第98話 ダンジョン攻略へ
「アイ大丈夫?乗り物酔いとかしてない?」
「うん。めっちゃ快適だよー」
首脳会議を含む諸々の用事を済ませたオレ達はかねてより計画していたダンジョン攻略へ乗り出すことになった。師匠へ報告すると「まあ、これも修行になるからいいだろ」とあっさり許された。今はアイと一緒にコタロウの背中に乗って移動中だ。一緒にコジロウ、ガル、ギル、ゴルも乗っている。コジロウの時空魔法を使えば目的地まで一瞬で移動できるのだが「遠足は目的地に着くまでも遠足やろ?」と訳の分からない理論に妙に納得させられ今の状況に至る。
まあ、今のコタロウなら神速スキル使えばあっという間に着くのだが、それも味気ないということでゆっくり目のスピードで移動している。ドライブ気分を味わうのも冒険のうちなのだ。
オレは周りの景色を見ながら、この世界に転移してきたばかりの事を思いだしていた。人里離れた山奥に転移してサバイバル生活をした数か月、確かに苦労もあったが今となっては良い事しか思い出さない。初めて森ネズミを仕留めて調理して食べた事、ベースキャンプを作り周囲を探索した事、生活必需品をDIYした事、正直魔法とスキルの力も大きかったしサバイバルするには考えられないくらい整った環境であったのだが、一番良かったのはコタロウが一緒にいてくれたお陰なのは間違いない。もし、オレ一人でこんな異世界に飛ばされていたらと思うとゾッとするな。コタロウがいなかったら最初に戦った山グリズリーにも勝てなかっただろうし本当にコタロウがいて良かった。
そしてコタロウと一緒にコジロウをこちらに召喚できた。それを全面的に支えてくれたのは・・・
「うん?どうしたと?」
物思いに耽っていると、アイが不思議そうにオレの顔を覗き込む。
「うん。この世界にきたばかりの事を思いだしていてね。アイがいてくれて本当に良かったなーって」
するとアイはすっごく嬉しそうににっこりと笑う。もう後光が差すレベルの映画のクライマックスのワンシーン並の笑顔だ。それを見ながら、とんでもない美少女と結婚したんだなあとつくづく再認識するのだった。
途中で一旦休憩を入れる。EDOから赤木が原へはずうっと街道が続いているのだが、旅人たちが途中で休憩できるようにちょっとした休憩所が至る所に設けてあるのだ。休憩所とは言っても建物があれば良い方で大抵はちょっとした空き地になっているだけなのだが。まあ、高速道路でいうところのパーキングエリアのようなものだな。
オレ達は、空き地に巨大な絨毯を敷いてその上でピクニックを楽しむことにした。通常はレジャーシートを敷くのが相場なのだろうがトキさんの店から仕入れた職人が手織りで編んだお高い絨毯なのだ。幸い天気は快晴で気温も丁度よく、まさに行楽日和である。
オレとコタロウ、コジロウはいつもの牛丼だ。前は遠出をするときの定番だったが、最近食べてなかったからな。牛丼ってたまに食べたくなるんだよな。
そしてアイ達は、ラーメンを食べている。ラーメン初体験のアイはとっても美味しそうにずるずると食べている。ところが食べ終わってから「とっても美味しかったけど、ちょっと醤油が強いかなあ。ウチはもっとこのトンコツ風味が強い方が好いとう」と言い出した。薄々気づいてはいたのだがやはり、アイはトンコツ派だった。コウノスケさんと相談してトンコツも出すようにしよう。トンコツラーメンはこくのあるスープ作りが難しい。作り方自体はシンプルなのだが、それだけにごまかしが効かないのだ。だがまあ、コウノスケさんにかかればその辺の調整は十分可能であろう。
腹いっぱいになったら、少し休憩してまた出発する。コタロウも全然疲れていない。今のコタロウなら全力で一日中走り回れるくらいの体力があるので当然だ。
『着いたニャ』
赤木が原に着いた。久しぶりだが、相変わらず鬱蒼と茂った森が見渡す限り広がっている。ダンジョンは別の方角になるのだが、オレ達は一先ず以前のベースキャンプをしていた場所に行くことにした。オレとコタロウの思い出の場所だし、アイも行きたいと言ってくれた。アイ以外は、コタロウから降りて徒歩で進む。元いた世界では、樹海に入り込んだら自分の場所が分からなくなり迷子になってしまうとよく聞いてたが、全くそんなことはなく迷いなくサクサク目的地へと進める。ほどなくしてオレ達が寝泊まりしていたベースキャンプに着いた。
「うわあ、懐かしいなあ」
「にゃあ」
オレとコタロウが一緒に住んでいたウロがある大きな木だ。周りには焚き木の跡や調理した痕跡の数々が残っている。オレは嬉しくなってウロの中を覗きこんでみた。
「?!」
ウロの中は森ネズミの巣となっていた。中には何十匹もの森ネズミがびっしりと重なり合っている。そんな森ネズミ達は突然の侵入者であるオレの方を不安げな目で見つめている。
そうか、中にはお前たちの毛皮を敷き詰めているから居心地がいいもんな。おまけにオレ達の生活していた痕跡があるから、獣が警戒して近づかないし、こいつらからしたら絶好の隠れ場所なのだろう。こいつらは、最初に貴重なタンパク源になって貰った他にも毛皮も提供して貰ったしそれどころかレベル上げにも貢献してくれたな。向こうからするととんだ災難だったろうが、オレ達はこいつらにも随分助けられたんだよなあ。
「にゃあ」
オレの横でウロの中を覗きこんでいたコタロウも、同じ気持ちなのか2人ともそっとその場を離れた。
「もう良かった?」
周りを物珍しげに見回していたアイは、戻ってきたオレに声を掛ける。コジロウやガル、ギル、ゴル達も待ってくれている。
「うん、懐かしかったけど、もうここはオレのいる場所じゃない。さあ、ダンジョンに行こう」




