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第87話 新しいスキル

元の世界には格闘ゲームと言われるものがあった。何十年も前に開発されたものであるが、進化の一途を辿り最近では一種のスポーツとして認知されているアレだ。様々な国のこれまた様々な格闘技を習得した男女が現実ではありえないような技の数々で勝負をする。



この格ゲーであるが、誰もが知っている超有名なものから聞いたこともないようなものもあり対戦相手も人間同士からロボット、動物など実に様々である。そして格闘の種類も肉弾戦あり、超能力バトルありとバラエティに富んでいる。



そう、オレの剣技はこの格ゲーを参考にアイに作成してもらったスキルなのだ。元々あまり格ゲーは得意ではなかったオレであるがアイさん謹製のこの剣術スキルには関係ないのである。何しろ、相手の動きは全てコマ送りのように見えている上にこっちの攻撃は思っただけで発動するというチートっぷりなのだ。ただ、相手を必要以上に傷つけたくないような今回のケースでは力加減ができないというデメリットがある。



ヒノモト刀を手に入れた時にオレが必要になるだろうと、アイが事前に作成してくれていたのだ。うーん、これぞ内助の功というものだろう。



「お前の剣技、魔法剣とはまた違うようだな。木刀に魔法は纏えないし一体どうやって?」

「ああ、単純に物理法則ですよ。切っ先を超音速で振り下ろして衝撃波ソニックブームを発生させているんです」



「そ、そにっくぶうむ?」


みんなは、よく分からないって表情でお互い顔を見合す。



「お前の技はいっつも難しくてオレ達には理解不能だなあ」


それでもなんとか納得してくれた。だが、質問は続く。



「おっさんの攻撃を紙一重で躱す技術は超一流の達人並なのになんで構えは素人くさいんだ?相手を油断させてるのか?」



ぐ、痛いところを突かれた。まあその通りなんだよな。アイの作ってくれたスキルだが戦闘中の構えまでは考慮されてない。まあ、実はこれには理由があるのだが。なので構えは見よう見まねでやるしかないのだ。自分では何とか様になっていると思っていたのだが、カクさんから見たら素人くさく見えるのだろう。



「まあ、そんなところです」

「そうか、さすがだな」




我ながら苦しい言い訳だが、いつものごとく3人とも特に疑問も持たずに納得してくれた。

あ、そう言えばナリヒラさんはどうなった?



「ぐー・・・」

「・・・」



ナリヒラさんは、オレの掛けてやったヒールウォーターの中で気持ちよさそうに寝ている。ほ、とりあえず人を殺めなくて良かった。いくら相手が納得済みでも人を殺しちゃったらソレを一生背負って生きて行かなくちゃならないもんな。いくらなんでも元日本人のオレにそんな覚悟は出来ていないのだ。



「とりあえず大丈夫そうですが、今日はもう無理させないほうがいいかと・・・」

「そうだな、じゃあまた明日にでも来るか」



オレ達は、刀を打ってもらうのをあきらめナリヒラさんの工房を後にする。なんのためにここまで来たのだろう?とも思うが、ガンコ職人を納得させただけでも今日はヨシとしよう。現世でも職人って人種は自分の仕事にプライドを持っている分こだわりが凄くて絶対自分の考えを曲げないイメージがあった。営業先で何度も泣かされたものだったが、一度気に入られると今度は強力な味方になってくれる。そんな経験を何度も積んでいるだけに今日のやりとりは、まあ成功と言っていいだろう。



「いやー、それにしても今日はいい経験をさせて貰ったぞ。まさかシュウがあんなに剣技が達者だとは思わなかったな」


ハチベエさんが言うとカクさんも続く。



「避け方が実にムダがない。アレは相手の攻撃を完全に見切らないとダメなんだよ。オレ達冒険者は人以外の魔獣と戦うのが日常だから、どうしてもムダに避けるクセがついちゃうんだよ。ヤツラは、自分の爪やキバに闘気や魔法を纏ってくるから完全に避けないとダメージを喰らってしまうからな。」



しきりに感心されていたが、別に意図してやった訳じゃない。完全に見切れているので楽して最小限の動きで躱しただけの事なのだ。あんまり、突っ込まれた事を聞かれるとボロが出そうになるので適当に相槌を打ちつつ話題を変える。



「そう言えば、みなさんはこれからどうされるんですか?オレは下町に用事があるんですけど」

「おう、そうか。実はオレ達も今から下町で昼飯食おうって言ってるんだ。シュウも一緒に来るか?」

「そうそう、最近の昼飯はいつもマツギュウにしているんだよ。お前もそれでいいよな?」



なんとカクさん達もマツギュウの常連さんになっていたのか、もうすっかりEDOでは定番となっているようだな。もちろん了解ですとも、オレの用事もコウノスケさんに会う事なんだからな。



散歩がてら松屋までみんなで歩いて行くことにする。



「それにしてもシュウが結婚するなら相手は、絶対アヤ姉だと思ってたんだがな・・・」



ハチベエさんの言葉に他の2人も大きく頷く。え?みんなそんな事思ってたの?



「お前いつもママの胸元や太ももをスケベな顔して見ていたからな」



なんといつもは、無口なスケさんまでそんな事を言うじゃないか!やばい、そんな風に見られていたのか?



「え?そんな顔して見ていました?」



取り繕うようにそう答えるとカクさんが、何をいまさらといった呆れ顔で続ける。



「ギルドの連中みんな知ってるぞ。お前が鼻の下伸ばしてマスターと話しているのをな」



え?周知の事実だったの?は、はずかしい。オレの淡い恋心のつもりがみんなにダダ漏れだったとは。



「もう、こうなりゃ2人目の嫁さんを貰うしかないんじゃないのか?アヤ姉も満更でもなさそうだったしさ」



ここでハチベエさんが、予想外の事を言い出す。え?なんだって?2人目の嫁さん?



「あ、あのその話もう少しくわしく・・・」

「うん?詳しくも何もそのままの意味だぞ」



なんて事だ。あまり一般的でないから気が付かなかったが、確かにヒノモト国では重婚は禁止されていない。ただほとんどする人がいないから勝手に禁止されているのだろう思っていたが言われてみれば盲点だった。







「おい、松田屋に着いたぞ」



新たな事実にオレが頭を一杯にしているといつの間にか松田屋に着いていた。するとコタロウやガル達がこんなことを言い出した。



『にゃ、ご主人様。ギュウドンは美味しいからもっと食いたいニャ』

『ご主人様、特盛2杯食べたいぜ。いや3杯でもいける』

『ボクなんか4杯でもいけるよ』

『ワタクシなど5杯でも食せますが』



なるほど、そろそろ特盛じゃあ足りないって言ってるんだな。よし、いいだろう。



「すみません、こちらは並1つとメガ盛1つ、それにキング盛を3つください」



そう、某牛丼店でやっている大盛りのレパートリーをそのまんまパクったのである。

周りを見るとそこかしこでメガ盛やキング盛を頼んでいる客がいる。あ、あそこの客なんて女性一人でキング盛食べてるぞ。どこの世界でも大食いの人って見かけによらないんだなあ。



『お腹いっぱいになったニャ』

『まあまあだな、ゲップ』

『これくらいが丁度いいね』

『おいしゅうございました』



コタロウにガル、ギル、ゴルは食べ終わって満足そうにしている。よしよしキング盛にしてやって正解だったようだな。



「それでは、また明日にナリヒラさんの工房で」

「おう」

「またな」

「ではまた明日」



店の前でカクさん達と別れる。さてと、久しぶりにコウノスケさんに会わないとな。


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