第96話 世界一決定戦は4年に一度が相場だろ
こうして四か国首脳会議は無事終わり、聖獣代表決定戦もケンが有耶無耶のウチに4年後って事で他の代表に認めさせたのだった。え?こんなだまし討ちみたいなことやって後で揉めないの?って思ったんだけど「まあ、スシも美味かったしいいんじゃない?」って感じでダレも文句を言わなかったのだ。まあ、そもそも4年やそこらで何千年も生きているウチの聖獣に勝てる様になる訳ないだろ、ってのが本音らしいが・・・
これでオレの役目は終わり、やれやれだぜって思っていたらもう一仕事あった。それぞれの代表が「異世界人に会わせろ」と言ってきたのだ。なるほど、もうすっかりオレの事はばれているらしい。って、いやいやいや目の前にいるじゃないですか?
「シュウの紹介を兼ねてのこのセッティングだったんだけどね」
「え?ホントに彼が異世界人なのか?」
「ただのヒノモト国民じゃないのか?」
「だって、全然風格というか・・・」
ケンの言葉に彼らは呆気にとられてオレの方を見る。はいはい、どうせオレは一般市民ですよ。そんなオーラなんて持ち合わせている訳ないでしょう、たまたまこっちに来たってだけなんだから。
「今日食べたスシは、シュウの元いた世界の料理なんだぜ」
「え?そうなのか?確かに前に食べたスシとは似ても似つかなかったな」
「それに料理の時のあの身のこなしは只者じゃないかも」
「でも、どうみてもただのヒノモト国民にしか見えないんだけどなあ」
思ったことを遠慮なくズケズケと言われるが、各国のお偉方の言うことに逆らう気は無い。ただ黙って聞いているだけだ。そんな偉いおっさん達と互角に渡り合っているケンは、やはり凄いなあと感心する。
「それにしても、異世界人ってのはヒノモト国民とソックリだなあ」
「いえ、異世界にも色々な国があって私がいたニホンはこの世界でのヒノモト国と似たような国なんですよ。他にもステイツやなかつ国、ダルシム国と同じような国もありますよ」
オレは自分の元いた世界の事を色々と話す。それぞれの国の特色や国民性、流行りのモノや食文化などオレの話を3人とも興味深そうに聞いている。傍から見ればとても現実味のない光景だが、そこは敢えて考えないようにしよう。
それにしてもこの人たち一国の代表であるのだが、思ったよりもずっと気さくで話しやすい。オレもすぐに打ち解けて色々な話をするうちに余計な事を言ってしまう。
「それにしてもこの世界って人同士の戦争がないんですよね?本当に素晴らしいです」
「うん?当たり前じゃないか。シュウのいた世界では、人間同士が戦争をするのか?」
怪訝そうにジョージがオレに聞き、他の2人も顔を見合わせる。
「ええ、大きな国同士の戦争はもう何十年もやってませんが今でも小さな紛争は起こっていますしこれまでの歴史で戦争が途絶えたことはありません」
「なぜ、人間同士で殺し合いをしなきゃならないんだ?何か大きな理由があるのか?」
「ええと、利権絡みなどでお互いの国同士で意見が対立したりすると戦争が始まる感じですかね・・・」
すると3人とも不思議そうな顔をする。
「え?だったら話し合いで解決すればいいじゃないか?なぜそれが出来ないんだ?」
「なぜって言われても・・・国の偉い人が決めることなんで、分かりません」
「シュウのいた世界のトップはバカばっかりなのか?人間同士で戦わせるなんて愚劣の極みだろう」
「そうだよな、そうさせないためにオレ達がいるんだから」
3人ともオレの話を聞いて真剣に怒っている。なんていい人たちなんだ、こんな人達が国の偉い人だなんて元の世界とは全然違う。
「シュウの話を聞けて良かったぞ、オレ達の国はそうならないように絶対しようぜ」
「おう、当たり前だろ。これからもお互い仲良くしようぜ」
目の前の白人と黒人とアジア系のおっさん達はオレの話を聞いてより団結を深めたようだ。互いに熱い握手を交わしている。なんにしろ、話がうまくまとまって良かったな。
「ようし、なんか興奮したらまた腹が減って来たな。シュウよ他にも異世界の食事を出してくれないか?」
なんか勝手なことを言っていますが、丁度いいアレを出してやろう。
「う、うまい。コレはまたスシとは違うがなかなかうまいな」
「うんうん」
3人とも夢中になってラーメンをずるずると食べている。やっぱり飲んだ後のシメはラーメンだよな。丁度いい、この世界でもその文化を定着させてやろう。
そんな皮算用をしていると、「そうだ、コレからは首脳会議はヒノモト国でしようぜ」「いいなソレ、いつもシュウに料理を用意させよう」「じゃあ、次はいつにする?」
OLの飲み会みたいなノリで次の首脳会議の話をしだした。まあ、オレとしては他国へのチェーン展開の足掛かりとなるし悪い話ではないかな。外食チェーンの成功の鍵となる有力なコネが出来たな。
ここで話は昨日に戻る。首脳会議の準備を全くしていなかったオレは急いで取り掛かることになった。トキさんへ会場のセッティングをお願いする。オレが昔一度だけ行ったことがある三ツ星の超高級寿司屋を再現して貰おう。ソコは、カウンターが8席しかない完全予約制の寿司屋でオレが行った時は、某有名アーティストがお忍びで来ていた。完全お任せで飲み物代別で一人3万、合計で5万弱もする店だった。だが、そこで味わったスシの味と演出は本当に感動ものだった。アレをどうしても再現したい。
オレは、自分の脳内イメージを3D化してトキさんへと送って貰う。そんな作業はアイさんからすれば、朝飯前にもならない。データを貰ったトキさんは、あっという間に職人さんを手配して「必ず今日中に仕上げますのでご安心を」とのことだった。
では、オレは仕入に行くか。
「コタロウ行くぞ」
「にゃあ」
久しぶりにやってきたのは、もちろんマスオさんが漁業組合長を務める漁村である。サザエちゃんとワカメちゃんの故郷でもあるな。コタロウに乗れば小一時間で着くので、お手軽に来れるのだがなかなか来る機会がないものだな。
「こんにちはー」
「あ、シュウさんじゃないですかあ久しぶりです。その節はどうもありがとうございました。あれから漁もしやすくなっていっつも大漁ですよー」
漁業組合の扉を開けると、タイミングよく組合長のマスオさんが出迎えてくれる。そうか、オレが(主にコタロウがだが)ビッグバイトタートルを退治したのでそれからは平和のようだな。
「今日はどうしたんですか?」
「ちょっとお願いがありまして」
オレは、明日に出すネタを仕入れに来た旨を説明した。もちろん、首脳会議は極秘なのでダレに提供するかは内緒なのだが。
「それで、コレとコレとコレが欲しいんがありますか?」
「あ、今漁から帰って来たばっかりなので色々ありますよ」
ナイスタイミングだ。早速漁港に案内して貰おう、なるほどマスオさんも組合長とは言え現役の漁師さんだからな。毎日、漁に出てるから自然と鍛えられてこんなマッチョになったのか。
未だに目の前の日に焼けたマッチョのことをマスオさんと呼ぶのに違和感を覚えるのだが・・・
「うわあ、これはなかなか・・・」
「にゃあ!」
漁港にはありとあらゆる魚が、きれいに並んでいた。そのどれもが見ただけで新鮮で形がいい。まあ、料理人スキルによって目利きできるようになっただけでオレがそんなに詳しい訳ではないのだ。よく目がキレイな魚が新鮮だとか言うが、それはスーパーなどで買う場合であって漁港に揚がったばかりの魚はどれも新鮮でもちろん目も真っ白なのだ。後は、身の質がどうとか、脂がよく乗っているとかあるのだろうが、とにかくスキル頼りで選べば間違いはない。
「じゃあ、これとこれとこれと、ああ後コレもください」
「あ、お代は要りませんよ。シュウさんは、オレ達の恩人なのですから頂くわけにはいきません」
マスオさんは頑としてお金を受け取らない。金には困ってないから、気前よく払おうかと思ってたのだが、ヒノモト国民気質として人から受けた恩は一生忘れるなってのがあるからここはありがたく頂戴しておこう。
「あ、それとコレとコレってありますか?」
「え?それってアレの事ですよね?一体そんなものどうするんですか?」
やっぱりな、この国の人はまだウニの美味さを知らないらしいな。マスオさんに連れられて隅の方に案内される。そこには、網に引っ掛かった所謂外道の魚やウニなどが無造作に積み上げられていた。な、なんてことだ。高価なウニがあんなに一杯粗末にあつかわれているじゃないか。オレは早速ウニの殻を剥いて流水で洗い、そのオレンジ色の身をマスオさんに渡す。
「え、こんなもの食べられませんよ」
「いいから、騙されたと思って食べてみて」
普通の人ならそんな怪しいモノ絶対食べないのだろうが、マスオさんは「そんなに言うなら」と口に運ぶ。さすがヒノモト国民ってこの件はもういっか。
「う、うまい。コレめちゃくちゃ美味いじゃないですか」
「こんな美味いモノ捨てたらもったいないですよ」
同じく、捨てられていたナマコもその場で調理して手渡す。またまた半信半疑で食べるマスオさんだったが、コレもうまいうまいと食べる。これからは、こんな美味しい物を捨てないでくださいね。
そこでオレはさっきから気になっていたことを聞いてみる。
「あのー、もしかしてマジロはないんですか?」
そうなのだ。メイン食材のマジロがないのではスシネタとしては不十分だ。なんとしてもマジロはゲットしないといけないのだが、漁港のどこにもマジロがない。
「ああ、今日は取りに行ってないんですよ。でもシュウさんが必要なら今から取りに行きましょうか?」
「え?」




