第86話 刀を打つための試練
「よーし、それではお前の太刀筋を見たいな。今からオレと手合せしてくれるか?」
するとナリヒラさんはそんな事を言い出した。なんでも刀を打つ時にその相手の事をイメージすればぴったりの刀が出来るのでそのためには一度、手合せをするのが一番いいそうなのだ。うん。さすがクリエイティブな職種の人はなんか感性が違うよね。オレみたいな芸術的な才能が全くない人間には絶対分からない感覚だ。
「はい、いいですよ」
刀を握るどころか剣道さえ習ったこともないオレであるが、突然のムチャ振りにも余裕で対応できる。実を言うととっておきの秘策があるのだ。用心深い元日本人のオレは、この世界で生き延びるために常に用意周到なのだ。
工房の裏に道場があるそうで、そこでナリヒラさんと手合せをすることになった。カクさん達もオレ達の試合に興味津々でついてくる。実は、ナリヒラさんとカクさんは同じ道場で剣の道を学んだ仲だそうで刀鍛冶となった今でも毎日の鍛錬は欠かさないとのことだ。道理で筋肉ムキムキな体をしているはずだ。
道場では師範代の位までいったそうだが、刀の魅力に取りつかれた彼は今の職を選んだのだと。
道場でナリヒラさんと対峙する。さすがに真剣はまずいので2人とも木刀を携えている。これでも当たり所が悪ければ大けがするのだが、そこはお互い承知の上だ。
「では始め」
審判役はカクさんだ。若いころに切磋琢磨してきたナリヒラさんとオレが戦うのが余程嬉しいのだろう、ノリノリで場を仕切っている。一緒にいるスケさんとハチベエさんも興味深そうに見物している。
カクさんの合図ととともに、2人とも円を描きながら相手の隙を伺う。構えはオレが中段の構え所謂正眼の構えだ。攻守に優れたオーソドックスな構えと言える。そしてナリヒラさんは上段の構え、攻撃力に優れるが防御に向かない捨身の構えだ。こいつは都合がいい。オレの実力がより分かりやすくアピールできるじゃないか。
と次の瞬間、ナリヒラさんがオレの頭上めがけて剣を振り下ろす。オレは剣先を見極め半身になって紙一重で躱す。躱されたナリヒラさんは、そのまま流れる様に剣を水平に薙ぎ払いオレの足を狙う。続けざまジャンプして躱すオレの胴体目がけて数10発の突きが襲う。
着地してすぐ態勢を整えたオレは、全ての突きに自分の木刀を合わせて余裕で迎撃する。
自分の攻撃を全て躱されたのを確認するとナリヒラさんは一歩引いて腰を低く落とす。なるほど今度は居合の構えか、色々と見せてくれる。
腰を深く落としたまますり足で距離を縮めてくる。オレは、ナリヒラさんの正中線に切っ先を向けたままその場に静止する。ほどなくしてナリヒラさんも動きを止める。そのままの距離を保ったままお互いのにらみ合いが続く。ふう、緊張するなあ。
「!?」
目の前のナリヒラさんが消えたと思った次の瞬間、オレの目の前にふっと現れる。
すでに振りぬかれた剣先が首筋に迫っているが大丈夫、反応出来ている。オレは身をよじり切っ先を避けた。そのまま2人は、間合いを取り再び対峙する。
「ふう、やはり現役の冒険者はさすがだなあ。オレの攻撃が当たる気全くしねえや」
その時、ナリヒラさんがふっと息を吐きオレに話しかけてきた。うん?降参って事かな?確かに戦闘の意思はなさそうで周りの空気が弛緩する。すると今まで黙っていたカクさんが口を挟む。
「いや、お前は今でも強いよ。だが、シュウが規格外なだけだ」
「そうそう、オレもシュウの戦うところは初めてみたがこんなに強いなんてな。ハチベエなら瞬殺されそうな強さだ」
「うん、オレなら瞬殺される・・・って何言わせんだよ!」
うわ、この国でもノリツッコミってあるんだな。まあ、それは置いといて。
「ナリヒラさん、オレに刀を打って貰えますか?」
勝負はついた。と言っていいだろう、オレの実力は認められた訳だからこれ以上試合を続ける意味はない。
「おう、と言いたいところだがな。お前の攻撃を見せてくれないか?」
ところがナリヒラさんは納得しない。うーん、まだ慣れてないからなあ。ヘタすりゃただじゃ済まないんだけど・・・
「オレの心配か?お前は甘いヤツだな。大丈夫だ、覚悟は出来ている。オレはどうなったっていい。最悪死んだとしてもお前を恨まないよ。ここにいるみんなが証人だ」
そんなオレの考えを読み取ったのだろう。ナリヒラさんは、当然のようにそう言い放つ。他の3人もうんうんと相槌を打っている。
いやいや、そんなに簡単に死ぬとか言わないでくださいよ。他の3人も止めてくれればいいのに何熱くなってるんですかー??
「でも・・・」
おれは躊躇してしまうが、みんなヒノモト国民の武士魂に火が付いたようでなんだか引っ込みが付かなくなってきた。つうか武士魂ってなんだよ?みんなバリバリの町民なのにさ。
そう、ヒノモト国民の特性がまたここで出てきたのだ。なぜかヒノモト国民はもれなく武士魂を受け継いでいるのだ。自分のプライドを重んじ勝負事には全てに於いてそれを優先させる。いつもは、ヒノモト国民のおおらかな国民性に助けられている面が大きかったが今回の特性についてはマイナスに働いているよ。もしナリヒラさんが死んだらカクさん刀打って貰えなくなるんですよー。それでもいいんですかー?
「おい、シュウ。そろそろお前の技を出してやれよ」
オレが現実逃避していると、カクさんから声を掛けられる。もう完全にオレの技の出待ち状態だ。ちなみにウィキ、じゃなかったアカシックレコードから得た情報によるとここでオレが断ったら最悪だ。ナリヒラさんはこれ以上ない辱めを受けたことになるしオレは武士(?)のメンツをつぶした極悪人となるのだ。
「じゃあ、行きますよ」
オレは覚悟を決めてナリヒラさんに向き直る。2人の距離は10メートルくらいあるか、少し距離はあるが逆にいいかも。
オレは木刀を上段に構えるとそのまま、思いっきり振り下ろす。高速で振り下ろされた剣の切っ先は音速を超え衝撃波が発生する。その衝撃波はナリヒラさんへ一直線に向かっていった。
「!?」
今まで見たこともない技が目の前で繰り出されたナリヒラさんは、対応が遅れまともにオレの技をくらってしまい派手に後方に吹っ飛ばされた。
「ちょ、大丈夫ですか?」
返事がない・・・オレは急いで駆け寄る。うん、死んではない。ただ気を失っているだけか。息はあるようだが肋骨が折れているようだな、急いで対応しないと。ヒールウォーターを掛けてやっていると、ようやく我に返ったカクさん達が駆け寄ってきた。
「おい、おっさん大丈夫か?」
「ナリヒラさんは、気を失っているだけです。息もしているし脈拍も正常なので命に別状はないかと・・・」
それを聞いてみんなほっとした表情になる。その後、見たこともない剣技についてオレは質問責めにあったのである。




