサー!」
ヨークタウンのブリッジに居る誰もが、この時点で勝利を確信していた。
相手は非武装の商船団のみと心底信じ切っていたのである。
(なんだこの化け物は!?)
声にならない心の叫び。
第1スコードロン所属のF5Fパイロットに共通する思いであった。
ヨークタウンから船団の存在を知らされた第1スコードロンは戦力を二つに分けた。半分を船団攻撃、残りを飛行艇撃墜に振り向けたのである。
半分といってもF5Fが12機。
飛行艇を落とすには充分過ぎる戦力のはずであったが……。
『おい馬鹿、爆弾を捨てろ!?』
『へっ、あんな鈍重なヤツに当たるわけぐわぁっ!?』
『言わんこっちゃない……』
最初に血祭りにあげられたのは、爆装したまま舐めプした機体であった。
よりにもよって、胴体下部に装備していた爆弾に直撃を喰らって盛大に爆散してしまったのである。
『ヤツは普通じゃない。舐めてかかったらさっきのバカの後を追うことになるぞ?』
分隊長の無線を聞いた僚機は、慌てて爆弾を投棄する。
しかし、彼らの悪夢はまだ始まったばかりであった。
『このやろうっ!? 喰らえ喰らえ喰らえぇぇっ!』
F5Fの1機が直上から巨大飛行艇――九四式飛行艇に攻撃を仕掛ける。
機首に装備された12.7mm機関銃4丁の攻撃は、狙いたがわずに命中する。
『今度こそやったか!?』
一撃離脱したF5Fのパイロットは、九四式が火を噴いたのを見て快哉を叫ぶ。
『くそっ!? また火が消えちまった!? どうなってんだ!?』
しかし、その表情はすぐさま絶望に染まる。
このパイロットは既に3回も同じことを繰り返していた。
九四式は自動消火装置を装備しており、被弾して発火してもすぐさま消火される。燃料タンク自体もゴムで被膜されており、穴が開いても塞がってしまう。
『一発で胴体がちぎれやがったぞ!?』
『あの威力は20mmキャノンだ!?』
『ちくしょう!? 近づけねぇ!?』
九四式の攻撃力が凄まじいこともF5F隊が手こずる原因となっていた。
いくらグラマン鉄工所製であっても、機体の各所に装備された20mm機関砲を喰らおうものなら簡単に墜とされる。
『全然効かねぇ!? 本当に飛行艇なのか!?』
『装甲積んでる飛行艇とか反則だろうが!?』
『あぁ、また一機落とされた……!?』
20mmにビビり散らしたF5Fのパイロットたちは遠巻きに九四式を攻撃するも、遠距離から放たれた12.7mmは装甲で無力化されてしまう。史実における米軍側の非公式名称『フライング・ポーキュパイン』(空飛ぶヤマアラシ)は伊達では無い。
『……そうか!? おい、下面を狙え!』
ここで一人のパイロットが、飛行艇の致命的弱点に思い至る。
飛行艇の下面に対空火器は配備出来ない。構造的な死角なのである。
『嫌がっているな! いいぞ、その調子だっ!』
これまで悠々と飛んでいた九四式が、明らかに異なる動きを見せる。
F5Fのパイロットたちには、その動きが嫌がっているように見えた。
『んなっ!?』
『ふざけんな!? 反則だろうが!?』
『どうすりゃ良いってんだよ!?』
航空無線が罵声に満たされる。
九四式が見せた機動は反則以外の何物でも無かった。
『くそっ!? 遅すぎて狙えねぇ!?』
『波しぶきで照準が……!?』
弱点の底面を狙われた九四式は、海面すれすれを飛行し始めた。
その高度は海面から5mも無いだろう。
いくら飛行艇とはいえ、これほどの低高度を飛び続けることは有り得ない。
九四式のパイロットは間違いなく凄腕であった。
『海面に突っ込んだぞ!?』
『くそっ、高度を見誤ったな!?』
九四式の超低空飛行によって、F5F隊は一撃離脱戦法を封じられることになった。下手に上空からダイブすれば、待っているのは母なる海の抱擁でしかない。
『あぁ、またやられたっ!?』
かと言って、海面ギリギリで機体を引き起こせば恰好の餌食となってしまう。
一撃離脱だから撃墜され難いのであって、中途半端な緩降下など狙い撃ちにされるのがオチである。
『分隊長、こいつはもう俺らの手に負えません。撤退しましょう』
『その場合は、たかが飛行艇1機撃墜出来ませんでしたと報告することになるだろうがな』
『そ、それは……』
この時点でF5F隊は半数が撃墜されていた。
憎い敵機は未だに彼らの下方を超低空で飛行中であった。
『こうなったら、コクピットかエンジンを狙うしかないだろう』
『あの対空火力を抜いてですか!?』
『ダイブアンドズームを封じられた状態じゃ自殺行為ですよ!?』
僚機からは次々と否定的な意見が寄せられる。
分隊長とて、そんなことは分かり切っていたが他に手段が思い浮かばない。考える時間も残されていなかった。
『……おまえら、燃料はどれだけ残っている?』
『『『あっ!?』』』
指摘されてようやく気付く燃料の重要性。
短時間の戦闘だったにも関わらず、燃料計の針は半分を切ろうとしていた。
レシプロ戦闘機は巡航と戦闘出力では燃料消費に雲泥の差がある。
状況にもよるが、戦闘機動を取ると巡航時の3~4倍の燃料を短時間に消費してしまう。
『各機散開してデカブツを叩け! 攻撃を終えたらそのまま帰投しろ!』
分隊長の命令を受けたF5F隊は散開する。
残された6機は、各機思い思いの方向と高度から攻撃を開始したのであるが……。
(残されたのは俺だけか……)
コクピット内で歯噛みする分隊長。
とはいえ、一撃離脱戦法を封じられた時点で覚悟は決めていた。
単発戦闘機を日本刀に例えるならば、双発戦闘機は長柄の槍であろう。
相手の届かない距離から一方的に殴って逃げる。まさに一撃離脱と言える。
双発戦闘機の生きる道は一撃離脱戦法以外に存在しない。
それが封じられた時点で詰みだったのである。
「こうなったら、チキンゲームだぜ!」
分隊長がコクピットで吠える。
風防からは白波を立てる海面が見えていた。
「喰らえっ!」
九四式のコクピットへ向けて全ての武装を叩きこむ。
その瞬間、分隊長には血の花が咲いたように見えた。
「あっ……がっ……」
実際に咲いたのは、風防に飛び散った己が血であったが。
九四式の機首の20mm銃座から放たれた銃弾はF5Fのコクピットを粉砕していた。
海面に叩きつけられたF5Fは、あっという間に水没した。
そのことを自覚することが無かった分隊長は幸せだったのかもしれない。
奮戦空しく、第1スコードロンの半数は失われてしまった。
しかし、この時点でヨークタウンの面々は悲劇を知る由は無かったのである。
「!? 音源近づきます!」
押し殺した声のソナーマンの報告。
ポーパス級潜水艦『プランジャー』の艦内に緊張が走る。
「着水音検知!」
ソナーマンの優れた聴覚は海面に生じたかすかな音を捉えていた。
ゴボゴボと、水中に泡を生じながら接近してくるイメージが脳内で再生されてしまう。
「まだ動くな。今動いたら敵の思うつぼだぞ」
プランジャーの艦長は冷静だった。
下手に動いて音を立てることで、敵方のソナーに引っかかることを危惧していたのである。
「ダメージレポート!」
衝撃音と共に艦が激しく揺れるが、艦長は落ち着いていた。
沈まなければ安いもの。潜水艦が沈むときは一瞬なのであるから。
「エンジンルームに浸水中!」
「急いで浸水を止めろ!」
浸水を必死に塞ごうとするクルーたち。
投下された爆雷は艦尾付近の至近弾となり、エンジンルームに浸水を生じさせていた。
「モーターは大丈夫なのか?」
「バッテリーは無事です」
「よし、バッテリー出力50%! 海中騒音に紛れて脱出する!」
どのような敵に攻撃されているのか、艦長には見当がつかなかった。
しかし、このまま座視すれば沈められてしまうことを直感していた。
「うわっ!?」
「くそったれ!? ジャップには海中が見えているとでも言うのか!?」
海中を進むプランジャーの周囲に立て続けに爆雷が投下されて、艦体を激しく揺さぶる。非常ベルが鳴り響き、艦内の照明が非常用に切り替わる。
「先ほどの衝撃でバッテリーが破損しました。有毒ガス発生中!」
「応急修理が終わるまでモーター動かせません!」
「メインタンクブロー! 緊急浮上だっ!」
潜航中の潜水艦のバッテリーとモーターの損傷は致命的であった。
艦長が降伏覚悟で緊急浮上を命じたのは、やむを得ないことであろう。
「……運が良かった。もう少し粘られていたら沈められていた」
「まったくです。こちらとしてはラッキーですが、あちらさんとしてはアンラッキーでしたな」
浮上したプランジャーの露天艦橋。
艦長と副長は新鮮な空気を味わっていた。
「艦長。ハワイから電文です」
通信長がやってきて通信文を手渡した。
それを見た艦長の顔色が露骨に変化する。
「艦長、どうされました?」
「作戦行動中の潜水艦が相次いで消息不明だそうだ。ハワイの司令部が心配になって安否確認してきた」
トロツキーの強権と米連のチート工業力によって、潜水艦部隊の魚雷の不具合は既に解消されていた。潜水艦部隊が日本の船団に積極的に攻撃を仕掛けたのは、クソ魚雷でストレスをため込んでいた鬱憤を晴らしでもあった。
相手は非武装の民間商船なので得点稼ぎにはもってこいだったという理由もある。唯一恐れることは駆逐艦が随伴している可能性であるが、迂闊に接近しなければどうにでもなる。
実際の結果は無情なものであった。
日本の船団は何故か無傷、攻撃を仕掛けた味方潜水艦はことごとく消息を絶っていたのである。
あの世への転属を余儀なくされた味方潜水艦の共通点。
それは対潜攻撃の常識が先の世界大戦で止まっていることであった。
サメ狩りをするのは駆逐艦だけにあらず。
それを知らなかったからこそ、米連の潜水艦部隊は一方的な敗北を喫することになった。
もっとも、現時点でそのようなことが出来るのはロイヤルネイビーと帝国海軍だけなのであるが。他の列強国海軍も米連海軍と大差ない認識であった。
「それにしても、我々は何に攻撃されたのだろうな?」
「駆逐艦でないのは確かでしょう。ソナーマンに確認しましたが、スクリュー音は検知していないとのことでした」
二人が疑問に思えるのも生きているからこそであろう。
彼らの同僚は、そんなことを考える暇も無く撃沈されたのであるから。
「……おい、なにか音が聞こえないか?」
「確かに聞こえます。なんでしょうね?」
かすかに聞こえてくる音に首をかしげる艦長と副長。
何の音かは分からないが、接近してくることだけは確かであった。
「嫌な予感がする。戻るぞ!」
「アイアイサー!」
二人は発令所へ急ぐ。
それこそ、ラッタルを飛び降りる勢いであった。
「急速潜航だ。急げっ!」
「艦長!? まだ修理は完了していないぞ!?」
発令所では機関長が修理の陣頭指揮を執っているところであった。
艦長の命令に目を剥いたのは言うまでも無い。
「理由は後で説明してやる。ダイブ! ダイブ! ダイブだっ!」
「あ、アイアイサー!」
プランジャーが潜航を開始する。
潜るのがいつもよりも遅く感じるのは、艦体にダメージを受けているからであろう。
「うおっ!? かまわん! 潜航を続けろ!」
「アイアイサー! ダウントリム30! フルダイブ!」
完全に海中に没した瞬間、爆雷の至近弾で艦体が激しく揺さぶられる。
その後も執拗な攻撃は続き、ひたすら海中を逃げ惑うハメになったのであった。
「さて、現状を再確認だ。現在、本艦は極めて危険な状況にある」
「先ほども報告しましたが、ソナーマンはスクリュー音を聞いてはいないとのこと。少なくても艦船ではないでしょう」
「先ほどの正体不明な敵ですな。いったいどうしたものやら」
プランジャーの発令所。
艦長、副長、機関長の艦内トップ3が雁首を揃えていた。
「機関長、修理はどれくらい終わっているんだ?」
「バッテリーの応急処置は終わりましたが、残量は3割程度です。先ほど盛大に放電してしまいましたからな」
渋い顔で報告する機関長。
このままではジリ貧なことを誰よりも理解していた。
「エンジンはどうだ?」
「動かせますが、そんなことをすればヤツに気付かれてしまうのでは?」
機関長からすれば、目の前の上司のアイデアは自殺行為以外の何物でも無かった。しかし、艦長は自分のアイデアにそれなりの自信を持っていた。
「最初の攻撃を思い出せ。あの時は潜航中でほぼ停止状態だった。そこに爆雷で至近弾を出せるだとしたら、音以外の方法で探知している可能性が高いだろう?」
「なるほど。有り得ますな……」
「これは盲点だったな」
艦長の冷静さと豪胆さに感嘆する副長と機関長。
先ほどの攻撃が完全な奇襲だったにも関わらず、目の前の上司は状況をしっかり把握していた。
「とりあえず潜望鏡で確認してみるべきだろう。攻撃が止まっている今がチャンスだ」
「攻撃が止まっている理由が気になるところではありますが、そんなことを言ってる場合ではないですね」
「どっちみち、このままではバッテリー切れだ。分の良い賭けならやってみるべきだ」
切迫した状況で3人の意思統一が出来たことは幸いと言える。
どのようなアクションを起こすにせよ、残された時間は宝石の如く貴重であった。
「……なるほど、こいつが攻撃の正体か」
素早く潜望鏡を周回させた艦長は、謎の攻撃の正体を突き止めた。
レンズ越しに映るのは、奇怪な形をしたオートジャイロであった。
「どういうことだ? まるで見当違いの場所を攻撃しているが……」
しかし、艦長はオートジャイロの動きに困惑することになった。
最初に見せた異常な攻撃精度は何処へやら。全く別の場所に爆雷を投下しまくっていた。
艦長が知る由は無かったのであるが、オートジャイロ――オ号対潜攻撃機に搭載されたKMXは突発的に発生した磁気嵐の影響をモロに受けていた。強力なバックグラウンドノイズの発生で盛大に誤探知してしまったのである。
「おっ!? 喜べ、友軍だぞっ!」
潜望鏡に友軍を捉えて艦長は驚喜する。
分離した第1スコードロンの半分が空域に到着した瞬間であった。
向かってくるF5Fの群れを視認したのか、オ号対潜攻撃機は逃走に移る。
その逃げ足は、従来のヘリやオートジャイロとは一線を画すほどの俊足ぶりであった。
『ジャップのオートジャイロだ!』
『血祭りにあげてやれっ!』
『そんな動きで逃げ切れるわけないだろうが!』
しかし、その俊足ぶりはヘリコプターやオートジャイロでしか通用しない。
エ〇ーウ〇フやブ〇ーサ〇ダーではあるまいし、ヘリで戦闘機に立ち向かえるわけがない。あっけなく撃墜されてしまったのであった。
「艦長、友軍機がいるならば浮上してくれんか? シュノーケルの調子が良くなくてバッテリーの充電が捗らない」
「そうだな。よし、メインタンクブロー! 浮上するっ!」
上空の安全が確認されたことで、艦長は安心しきっていた。
だからこそ、機関長の意見具申を取り入れたのであるが……。
『馬鹿野郎!? 友軍に爆弾を落とすバカがどこにいる!?』
『ハワイに戻ったら、てめえらのこと報告してやるからなぁっ!?』
浮上したのが、プランジャーの運の尽きであった。
よりにもよって、敵潜と誤認してしまった友軍機から攻撃を受けてしまったのである。
『あぁ、こりゃダメだ。ハワイまでは洋上航行するしかないな』
不幸中の幸いというべきか、艦殻に深刻なダメージを受けたプランジャーは沈没を免れた。当然、潜航することは不可能であった。
『タイプライターは何処だ!? 今回の件はきっちり報告書にしてやるからな!』
怒りが収まらない艦長は、ハワイに帰投するまで報告書作りに明け暮れることになった。もっとも、報告書を提出した時点で咎められるべき部隊はこの世から消滅していたのであるが……。
「まだ見つからんのか? このままだと引き返すことも考えにゃならんぞ!?」
第2スコードロンの隊長は焦っていた。
もっとも、口にしたところで聞いてくれる人間はその場にはいなかったが。
「何故応答しない? この距離なら届いているはずなのだが……」
先行しているはずの第1スコードロンからの応答は無い。
20分前に船団を発見したことを報告してきたのが最後であった。
「まさか方位を間違ったか? それとも……」
隊長の背筋に冷たい汗が流れる。
それは考えたくもなかった最悪の可能性であった。
『隊長! 左下方に船団らしきものを発見! 甲板にミートボールが描かれていますっ!』
焦りが最高潮に達したときに無線が飛び込んで来る。
それは待ちに待った報告であった。
『こちらでも視認しました! 10隻以上います』
『速度針路に変更見られず。こちらには気付いていないようです』
『これがジャップの船団なのか!?』
他の僚機からも報告が入ってくる。
この瞬間、隊長は自分の誘導が間違っていなかったと心底安堵したのであった。
「手筈通りだ。パトリックとジェームスの隊はそのまま爆撃を。俺らは上空警戒だ!」
『『『アイアイサー!』』』
日本の船団を発見した第2スコードロンは3つに分かれた。
船団の上空から爆撃を加えようというのである。さらに上空警戒も怠らない。ここまでは完璧な流れだったのであるが……。
「なっ!?」
何が起きたのか分からなかった。
目の前を飛ぶF5Fが突如海面に叩きつけられた。
『敵機直上!』
遅れてやってくる僚機からの絶叫。
隊長は待ち伏せされていたことを悟った。
彼らを不意打ちしたのは軽空母『隼鷹』所属のゼロ戦隊であった。
第2スコードロンの面々の不幸は、輸送船団の護衛に隼鷹が同行していたことに尽きる。
隼鷹には対空監視レーダーが装備されていた。
早い段階で敵機の接近を察知して、ゼロ戦隊を上空で待機させていたのである。
「やらせるかぁっ!」
照準器に敵機が入った瞬間、隊長は躊躇なくトリガーを引く。
「んなっ!?」
その瞬間に敵機は照準器から消え失せた。
驚異的なゼロ戦の上昇力にF5Fは付いていくことが出来なかった。
『くそっ!? なんなんだこいつら!?』
『なんでジャップの作った機体がこんなにも強いんだよ!?』
『本当に日本製なのか!? イギリスの機体なんじゃないのか!?』
航空無線は悲鳴で満ち溢れていた。
空戦で圧倒的に分が悪いことを否が応でも自覚させられてしまう。
『隊長、助けてください!』
「今行くぞっ!」
部下からのヘルプ要請が聞こえた瞬間、隊長は機体をダイブさせる。
パワーダイブで機体は加速。みるみるうちに海面が迫ってくる。
「喰らえっ!」
上方からの攻撃は今度こそゼロ戦を捕らえた。
多数の12.7mm弾が着弾して主翼から火を噴きだす。
「はぁっ!?」
思わず目を剥いてしまう。
主翼の発火は広がらずに消えてしまったのである。
隊長は知る由は無かったのであるが、ゼロ戦には自動消火装置が装備されていた。被弾した瞬間に炭酸ガスが噴出する単純な仕組みであったが、絶大な効果を発揮していた。
この世界のゼロ戦は見た目はともかく、中身は完全に別物であった。
その原因は機体が開発された状況が史実とは全く異なっていたからに他ならない。
大陸から早期に撤退したので、奥地まで飛ぶ長大な航続距離は要求されず。
平成会チートの恩恵で三菱が金星を早期に完成させたことで、初期段階で史実の五二型と化した。
これに加えて、100オクタン燃料が潤沢に供給されていたので水メタ噴射とタンクは搭載する必要は無くなった。浮いた重量は燃料タンクの自動消火装置とコクピット周辺の防弾装備に充てられていたのである。
『助けてくれ!』
『後ろにつかれた!? 振り切れない!?』
『畜生!? 死にたくねぇっ!?』
1機、また1機と櫛の歯が欠けるようにF5Fが撃墜されていく。
しかし、撃墜されたパイロットには悪いが自業自得と言えなくもない状況であった。
「馬鹿野郎!? さっさと爆弾を捨てろ! 撃墜されたいのか!?」
隊長の警告は既に遅きに失していた。
撃墜されたF5Fは爆弾を搭載したままゼロ戦に挑んでいたのである。
史実の偵察飛行隊にSBDドーントレスなどの複数人乗りの機体が採用されたのは、パイロットとガンナーで分業出来るからに他ならない。パイロットが操縦に専念している間に、ガンナーが攻撃や航法を行うことが出来る。
これに対して、F5Fは全てパイロットがやる必要があった。
史実日本の某牛丼店も真っ青なワンオペと言える。
F5Fは操縦が非常に煩雑な機体と化したが、それはパイロットの咄嗟の判断力を奪うことに直結していた。爆弾を投棄せずに空戦に挑んでしまったのは、その典型例と言えよう。
このような状況を想定してF5Fには高度な補助装置が装備されていた。
装置自体は優れたものであり、適切に扱えば確実に機能してパイロットを補助してくれる。
当初の計画では、機体のみ共通化して任務ごとに使い分ける予定であった。
パイロットも任務別に育成したものを充てれば良い。
しかし、この時代の技術では自動化には限界がある。
補助装置を適切に扱うためには、どうしても熟練が必要となる。
補助装置の性能を発揮するためには艦戦艦攻艦爆と、3機種を乗りこなせるだけの技量が必要になってしまう。これではパイロットの育成に手間がかかり過ぎて機種統合をした意味が無い。
統合大好き、炎上上等な悪癖は今後も繰り返されることになる。
世界線を違えても、ヤンキーはヤンキーであった。
「……先行した連中もこうやってやられたのか」
隊長はコクピット内で茫然とした表情で呟く。
周辺空域に味方機は既に残っていなかった。
「ちぃっ!?」
ケツに付かれたのを察知してダイブする。
後ろのゼロ戦も即座にダイブしてくる。
「馬鹿な!?」
相対距離は広がるどころか、むしろ縮まっていた。
ジリジリと迫ってくる敵機の姿は恐怖以外の何物でも無かった。
隊長は知る由は以下略。
この世界のゼロ戦は厚板構造が採用されていた。
厚板構造は外板の厚さを増す代わりに主翼の桁数を減らすことが出来る。
部品点数の削減と機体強度の維持に効果があるとされ、史実日本では戦争末期の機体に採用されていた。
史実と比べると機体重量は増すことになったが、大馬力エンジンのおかげで相殺された。構造が単純化したおかげで、量産性も向上するというおまけ付きであった。
厚板構造の恩恵はダイブスピードの改善にまで及んでいた。
軽量非力な史実ゼロ戦の弱点を、この世界のゼロ戦は克服していたのである。
「くそったれが……!」
曳航弾のおかげで、後方から撃たれているのが分かる。
しかし、隊長に取れる選択肢は既に残されていなかった。
F5Fとゼロ戦の戦闘機としての決定的な違い。
それは双発か単発かということに尽きる。
基本的に双発戦闘機は高速重武装。
単発戦闘機は運動性に勝る。
その典型例が史実のゼロ戦とP-38であろう。
戦争序盤において、P-38はゼロ戦相手に中高度で格闘戦を挑んで散々に撃墜された。ゼロ戦乗りからは『ペロ八』と馬鹿にされる有様であった。
双発機がケツにつかれたらどうするか?
その場合は高速を活かした一撃離脱がセオリーとなる。
事実、史実で一撃離脱戦法が確立してからはゼロ戦とP-38の立場は逆転した。逆の言い方をすれば、単発機を振り切れない双発機は詰みなのである。
「おわっ!?」
機体が急激にきりもみ状態に入る。
ゼロ戦から放たれた20mm砲弾がF5Fの右エンジンを破壊したせいであるが、隊長にそれを自覚することは出来なかった。
「ぐあっ……」
シャワーの如く放たれた13.2mm弾がコクピットを貫通。
コントロール失ったF5Fは海面に叩きつけられた。
第2スコードロンは、第1スコードロンの後追いをすることになった。
この時点でも空母ヨークタウンでは事態を把握できていなかったのである。
(先行した連中の応答がない。やはり全滅したのか?)
第3スコードロンの隊長は焦っていた。
機内の無線機は沈黙を続けていた。時折聞こえてくるのは、僚機からの独り言と息遣いのみ。
40分前に船団発見の報を寄越した第1スコードロン、20分前に断末魔らしき声を最後に通信途絶した第2スコードロン。この状況で部隊が壊滅した以外の結果を考えられるほど彼の神経は図太くは無かった。
(適当な理由で引き返すべきだろうか? いや、さすがにそれはダメか……)
脳裏によぎった考えをすぐさま振り払う。
先行した2個スコードロンが壊滅した確たる証拠は存在しない。ヨークタウンからも攻撃続行以外の指示は無い。
この状態で撤退すれば敗北主義者と受け取られかねない。
部下たちに箝口令を強いるという手もあるが、密告されたら確実に軍法会議行きである。
第3スコードロンは、日本の船団がいると思われる海域を目指すしかなかった。
接敵するまで隊長の憂鬱が続いたのは言うまでも無いことであろう。
「……そろそろ、接敵が予想される海域だ。全機高度を下げろ」
『『『アイアイサー!』』』
隊長の命令で海面高度まで高度を下げる。
第3スコードロンは全機が魚雷装備であった。
『船団らしきものが見えます。10隻以上います』
『船体にミートボール。ジャップの船団に間違いありませんっ!』
『上空に敵機らしきものは確認出来ず!』
結果的に隊長の判断は正しかったと言える。
第3スコードロンは日本の船団に対して奇襲をかけることに成功していたのであるから。
日本側の対応が後手に回ったのは、先ほどまで2個飛行隊の相手をしていた上空直掩のゼロ戦隊が補給のために帰投したからであった。燃料補給でトラブルが生じてしまったせいで、カバーに入るはずのゼロ戦隊は未だに発艦出来ていなかった。
『敵機発見! 海面スレスレを飛んできますっ!』
『馬鹿な!? 電探に反応は無かったぞ!?』
これに加えて、レーダー探知を免れることが出来たのも大きい。
雷撃のために低高度を飛行したのが功を奏したのである。
『ターゲットインサイト! 魚雷発射っ!』
『相手は非武装だ。ギリギリまで接近して確実に当てる!』
『訓練だと思って気楽にやらせてもらうぜ!』
真っ先に標的にされたのは、最後尾を航行していた輸送船であった。
投下されたMk13魚雷が無防備な土手っ腹へ向けて殺到する。
『命中! 命中!』
『さすがにこの距離では外しようが無いな』
『ついでに機銃も撃っておくか』
必死に回避したものの、全ての魚雷を避けられるはずもない。
狙われてしまった不運な輸送船は船団の喪失第一号となり、貴重な物資は太平洋の藻屑と化してしまった。
失われたものは武器弾薬では無かった。
しかし、兵士の士気を維持するために必須の物資であった。
『甘味無いとやってられんわー!?』
『俺の同人誌がっ!?』
『『『絶対に許すまじっ!』』』
積荷の中身はおせんにキャラメル、あんぱんにラムネ。
それに加えて、酒や煙草に同人誌などなど。嗜好品が沈められたことを知ったカナダ遠征軍は、怒りの矛先を海軍ではなく米連軍へ向けることになる。
「よーし、この調子でいくぞ! この勢いで全部沈めてやれっ!」
『『『アイアイサー!』』』
先ほどまでの焦りは何処へやら。
事が上手く運んだことで隊長は上機嫌であった。
『なんだぁ? こんな時に漁業でもやるつもりか?』
『ジャップの奴ら頭がおかしくなったのか?』
『元からイカれてるだろ!』
奇妙な光景が飛び込んできたのはその直後であった。
目の前の輸送船が、これまでと違う動きを見せ始めていたのである。
『そんなもので魚雷が止められるはず……って、なにぃ!?』
『爆発しねぇぞ!? 信管の不良か!?』
投下した魚雷のことごとくが目標の手前で爆発。
もしくは不発。攻撃側からすれば、悪夢のような光景であった。
日本の船団が展開したのは魚雷防御用ネットであった。
その見た目から、第3スコードロンの面々は漁業を連想してしまったのであろう。
史実の帝国海軍は魚雷防御網を研究していた。
3.2mmの鋼線を7本撚って極太ワイヤーとし、これを直径40cmのリング状に組んで網とする。これで45ktで突進してくる魚雷を防御可能であった。
昭和17年から18年にかけて、実際に装備して実験まで行っている。
通常時と比較すると魚雷防御網展開時には3~5kt程度の速度低下が認められていた。
平成計算機工業で開発された魚雷防御ネットも、コンセプトは似通っていた。
ただし、こちらは航空用魚雷に特化した仕様であった。
素材も重い鋼線ではなく、高強度ナイロンを束ねたものをリング状に組んでネットにしていた。海水に浸かると再使用の際に強度の保証が出来ないので、実質使い捨てという点でも大きく異なる。
しかし、駆逐艦用の重魚雷に比して短射程で威力に劣る航空魚雷にはこれで充分であった。カナダ行き船団に投入される船舶に急遽追加された装備であったが、想定通りの威力を発揮していたのである。
この時代の日本にとって、高強度ナイロンの量産はかなりの負担であった。
リング状にするのも、ネットにするのも手間がかかる。お世辞にもコスパはよろしくない。
それでも輸送船を守れるのならば安いモノであろう。
使い捨てなので海を汚すことになるのが難点ではあるが。
『ふざけやがって!? たかが網ごときに!?』
『生意気なんだよ!?』
『魚雷が無くてもジャップなんぞ沈めてやるっ!』
不条理な展開に第3スコードロンの面々はぶち切れた。
必殺の魚雷が非武装の民間船に無力化されたのであるから、彼らの怒りは正当なものであろう。
魚雷を未だ温存している機体は戸惑い、撃ち尽くした機体は怒りにまかせて銃撃を加える。北太平洋の片隅でカオスのような光景が繰り広げられることになったのである。
「落ち着けっ! 網は舷側に展開しているだけだ。艦尾を狙え!」
唯一、隊長だけは冷静であった。
しかし、彼もゼロ戦隊の存在を見落としていた。
『ジャップの戦闘機だ!?』
『上等だぁ。返り討ちにしてやるぜ!』
補給を終えたゼロ戦隊が戻って来たのは、まさにこの瞬間であった。
魚雷を撃ち終えて身軽になったF5Fが即座に迎撃に向かったのであるが……。
『畜生!? なんだこの動きは!?』
『くそっ、高度さえ取れれば……!』
『卑怯だぞ降りてこいっ!?』
F5Fは低高度でのたうち回るような動きしか出来なかった。
高高度で一撃離脱に徹するならともかく、ゼロ戦に上空を占位された時点で詰みゲーであろう。
『ケツにつかれた!? 誰か援護を!?』
『助けてくれっ、落ちるっ落ちる……』
『嫌だ、まだ死にたくないっ』
あっさりと背後を取られてF5Fは撃墜されていく。
なまじ図体がデカいせいで、ゼロ戦からすれば良い的であった。
結論から言えば、雷撃を成功させたら即座に退避するべきであった。
怒りに燃えるゼロ戦隊によって、第3スコードロンは文字通り地上から消滅してしまったのである。
「おまえら頑張り過ぎだろう……」
駐日英国大使館の執務室。
新聞に目を通したテッド・ハーグリーヴスは、思わずため息をついていた。
『海軍の無敵飛行艇 200発以上被弾するも無事帰還』
『海鷲たち 米連の空母部隊を返り討ち』
『さんふらわぁ丸 凱旋帰還 港が大観衆で埋め尽くされる』
デスクに放置されている国内の主要新聞。
その全ての一面が、帝国海軍があげた大戦果で占められていた。
「北太平洋での戦闘について最新の情報が欲しいから持ってきてくれる?」
『了解しました。しばらくお時間をいただきますが……』
「かまわない。正確性を優先して欲しい」
とはいえ、テッドは大本営発表を鵜呑みにするようなことはしない。
MI6日本支部に最新の情報を持って来るように命じていた。
「お待たせしました。これが現時点で判明している情報になります」
「ご苦労さん。早速説明してくれる?」
MI6のエージェントが出頭したのは2時間後のことであった。
執務室のデスクに大量の資料が積み上げられていく。
「まず今回の日本政府の発表についですが、戦果をかなり過少に発表しています」
「そこは戦意高揚のために、多少は戦果を盛ると思うのだけどなぁ……」
エージェントの報告にテッドは首をかしげる。
戦果を過少に発表するなど聞いたこともない。
「日本海軍の実際の戦果ですが、こちらをご覧ください」
エージェントが提出した報告書には日本海軍に喧嘩を売った米連の損害が記されていた。詳細な数字は以下の通りとなる。
戦果―輸送船2隻
オートジャイロ1機
損害―ポーパス級潜水艦18隻(未帰還 損害率45%)
空母3個飛行隊(未帰還63機 損害率89%)
1か月間で受けた損害としては空前絶後であろう。
米連の兵站担当者が拳銃で頭を撃ち抜かないか心配になる。
「……なるほど。戦果を挙げすぎて世論が暴走するのを恐れたか」
実際の戦果を知ったテッドは、戦果を過少申告した理由を理解してしまった。
同時に厄介なことになったと頭も抱えてもいたが。
戦時下において、損害無しで一方的な大戦果を挙げたら国民が熱狂するのは間違いない。継戦という観点から見れば、確実にプラスになると言えるだろう。
しかし、一方的な大戦果は戦争を終わらせることを難しくしてしまう。
戦果を挙げた側はさらなる戦果を求めるし、損害を受けた側はリベンジを誓う。
その先は果てしない泥沼な消耗戦か、どちらかの無条件降伏でしかない。
史実のウクライナと太平洋戦争が良い例であろう。
日本政府としては、今回の大戦果は非常に都合が悪かった。
本格的な戦闘は避けて、適当なところで手打ちにするつもりだったのであるから。
『こうも一方的に勝利しちゃうとなぁ。多少、損害を受けてくれればやりようはあったのに』
『チートし過ぎた弊害がこんなところに出てしまうとは……』
『馬鹿正直に戦果を発表したらヤバイことになるな』
日本の黒幕(笑)たる平成会も今回の事態に頭を抱えていた。
一方的過ぎる勝利によって、世論が継戦にシフトすることを恐れたのは言うまでも無い。
『この調子で太平洋からヤンキーを駆逐するべきだ!』
『今こそ太平洋に新秩序を作るべき時だ。ハワイ王国を復興させて友好関係を結ぶべきだ』
『全面戦争は避けるべきだが、手打ちにするにしても最低限領土を獲るべきだ。その場合は、アリューシャン列島が適当だろう』
知識人たちも戦争を肯定し始めていた。
今回の大戦果が原因であることは言うまでも無い。
戦前にカナダ派兵に強硬に反対していたのに、手のひらマッハドリルにも程がある。あるいは、単なる二枚舌か。どちらにしろ、英国紳士には遠く及ばないのは確かと言えよう。
この時代の知識人たちの影響力は無視出来るものではない。
彼らに引きずられるように日本の世論は継戦に傾いていくことになる。
「今回の政府発表については、日本海軍内部で不満が高まっているようです」
「日本政府の思惑は分かるんだけど、現場で命を懸けてる人間からすれば知ったことじゃないからなぁ……」
海軍内部の不満は連日のストップ高であった。
大臣室には連日のように苦情や怒鳴り込みが殺到して、嶋田繁太郎海軍大臣は目に見えて憔悴していた。
「なお、日本陸軍でも海軍に負けるなという風潮が広まっているようです」
「……」
テッドには、ため息しか出なかった。
早期停戦のフラグが消滅してしまったことを否が応でも理解してしまったのである。
史実の日本が無謀な太平洋戦争に突入したのは何故なのか。
これは史実21世紀においても度々議論となっている。
座したままではABCD包囲陣に絞め殺されたから?
あるいは、東條英機が独裁者だったから?
いろんな意見はあれど、政府や軍部に責任を押し付ける結論が多く見受けられる。上手く立ち回れたら戦争は回避出来たはずと、後知恵で賢そうにご高説を宣う。はっきり言って、屑の所業と言っても過言では無い。
戦前の日本は対米戦を回避するべく、尋常ならざる努力をしていた。
しかし、その姿勢は国民からは弱腰に映ってしまった。
当時の日本は日清、日露と対外戦争では負け知らずであった。
アメリカと戦争しても勝てるだろう――そういう意識が国民に蔓延していたことは否定出来ない。
国民は戦争に負けたらどうなるかなんて考えていなかった。
当然だろう。今まで対外戦争で敗北したことが無かったのであるから。
「……アメリカ連邦の反応は?」
「トロツキー書記長は今回の事態に激怒しています。おそらく大規模な反攻作戦を仕掛けてくるでしょう」
極東の島国に一方的にぶん殴られて、ハイお終いなんて出来るわけもない。
米連がメンツにかけて大規模反攻作戦を仕掛けてくるのは既に確定事項であった。
「でも、その前に政治的な勝利を演出してくる可能性は無いか? たとえば日本本土空襲とか」
史実のドーリットル空襲を知るが故の質問であろう。
しかし、テッドが恐れていたのは日本が受ける被害ではなかった。
この世界の日本は100オクタンの燃料が確保されていた。
2000馬力級の発動機の量産が実現していたし、それを装備した戦闘機の設計も進められていた。
30kt発揮可能な高速戦艦部隊もある。
その中には史実の大和を超える化け物戦艦も存在する。
水雷戦隊は特型駆逐艦が大量建造されていた。
装備している魚雷は破壊力抜群の酸素魚雷で、ウェーキ誘導で高い命中率を誇る。
火葬戦記書きにとっての理想が具現化したのが、この世界の日本と言える。
史実ドーリットル程度ならば、平成会チートされた陸海軍が容易く無効化する可能性は高い。
しかし、損害が皆無であったとしても世論に与える悪影響は無視出来ない。
万が一宮城に爆弾が落ちてしまったら、それこそ国民が一丸となって徹底抗戦を叫ぶであろう。
「かつてのアメリカ合衆国ならば、その可能性もあったでしょう。しかし、アメリカ連邦は独裁政治なのでそのようなことをする必然性がありません」
戦争に負け続ければ指導力に疑問を持たれてしまう。
次の選挙で政権を維持することも危うくなる。それ故に、議会政治が機能している国家は戦争中に政治的な勝利を求められる。
アメリカ連邦は独裁国家であるので、政治的な勝利を無理に求める必要は無い。
そういう意味では、エージェントの分析は正しかった。
「もちろん断言は出来かねます。トロツキー書記長は複雑な性格のようですので、思いつきで本土攻撃をしてくる可能性は否定出来ません」
史実のトロツキーは傲慢と自尊心に溢れながらも論理的であり、かつ冷徹な現実主義者でもあった。頭の中で1周回って、本土攻撃を決断する可能性は決して低くなかったのである。
「頃合いかなぁ……」
エージェントが退室した執務室で、テッドはポツリと呟く。
日米戦が長期化するのはもはや確定事項。既に全権大使がどうこうする段階は過ぎ去ってしまった。
「ジャスパー・マスケリンは何処にいる?」
『少々お待ちください……マスケリン氏は朝鮮半島で除染作業に従事しています』
テッドは内線をかけて、ジャスパー・マスケリンの所在を確認する。
ウォッチガード・セキュリティ特務班『マジックギャング』班長は、今日も元気に白頭山で除染作業中であった。
「こっちでやってもらうことが出来たから呼んでくれる?」
『了解しました』
内線を終えたテッドは受話器を取る。
電話先は英国本国であった。
「もしもし? 例の件いい加減に片付けるから準備してくれる?」
『嬉しいよマイフレンド! 準備万端で待ち受けているからねっ!』
喜色満面といった様子な声が、受話器から聞こえてくる。
テッドは根回しのために、その後も方々に電話をかけまくったのであった。
『駐日英国全権大使テッド・ハーグリーヴス公爵 一時帰国中に領内で自動車事故』
『療養のためしばらく領内に留まるとのこと 具体的な時期は不明』
『全権大使としての職務は今後も遂行するとのこと』
日英両国にとって、ショッキングなニュースが飛び込んできたのは6月上旬のことであった。『不慮の事故』によって、テッドはドーセット領でしばらく静養することになるのである。
以下、今回登場させた兵器のスペックです。
ヨークタウン
排水量:25500t(満載)
全長:251.38m
全幅:33.38m
吃水:7.9m
機関:バブコック&ウィルコックス製水管ボイラー×9基+ギヤードタービン4基4軸推進
最大出力:120000馬力
最大速力:32.5ノット
航続距離:15ノット/12500浬/
乗員:2217名
兵装:50口径12.7mm機関砲24基
Mk12 5インチ単装砲8基
1.1インチ4連装対空機銃4基
艦載機70機(補用機含む)
エレベーター3基
装甲:舷側64~102mm
水密隔壁100mm
司令塔100mm(側面) 75mm(天面)
旧アメリカ合衆国のヴィンソン計画によって大量建造されたヨークタウン級空母のネームシップ。
同形艦は『エンタープライズ』『ホーネット』『サバンナ』『スタンウィックス』『セントジョンズ』『タイコンデロガ』『ブーンズボロ』『ボストン』『ミフリン』
旧アメリカ合衆国の主力正規空母にして、現在の米連海軍の主力正規空母である。
10隻という建造数は正規空母としては空前絶後であり、その存在を知った帝国海軍の空母マフィアに多大な衝撃を与えることになった。
史実と比べて艦載機の搭載数が減少しているのは機体が大型化したためである。
F5Fを運用するためにエレベーター自体も大型化している。
※作者の個人的意見
米帝チートで困るのが艦名ですよね。
ホーネット以降どうしようか悩みましたが、結局アメリカの古戦場の名前を付けてますw
グラマン F5F
全長:9.80m
全幅:12.8m
全高:3.7m
重量:3630kg(空虚) 4540kg(全備)
翼面積:28.2㎡
最大速度:616km/h(海面高度)
実用上昇限度:10500m
航続距離:1250km 2100km(スリッパ型タンク使用時)
武装:ブローニング AN/M2 12.7mm機関銃×4(機首)
Mk13航空魚雷(胴体下部) or 500ポンド航空爆弾(胴体下部)
2.4kg空対空小型爆弾×20(主翼)
エンジン:ライトR-1820-62/R-1820-64 空冷星型9気筒 1350馬力×2
乗員:1名
米連海軍期待の新型主力艦戦。
史実では試作のみであったが、この世界ではあろうことか量産配備された。
史実とは異なり、より艦上での運用に適するように主翼の折り畳み機能が追加されている。エンジン出力も向上しており、ペイロードも増加している。
後世の軍事評論家からは『登場が早すぎた機体』『理屈倒れ』など散々な評価を喰らっている。その原因の大半はワンオペでブラックな操縦環境にあると言っても過言では無い。
F5Fによって艦戦、艦攻、艦爆を統合出来た意義は後世においてもそれなりに評価はされている。しかし、それ以上にパイロットの負担を強いることによる弊害が大きかった。
偵察機や攻撃機の搭乗員が複数いるのは、それぞれの任務に専念するために他ならない。F5Fが『カタログスペック詐欺』と称される所以である。
これだけ失敗したにも関わらず、米連海軍は再度やらかすことになる。
ヤンキーの合理化主義と社会主義が結びつくとロクなことにならないという好例であろう。
※作者の個人的意見
フランス戦車の車長もブラックでしたが、この世界のF5Fはそれに輪をかけた超ブラック職場です。
なんたって、ワンオペなんだからなっ!?(゜∀゜)
川西/平成飛行機工業 九四式飛行艇
全長:28.13m
全幅:38.0m
全高:9.15m
重量:18120kg(空虚重量)
:32500kg(最大離陸重量)
翼面積:160.0㎡
最大速度:468km/h(最大) 300km/h(巡航)
実用上昇限度:8850m
航続距離:7153km(偵察過荷)
飛行可能時間:24時間
武装:20mm旋回銃5基 7.7mm旋回銃4基
爆弾最大2t(60kg×16 or 250kg×8 or 800kg×2)
エンジン:三菱 火星二六甲型 1760馬力×4
乗員:10~13名
1934年に制式採用された海軍の大型飛行艇。
実も蓋も無い言い方をすれば、史実の二式大艇である。
サンダース・ロー プリンセスを見た平成飛行機工業の技術者モブたちは、実用的な大型飛行艇を欲した。彼らは史実の二式大艇を再現することを狙ったが、飛行艇製造ノウハウを持たないために不可能であった。
単独で無理ならば巻き込んでしまえとばかりに、平成飛行機工業側は史実で二式大艇を設計した菊原静男に接触。アイデアを伝えたうえで、川西航空機に資金と技術を提供して協業することで史実よりも早期に開発することに成功した。
心配されていた初期トラブルも無く、史実の二式を襲名(皇紀2592年に採用が内示されていた)するはずであったが、量産段階で平成飛行機工業がライセンス生産したエンジンにトラブルが多発したため、他の国産エンジンを搭載して試験を継続することになった。
最終的に三菱の火星エンジンを搭載して制式採用されたのは2年後であった。
史実二式大艇は、この世界では九四式飛行艇として採用されたのである。
1943年の時点ではKMXを搭載して対潜哨戒機として猛威を振るっている。
米連の潜水艦乗りから死神の如く忌み嫌われる存在であった。
※作者の個人的意見
エンジンを火星に載せ替えたら、エンジン単体で80kg軽くなりました。
合計で320kg軽くなったので、少しばかり飛行性能が向上しています。
この世界のKMXは真空管ではなく蛍光表示管で回路を作ってるので小型軽量省電力だったりします。
ポーパス級潜水艦
排水量:1310t(水上) 1930t(水中)
全長:91.74m
全幅:7.59m
吃水:4.0m
機関:GM201Aディーゼルエンジン4基+電動機4基2軸推進
最大出力:4300馬力(水上) 2085馬力(水中)
最大速力:19.0ノット(水上) 8ノット(水中:モーター使用時)
航続距離:10ノット/11000浬(水上) 5ノット/50浬(水中:モーター使用時)
乗員:73名
兵装:50口径76mm高角砲1基
12.7mm機銃2基
7.62mm機銃2基
21インチ魚雷発射管6基(艦首4 艦尾2)
外装式魚雷発射管2基(艦首2)
魚雷18本
ヴィンソン計画によって建造された艦隊型潜水艦。
同形艦は『パーチ』『ポンパーノ』『プランジャー』『ポラック』『パイナップル』『パワフル』他多数。
現時点でもアメリカ連邦海軍の主力潜水艦である。
※作者の個人的意見
この世界における現時点でのガトー級ポジ。
ショッカー戦闘員の如く、わらわら出てきて刈り取られるやられ役であります(酷
あまりにもやら過ぎて、ガトー級かその発展型の投入が早まるかもしれませんねw
なお、ネーミングはPの付く単語から取っていたりします。
萱場製作所 オ号対潜攻撃機
全長:11.4m(本体のみ)
全幅:10.0m(固定翼)
全高:3.45m
ローター径:13.4m
機体重量(自重/全備):2765kg/5170kg
最大速度:280km/h(巡航速度) 370km/h(最大速度)
航続距離:1530km
上昇限度:5700m
武装:60kg爆雷×10
エンジン:三菱 金星六二型 空冷星型14気筒 1560馬力
乗員:3名(パイロット+KMXオペレーター+爆撃手)
萱場製作所が開発したヘリプレーン2型を対潜哨戒ヘリに転用したもの。
見も蓋も無い言い方をすれば、史実のバイアセッキ16Hパスファインダーもどきである。
なお、オ号のオはオートジャイロの略である。
機体の中身はオートジャイロというよりも、複合ヘリコプターである。
ヘリプレーン2型は優れた性能を示したが、陸軍の制式輸送ヘリに採用されたのは平成飛行機の『旋風』であった。しかし、海軍上層部はヘリプレーン2型の高速性能に着目しており輸送ではなく対潜哨戒目的への転用を試みた。
海軍から依頼を受けた萱場製作所では機首周りを改造して、新型のKMXを装備させた。固定翼にもマウントが追加されており、60kg爆雷を左右に5個ずつ装備することが可能になっている。
新型のKMXは機首から複数の受信機で同時に検知することで探知精度を上げる仕組みであった。精度が上がる分、探知範囲はどうしても狭くなってしまう。それ故に低速で飛行だけでなくホバリングまで出来るオートジャイロは最適であった。
※作者の個人的意見
バイアセッキ16Hパスファインダーなんて、マニアックな機体を引っ張り出したのは完全に見た目ですw
おいらの思い描くヘリプレーン2型のイメージにピッタリだったのですよ(*´ω`)
隼鷹
排水量:18100t(公試)
全長:212.0m(飛行甲板を含む)
全幅:24.0m(水線幅)
吃水:7.54m
機関:三菱式水管缶6基+三菱ツェリー式オールギヤードタービン2基2軸推進
最大出力:45000馬力
最大速力:26ノット
航続距離:20ノット/8500浬/
乗員:1250名
兵装:ボ式60口径40mm機関砲24基(単装18基 連装6基)
艦載機48機
エレベーター2基
電探:二号一型1基(対空監視用)
二号二型1基(水上警戒用)
帝国海軍の軽空母。
同形艦は『飛鷹』『大鷹』『雲鷹』『冲鷹』『神鷹』『海鷹』他多数。
海軍の平成会派の提案に、空母マフィアが全力で乗っかった結果建造された。
とにかく数を揃えることを最優先したので、いろいろな部分で大胆に割り切った設計となっている。
兵装のボ式はスウェーデンのボフォース社製40mm機関砲のそのものである。
史実では無断コピーしようとして終戦になったが、この世界の日本は北欧諸国と良好な関係を築いたことから早期のライセンス生産が実現している。
搭載されている電探は必要最低限のものであったが、英国からの技術支援により実用レベルに達している。
21号、22号の組み合わせは他の艦艇でも採用されている。
※作者の個人的意見
史実のマジェスティック級軽空母を帝国海軍っぽく弄ったものです。
最初から軽空母として計画されているので、この世界の帝国海軍に特設空母は存在しなかったりします。
三菱 零式艦上戦闘機 二二型
全長:9.237m
全幅:11.0m
全高:3.57m
重量:2100kg
翼面積:21.30㎡
最大速度:555km/h
実用上昇限度:11200m
航続距離:1100km(増槽込み:1500km)
武装:13.2mm機銃×2(翼内) 20mm機関砲×2(翼内)
:30kg爆弾2個 or 60kg爆弾2個 or 30kg小型ロケット弾4発
エンジン:三菱 金星六二型 空冷星型14気筒 1560馬力
乗員:1名
1940年に制式採用された海軍の主力艦上戦闘機。
この世界におけるゼロ戦であり、その中身は史実の六四型もどきである。
史実の六四型は中島製『栄』の代わりに直径は大きいが出力も大きい自社製エンジンの『金星』を採用した機種であった。この世界では平成会の技術チートの恩恵で三菱のエンジン技術も加速しており、早期に金星を完成させたことで初期タイプから金星を搭載することが可能になっている。
機体の設計は史実と同じく堀越二郎が行っている。
全体的なシルエットは史実のゼロ戦と大差無く、曲面を多用した流麗なシルエットになった。
大きく違うのは厚板構造が採用されたことである。
板厚を増す代わりに主翼の桁数を減らしており、部品点数の削減と強度の維持を両立している。
この世界の日本では100オクタン燃料が潤沢に供給されているので、史実で装備されていた水メタ噴射装置とタンクは搭載されていない。噴射装置とタンクと水メタを合わせて200kg近い軽量化が可能となった。
浮いた重量は主翼内燃料タンクの自動消火装置とコクピット周辺の防弾装備に充てられている。そのおかげで、この世界の零戦は異様にタフでしぶとい戦闘機となった。
※作者の個人的感想
やっぱりゼロ戦を出さなきゃというわけで、作ってみました。
なんのかんの言っても1500馬力級なので、この時代に出せば無双出来るでしょう。
自動消火装置は史実のキ83に装備されてたやつです。
タンク内に窒素を充填して被弾時に気化したガソリンが爆発するのを防いでくれます。これが有ると無いとでは大違いで、この世界のゼロ戦は被弾してもしぶとく生き残れるでしょう。
13.2mmと20mmの組み合わせ史実通りです。
金星の搭載でエンジンルームに余裕が無くなったので全て主翼装備です。
最初は20mm4丁積もうと思ったけど、すぐ弾切れになりそうなので止めました。12.7mも考えたのですが、そもそも史実の13.2mmはブローニングのコピーで命中精度も悪くないとのことなので、そのまま採用しています。
でも20mm4丁でもいけるとは思うんですよね。
史実と違って厚板構造で機体強度はあるし、長銃身の2号銃を使えばそこまで命中率は悪化しないはず。派生型で出すのはありでしょうね。
日本がどっぷりと戦争に浸かることが確定しちゃいました。
戦争は相手があってのものですから、あちらから喧嘩を売られたらどうしようも無いのですけどね。
過去のコメントや感想でも指摘されていますが、戦争になると役立たずになるテッド君をどうしたものか。
今後はそこらへんを意識して書いていこうと思います。
>さんふらわぁ丸はカナダ行き輸送船団の第1便であった。
本編第111話『日英同盟を履行するということ』参照。
さんふらわぁ丸自体は過去の満州事変絡みでも描写していたりします。
>魚雷に採用されているMk6信管こそが諸悪の根源と言えた。
史実では信頼性80%とのこと。
意外と高いじゃんと思われる人もいるでしょうが、命中させても2割が不発というのは地味にキツイ。この世界だと起爆しない確率のほうが高いのでなおさらです。
>ポーパス級の艦長が切れ散らかしたのは当然のことと言えよう。
本編第111話『日英同盟を履行するということ』参照。
生きているからこそ、悔しがれるのです。太平洋方面に配備されてたポーパス級は2隻を残して沈められてますし…。
>禁煙パイポ
拙作のトロツキーのトレードマークになりつつありますw
>米連の戦艦部隊は赤色艦隊として世界一周航海を達成していた。
本編第108話『グレート・レッド・フリート』参照。
>最近はグリーンランドにある英国紳士の根城を石器時代に戻すという輝かしい実績もある。
本編第110話『踊る黒い蜘蛛』参照。
サウスダコタ級10隻の砲撃で、基地周辺はクレーターと化しています。
>航空機で戦艦を沈めることが出来ることを先の世界大戦でロイヤルネイビーが証明していた。
本編『第10話 マルマラ島沖海戦』参照。
>|《CAG》空母航空団司令
司令と呼ばれてはいますが、実際は佐官クラスです。
旧海軍だと航空参謀に該当します。
>『我ニ追イツクグラマン無シ』
あまりにも有名な言葉ですが、グラマンなのか敵機なのかどっちなんだい?
さすがにこれは表記ゆれの範疇を超えてるだろ……。
>第1スコードロンは戦力を二つに分けた。
史実WW2における米海軍の艦載機編成は時期的に差異がありますが、拙作では1飛行隊24機編成にしています。
>『フライング・ポーキュパイン』(空飛ぶヤマアラシ)は伊達では無い。
ちなみに、川西航空機の技術の祖であるショート社が製造していたショート サンダーランドはドイツ人に『空飛ぶハリネズミ』呼ばわりされていました。
>エ〇ーウ〇フやブ〇ーサ〇ダーではあるまいし、ヘリで戦闘機に立ち向かえるわけがない。
青雷は見たことないですが、空の狼は子供のころよく見ていました。
あの頃は純粋に楽しめたのに、未だとフィルターがかかってしまうんだよなぁ…(´・ω・`)
>咎められるべき部隊はこの世から消滅していたのであるが……。
潜水艦を誤爆したのは第1スコードロンの片割れです。
船団上空で待ち受けていたゼロ戦隊に美味しくいただかれてしまいました(ノ∀`)
>甲板にミートボールが描かれていますっ!
漫画ジパングでも甲板にでっかく日の丸が描かれていましたよね。
上空から識別するには、あれくらいデカくないとダメだということでしょう。
>パトリックとジェームスの隊はそのまま爆撃を。
パトリックとジェームス。
パトリックジェームス……PJ(アッ
>統合大好き、炎上上等な悪癖は今後も繰り返されることになる。
次はチャンスボート社の機体でやらかそうと思っています。
究極のSTOL性能を闇に葬るのはもったいなですよねw
>ゼロ戦乗りからは『ペロ八』と馬鹿にされる有様であった。
由来は『ペロリと食えるP-38』だそうです。
ドイツ人は『双胴の悪魔』呼ばわりしたというのに……。
>13.2mm弾がコクピットを貫通。
史実の五二型も装備。
ブローニングM2の拡大コピーなので、威力命中共に良好だったとのこと。この世界のゼロ戦は全て主翼装備になっています。
>怒りの矛先を海軍ではなく米連軍へ向けることになる。
これで間宮とか沈められたらどうなるのでしょうねぇ?
って、あれは海軍だから陸さんには関係ないか(フラグ?
>大本営発表を鵜呑みにするようなことはしない。
日本人なら当然ですよね?
>どちらにしろ、英国紳士には遠く及ばないのは確かと言えよう。
英国紳士は3枚舌です!( ー`дー´)キリッ
>嶋田繁太郎海軍大臣は目に見えて憔悴していた。
輸送船が沈められたら総理に怒られ、戦果を挙げたら身内に怒鳴られる。
歴代海軍大臣の中で最も不幸な大臣なのは確定です。
>史実のドーリットル空襲を知るが故の質問であろう。
史実だと中華民国に着陸出来ましたが、この世界だと満州国に着陸することになりそうです。表向きは中立国なのですから、命までは取らないでしょう。多分。




