初日の夜
春先でも、夜は少し肌寒い。帝都のメインストリートの一角、待ち合わせをする人が多い帝都前噴水広場の噴水のふちに腰かけてセイは空を眺めていた。寒さは感じない。痛覚と一緒にどこかに置き忘れてしまったのだ。帝国騎士団の服を着ているセイは目立つ。
「あ、いたいた。皆~、第六卿いたよ。」
そんなセイに声をかけてきたのは見覚えのある女性の声だった。
「皆さん、もうお集まりでしたか。」
「うん、そうだよー。じゃあみんな集まったし行こうか。」
「はい。」
ここにいるのは騎士学園一年の担任達だ。どうやら、担任達は節目節目に一緒に飲むのが習わしらしい。そうして、向かったのは蒼龍亭と呼ばれる居酒屋だ。どうやらリングの行きつけのお店らしい。
「いらっしゃーい。お、リングじゃないか。予約の部屋は開いてるよ。」
「あ、ありがとう。じゃあみんなー、宴会しようか!」
「宴会?」
不思議そうにセイが呟いたのを見て露骨にルスタが驚いた顔をした。
「第六卿、もしかして宴会知らない?」
「いえ、知らないわけではないのですが、、、戦場では勝利の後にやる物でしたので何に勝ったのか疑問に思いまして。」
その返しをきいてザントが大笑いをし始めた。
「ハッハッハ、ここは戦場じゃないんですよ。だから、疲れたからって言う理由で宴会をすることもあるんですよ。」
「そんなものなんですか。」
「そんなもんなんですよ。ふつうは。」
いつの間にか手元にあったエールをあおりながらザントは答える。その言葉にルスタが相槌を打つ。ルスタの手元にもいつの間にかエールがあった。どうやらリングが頼んでいるようでジャインの手元にもエールがあった。
しかし一方、自分の手元には琥珀色の液体が置かれていた。首を傾げる。ガラスのグラスに何か棒状のものが突き刺されている。真ん中に穴が開いている。吹き矢か何かだろうか。
「セイ君、どうかしたの?」
「いえ、これが何か気になって。少なくともエールではないので。」
「それはリンゴジュースっていうんだよ。見たことない?」
「ない、ですね。」
その回答に全員が目を丸くする。
「え、皇国戦線で何食べてたの?」
「リュースを。」
「えっ!」
ジャインが珍しく大声をあげた。
「ん?ジャイン。リュースってのが何か知ってるのか?」
「知ってるも何も、世界で一番まずい戦闘糧食ですよ。」
「ふーん、どういう味なの?」
「とにかく酷い味だってことしか知りません。食べた人はまず過ぎてすぐに吐き出しますから。」
「えぇ~、食事中にそんな話しないでよ。」
唐揚げを食べていたリングが顔を上げて言う。その周りにはかなりの数の皿が積まれている。エールもかなりの数おかれているのでかなり飲んだのだろうと予想されるが本人はケロッとしている。ザントとルスタは顔を赤くしてギャーギャー言い合っている。
「リンゴジュースか。」
琥珀色のリンゴジュースを眺めながらつぶやく。視界の中ではエールと肴を驚異的な速度で食べているリングがいる。その隣では顔を赤くして言い争っているザントとルスタとそれをおどおどしながらジャインが止めようとしている。
(あぁ、ここにいると鈍る気がするなぁ。)
両手で抱えるように持ったリンゴジュースのグラスに直接口をつけ、傾けて一口飲みこんだ。
(何というか理解できない味だな。)
次の日、セイは猛烈な腹痛に襲われた。
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