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第85話 刀鍛冶職人との出会い

「じゃあ、留守は頼んだぞ」

『にゃあ、任せてニャア』



人見知りのアイは知らない人に会いたくないそうで留守番だ、ボディガードにコジロウを置いていく。本当はガル達にも頼みたかったのだが、精霊は契約関係に厳しく召喚された時交わされた約束通りオレの傍から離れられないそうだ。まあ、EDOの街中で危険はないだろうし最強のステータスを誇るコジロウが傍にいれば全く問題ないとは思う。更にもし何かあったらすぐにオレに念話で知らせた上にコジロウの時空魔法ですぐに転移できるのだ。



我が家を後にしたオレ達はEDOの上町をハチベエさん達との待ち合わせ場所まで歩いていた。ほぼ初めて歩く上町の街並みだが整備が行き届いていてとても道が分かりやすい。学生の時歴史で習ったことだが、城下町の道路は敵から攻め込まれないよう袋小路になっているのが普通なのだ。だがこの世界では驚くことに、人と人が争ったという史実がない。つまり戦争によって攻め込まれる事を想定した街づくりをする必要がないのだ。



「あ、ハチベエさん達だ。こんにちはー」



そんな事を考えながら歩いているとハチベエさん達が姿を現す。丁度よいタイミングで現れてくれたな。いつも通りカクさんとスケさんも一緒だ。



「おう、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」



お互いの息災を喜びながら挨拶を交す。オレがゴールドランクになりカクさんがダイヤモンドランクになったお祝を冒険者ギルドでした以来だ。あれから色々な事があったので、とても時間が経ったような気がする。


「ハチベエから聞いたぞ。お前結婚したそうだな、おめでとう」

「おめでとうシュウ。お前が選ぶくらいだから、最高の女性なんだろう?」



カクさんとスケさんからも祝福される。結婚祝いというサプライズはない。当たり前だ。トキさんからは本当の意味でのサプライズプレゼントを貰ったが、そもそもこの世界には結婚祝いという概念はない。あれはトキさんがオレの世界のルールを知っていたからこその話なのだ。まあトキさんにしたって結婚祝いの相場までは、さすがに知るわけもなく半ばこじつけでオレにあの家を贈った訳だが。



「そのうち紹介しますよ。オレの奥さんはちょっと人見知りが激しいので、またそのうちにでも」

「そ、そうか?というか人見知り?ってなんだっけ?」


不思議そうにカクさんが聞く。横でスケさんとハチベエさんも首をひねっている。なんとこの世界には人見知りって言葉自体なかったらしい。



「あ、えっとみなさんの様な偉い人達に会うと緊張するから遠慮してしまうんですよ」

「へえ、オレ達なんかに気を遣う必要なんかないんだけどなあ」



3人とも不思議そうな顔をしているが特に疑問も持たなかったようで簡単に納得してくれる。これもいつもの事だ、本当にこの国の人達は人を疑うってことを知らないんだよなあ。



「お、着いたぞここだ」



そうこうしているうちに工房に着いたようだ。ハチベエさんがとある建物の前で立ち止まる。うお、何と言うかとても趣のある建物だ。




上町の一般的な建物は瓦葺でいわゆる武家屋敷と言われるものだ。現代日本においても、お金持ちや昔からある由緒のある家はこの形だ。それに対して下町の建物であるが、上町に比べたらもちろん庶民的な作りではあるのだが昔の日本みたいに長屋みたいなあばら家の集合住宅に身を寄せ合って暮らしているってこともない。みんな普通の木造の家で暮らしているのだ。



目の前の建物を見てみる。とても立派な茅葺き屋根の建物だ。オレが住んでいた日本では国の重要文化財に指定されているレベルのヤツだ。これに人が住んでいるってのか?すごいメンテナンス大変そうだな。なんて事を考えていると勝手知ったる様子のカクさんは、ずかずかと中へ入っていく。





「おーい、大将いるかい?」



すると奥から作務衣姿のこれぞガンコ職人といった風情のおっさんが現れた。年のころは50代くらいであろうか?鋭い眼光に無精ひげを生やしている。背丈は中肉中背だが日ごろから鍛えているのだろう筋肉質なガッチリとした体形だ。



「おう、カクじゃねえか。例のブツは持ってきたのか?」

「もちろんだとも、ほらアダマンタイトだ」



するとおっさんの目の色が変わる。カクさんから渡されたアダマンタイトを手に取ると真剣な眼差しで隅から隅まで観察している。そしてひとしきり観察した後に、満足気にため息を洩らした。



「さすがは、高ランクの冒険者だな。オレも久しぶりに見るレアメタルだ。待ってろよ、最高の刀にしてやるぜ」



するとカクさんは、オレの方に向き直る。

「おいシュウ、このおっさんが刀鍛冶の名匠、かのナリヒラだ。オレが冒険者駆け出しの頃からの付き合いでな、見た目通りのガンコ親父だが腕は確かだ」



続けてナリヒラさんに向き直る。



「おい、おっさん。こいつはいまEDOのギルドで最も注目されている冒険者のシュウだ。おれなんか及びもつかないくらいの凄い才能の持ち主なんだ。なんとこのアダマンタイトもシュウが獲ってきたんだぜ。更にこいつは、ヒヒイロカネも今日持ってきているんだ」



うわーカクさん、そんな紹介されるとハードル上がるんだけどなあ。オレみたいな元小市民からするとこの様な過分な褒め言葉は負担にしかならないのだ。ナリヒラさんは、オレの方をじっと見ている。ヤバイなんか怒ってないか?



「おいおいおいマジかよ?ヒヒイロカネ持ってるのか?ちょっと見せてくれよ」



ところが、次のナリヒラさんのリアクションは予想を裏切るものだった。まるで子供が欲しいオモチャを目の前にしているようなキラキラした目でオレを見つめてきたのだ。50くらいのいかついおっさんからつぶらな瞳で見つめられ身の危険を感じたオレは慌ててアイテムボックスからヒヒイロカネを取り出す。



「うわ、これマジだ。お前すっげえな、長年刀鍛冶やってるけどこんなの初めて見るぞ」



こうしてガンコで気難しそうに見えた鍛冶職人のナリヒラさんとあっさり打ち解けることが出来たのだった。


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