h.卒業式
穏やかな日差しが降り注ぐ、雲一つ無い春の日に、私たちは高校の卒業式を迎えた。
大部分の同級生がエスカレーター式に同じ大学へ進学するので、卒業といっても雰囲気はそれほど湿っぽくない。とはいえ、大学には一学年に何百人という人数がいるし、学部によって校舎も違うので、環境は大きく変わるだろう。
高校生活の終わりを迎え、教室という空間で毎日一緒に過ごした生徒たちの間には、家族的な温かさと別れの名残惜しさが漂っていた。
講堂で卒業証書の授与が行われた後、各クラスで最後のホームルームがあって、そのまま記念撮影へと流れた。そのうちにクラスも入り乱れ、私も隣のクラスで部活の子たちと一緒に写真を撮っていた。
「ねえねえ写真撮ってくれる?人数多くて申し訳ないんだけど。」
佐奈が後ろにいた男子に声をかけてシャッターをお願いする。
「いいよ」
私もお礼を言おうと振り返ると、佐奈と仲の良い男子がいて、その隣には思いがけずヤツがいた。
スゴイ、制服のボタンが見事に全部無い。
一瞬目が合ったような気もするけど、一方的に後ろめたさを感じる私はなるべくそっちに目を向けないようにして、撮ってくれる男子にお礼を言ってカメラを渡した。
何度目かの「はいチーズ」の後、
「あれ?このカメラ設定が…」と言う男子が持っているのは、私のカメラ。
「ごめんごめん」と謝りながら設定を直し、再度撮ってもらう。
「えっ」
その場で撮った写真を確認すると、ピースをして笑う私の頭の上ににょきっとツノみたいに二本の指がのぞいていた。
・・・私の後ろにいたのは一人だけ。
しかも他のコのカメラで確認するとそんなツノどこにも無い。
思わずヤツの方を見ると、なにもなかったかのような様子で友達と話している。
意味なんてない冗談なんだろう、たまたま私の頭にきまぐれなピースが重なっただけなんだろうと思った。
けど、心の奥底では、突然態度が悪くなった私へのからかい交じりのメッセージなんじゃないだろうかって勝手に考えてる自分もいた。
なんともいえないもどかしい気持ちと一抹の寂しさ、そしてほんの少しの期待感を抱えたまま、その日私は高校を卒業したのだった。